俺達の勲章
「二号だけかと思ったら一号君もなの? 二号の真似はしちゃ駄目って誰かに言われなかった?」
俺と二号さんはベンチにて二人仲良く並んで婦警の京子さんに怒られている。万引き犯は駆けつけた派出所の真田さん確保した事で事件は無事解決したが、着ぐるみ二体が押し倒して捕獲というのはやや乱暴で手放しで褒められる事ではないようだ。しかし大勢のやじうまの前で婦警さんに叱られるマスコットってどうなのだろうか? 申し訳ないという気持ちを精一杯表現する為に、少しうつむき加減のポーズで京子さんのお叱りの言葉を受けることにした。ウンウンと頷いて聞くのも、バカにしていると取られそうだ。そっと隣を窺うと、二号さんは背筋を伸ばし京子さんを真っすぐ見上げ聞いている。自衛隊においては正しいポーズなのだろうが、顔が二号さんなのでニッカリと笑っている顔なので緊迫感もあったものではない。
「いえ、その、真似っていうか転んでしまって……」
決して真似した訳ではなく、半分は偶然の事故だった事を説明する事にするが。隣の二号さんの身体がピクリと動く。その動きにつられ視線を向けると、二号さんもコチラを見ていて目が合う。何でだろうか? 二号さんの目が妙に輝いて見えるのは。
「そうだよ、俺も驚いて転んだんだよ。な、一号?」
身体を左右に揺らし、『な、な、な、なッ!!』と同意を求めてくる。なんで二号さんの感情ってこうも、着ぐるみを突き抜けコチラに伝わってくるのだろうか? きっとそれは俺にだけでなく、絶対周りの皆に伝わってると思う。良い口実見つけたと喜んでいる事が。
「え、ああ、そうです、俺も二号さんも騒ぎに驚いて転んでしまって。そしたらたまたまさっきの人が下にいたっていうか……」
二号さんの迫力に負けてそう続けてしまう俺。その様子を見て大きなため息をつく京子さん。
「つまりは、二人揃ってタイミングよく転んだ時に、これまたタイミングよく?さっきの万引き犯が下にいたってわけ?」
「そうです」「……そうです……」
細めた京子さんの目を見ると、もう実情はバレバレなのだろう。
「まったくもう……」
京子さんは頭に手をやり、頭を横に振る。
「あ、京子」
「なによ」
二号さんの問いかけに、キツメの声で答える京子さん。二号さんすごく睨んでいますよ!
「篠宮のおっさんちに電話して台車の派遣頼んでくれ」
京子さんは首を傾げ、二号さんに顔を近づける。そして二人で何やら話をしている。なんやかんや言って恋人同士だけあり仲が良い。そして再びやってきた台車に載せられ二号さんは商店街を凱旋パレードのように移動する。俺は隣で京子さんの小言を聞きながら一緒に歩くことになった。
中央広場に戻った時、俺達の所に商店街の人が集まってくる。
「キー坊、二号は兎も角、一号は良くやったよ!」
ニヤニヤしながらも、二人をバンバン叩き褒めてくれる燗さん。
「いや~、捕まえてくれて助かったよ! アイツ今回が初めてじゃないんだよ! だから今日あ何が何でも捕まえたくて――」
浅野さんもニコニコとそんな事を言ってくれた。
喫茶店『トムトム』の孝子さんが人込みを押しのけ近づいてくる。
「なんだ?」
それに気が付いた二号さんが孝子さんに声かける。
「紬さんがね、これ二人にって」
そう言ってコチラに出した手に二枚の金色のモノが載せられている
「あ、いい子メダルだ」
俺がそう言うと、二号さんは首を傾げコチラを見つめてくる。
「いい子メダル?」
「言葉通りのメダルでたまに紬さんがくれるんですよ。集めたらいいことがあるらしいです」
時々俺の時、キーボ君の時関わらず、呼び止めてくれるメダルである。実はこないだもらったメダルがまだキーボくんの内ポケットに数枚入っている。
「へえ……俺達の勲章みたいなもんか」
『俺達』という言葉がなんかくすぐったかった。
「それと、これは孝子からのご褒美」
もう片方の手にクッキーをもって二号さんに示す。
「へえ……美味そうじゃん」
そう会話を返す二号さんから、喫茶店の方に視線を向けると紬さんが孝子さんを指さし何故か手でバッテンを作り俺に何かを訴えていた。
「ん? 一号は食べないのか?」
なんでだかわからないけれど、孝子さんが俺にお菓子をくれた事が今までもあったけれど、それを喫茶店の面々が慌てたように回収していってしまって食べられた事がない。
「俺は……」
ニッコリそう笑い、二号さんの背中のチャックを開けてを突っ込む孝子さん。
「恭一君、食べてみて」
「おう」
そんな会話が交わされるけれど、喫茶店から誰かが飛び出してきてお菓子を回収する気配がない。するといきなり二号さんが大きく震え、俺はビクリとしてしまう。一瞬二号さんが爆発したかのように見えた。
「にっがぁぁぁぁ!! たかぁこぉぉぉぉ! これ何いれて作ったんだぁぁぁ!! よもぎかぁぁぁ?!」
「あれえ?」
そんな謎の会話が交わされる。でもヨモギ味でも別にクッキーとしてそんなに変とは思えない。それにクッキーが苦いって? 何があったのだろうか?
「あれえじゃねーよ! おい一号、お前、知ってたな?!」
こっちをキッと睨むように見つめてくる二号さんに俺は手を前に横にふり必死で否定する。
「え? いや、なんでしょう、俺は食べる機会が今まで無かったので……」
俺の話を最後まで聞くこともなく二号さんは叫びながら喫茶店の方に走って消えていった。
孝子さんをみると、コチラを見てテヘヘっと可愛く笑ったけれど、その笑みが少し怖く見えたのは俺だけだったのだろうか?




