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上手な甘え方

「ところで安住さんは何故、自衛隊を志したんですか?」

 何となく二人の関係が落ち着いたところで、何となくそんな事を聞いてしまった。

「何故? そうだなあ・・・。別に使命感に燃えてとかそんなんじゃなくて、とにかく昔っからなりたかったんだよ自衛官に。知っての通り実家は寺でオヤジは殺生をする職業なんて認めないってんで未だに認めてくれてないけどな」

 子供時代から真っ直ぐ夢に向かって走るというのも、安住さんらしいと感じた。

「初志貫徹ってやつですか、凄いですね」

 素直な感想を述べたのに少し照れた笑みを安住さんは浮かべる。

「確かになかなか思うような仕事につけないって愚痴っている級友とか見ていると、自分がなりたいって思っていた職につけたことは凄くラッキーだったとは思う。そう言えば、そっちも就職活動中だっけ?」

 やはり、その流れだとそう聞かれるのは当然だろう。安住さんか、あまりにも普通に聞いてきたから、俺も普通に素直に答える。

「はい。でもなかなか。最終面接までいくんですが」

 安住さんは俺の顔見て首を少し傾げる。

「ふーん。俺と違ってそういう面接官のウケ良さそうに見えるけどな」

 良い子には見えるのが俺というキャラクター。『良い』はともかく『子』は卒業しなければならない。

「でも、理由は何となく分かるんですよね。熱意を感じないのでしょうね、俺に。その企業に何が何でも働きたいという想いが見えないから最終選考で落とされるんだと思います」

 大学卒業してから、就職活動についてとか、自己分析とか、友達と交わす事もなかった。それだけに殆ど初対面とも言うべき安住さんにそんな事語った自分に驚く。

 安住さんも、就職浪人の俺に変に気を使う様子もなく『ふーん』と言ってスムージーをズズーとストローで啜る。

「何かやりたい事とかないのか?」

 シンプルだけと、今の俺には難しい質問を直球で聞いてくる。

「それが無かったから大人になって慌てて探している状態なんでしょうね。モラトリアム状態?」

 不思議な人だなと思う。多分素の感情で人と接する人なのだろう。だから俺もつい素で返してしまう。

「いいんじゃね、それで。見つけるのが早いか遅いかってだけの違いだろうし。俺はたまたまやりたいことを見つけるのが早かったってだけで。そのかわり今は地獄の一丁目に立っている気分だけどな」

 この人の言葉は、理論的滅茶苦茶だけど納得できて、自分の今の状況もたいした事ではないように思えてくる。気がつけば笑っていた。

「でもさ、本当にやりたいことだからこそ頑張れるんだ。だから東明君も焦って妥協するよりも、とことん自分のやりたいことを探せば良いんじゃないのか?と俺は思う」

 『やりたい事か……』本当に俺に見つかるのだろうか?

「そうなんですかね……」

「そうなんだよ」

 自信無げに答える俺に、明るく即効そう答えてくる。

「安住さんが言うと、本当にそんな気がしてきました」

「気がしてきたんじゃなくて、そうなんだって。これ、兄貴の受け売りだから間違いない」

 元気にそう言い切る安住さん。なんか色んな意味で心が軽くなった。人をなんか元気にしてくれる方である。そう言えばキーボ君二号の頭に載った赤いのは『夢』だったと思い出す。

 そんな事話していたら、安住さんのジョッキが空なのに気がつく。結構量あったと思うのに……飲みきるなんてと少し感動する。しかしあんなに、ネットリしたの黒猫(ウチ)のスムージーだと思われるのも悲しい。

「あっ、グラス空ですね。次なに飲みます? 果樹園スムージーとか、フォレストスムージーにとか、南国スムージー、北国スムージーとかもありますけど」

 そう声かけると、安住さんは少し悩む。

「もしかしてスムージー縛り?」

 流石にスムージーだけだと身体が冷えてしまいそうだ。暖かいモノを食べて貰わないと。

「いえいえ! 何でも好きなの言って下さい。あっそろそろ焼きたてのキッシュも出来る筈ですし」

 俺はノンアルコールのメニューと料理のメニューを渡す。そのタイミングで澄さんが自宅のキッチンで焼いてきた料理をもって黒猫にやって来る。

「あら、安住くん来てたのね~

 今日は大活躍だったんだって? 偉いわね~」

 朗らかに子供に話しかけるように声かけてくる澄さんに、明るく返事する安住さん。

「頑張った安住に、特別ご馳走しちゃう」

 そう言いながら出来立てのキッシュやミートパイを皿に盛り付け渡す澄さん。安住さんはそれを、満面の笑みで受けとる。

「うぉ~♪ 旨そう! 頂きます」

 先日『とうてつ』の籐子女将の言うところの甘え方、安住さん見ていると分かったような気がした。

「うま~♪ ママの料理最高♪

 昔作ってくれたカボチャとベーコンのパイも旨かった♪ また、食いたいな~」

 そんな言葉に、澄さんはフフと笑う。

「今、カボチャの美味しい季節じゃないけど、明日でも作ってあげる」

「まじ? 嬉しい! ありがとう♪」

 変な遠慮はしないで、行為を素直に受け取り、感情をストレートに相手に見せる。そう言う面は見習わねばと、そのやり取りを見て思った。

 安住さんは、楽しく会話を楽しみ、料理をたらふく食べ、お酒は一切飲まずジュースやスムージーだけを飲んで満足したのかスツールから立ち上がりポケットから財布を出す。『良いのに』という澄さんに、『飲み物代だけでも払わせてよ!』と返し数枚のお札を置いていく。

「あっ安住さん!」

 帰ろうとするその姿を呼び止める。

「ん?」

 振り向く安住さんに、俺は笑いかける。

「送りますますよ!」

「え?」

 目を丸くするので、補足の説明を加える事にする。男が男を送るというのも変だと思われただろう。

「ウチにも台車ありますから、お寺まで運びますけど!」

「い、いやいやいやいや大丈夫だから! 一人で帰れるから! あっありがとう! でも大丈夫」

 安住さんは何故か遠慮してそそくさと帰ってしまった。


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