初めての共同作業
篠宮酒店の倉庫前で燗さんが笑顔で待っていた。二号はそんな燗さんに近付き頭突をしてじゃれる。
「まったく、おめーは昔から変わらん奴だな。一号、こいつの真似だけはするなよ、バカがうつるぞ」
あの動きを真似なんて無理です。俺は頷いておくが、燗さんの俺に対してニヤリと笑った表情は『お前も俺にぶつかってこいゃ~』と言っているようにも見えたが、そんな筈はないし、俺が頭突きしたら燗さんも驚くだろう。俺は首を横に振る。
「うつるかっ、行くぞ、一号! おっさんの近くにいる方がバカがうつる」
一号が俺の手を握り掴むとそのまま商店街中央広場方面歩き出す。
「あら、一号ちゃんと二号ちゃん仲良くお出掛けかい?」
声をかけてきたのは櫻花庵の婆ちゃん。まるで小さい子に『今日はお兄ちゃんと一緒なの、良かったね~』と言っているような感じ。
「櫻花庵のわらび餅、食ったことあるか?」
櫻花庵さんの挨拶に元気に答えた後、二号さんは俺にそう話しかけてくる。
「いえ、まだです」
「手作りで出来立てはすっげー美味いから一度買いに行ってみな」
「へえ」
そう答えると『ホント絶品だからよ』とビックスマイルで続けた。もともと一号より二号の方が口の開き方が大きくヤンチャっぽい。そしてこうして話していると、それが素の表情に見えてくるから不思議である。
盛繁ミートの丑さんが『今日は両キーボ君揃い踏みか~』言って来たり、『トムトム』の紬さんは『今日は二人で遊ぶのね♪ 二人で揃った姿が可愛いわ~♪』といった言葉をかけてきたり、思った以上にキーボ君二人? 二体? での行動に商店街が沸いている。皆さんにこんなに喜んで頂ける事だったのなら、いじけてなくてもっと一緒に顔出せば良かったと反省。
二号さんも楽しいのか、鼻歌まで飛び出している。本当に自由な方である。
「あの二号さん、俺達、マスコットだから歌声は……」
商店街の中の人を知っている身内ならば会話しても良いけれど、流石に声出しっぱなしというのはマスコットとして不味いだろう。
「細かい事気にするなって♪ 何なら大声で歌ってやってもいいぞ?」
「遠慮します」
細かいどころか、かなり大きい部分も二号さんには気にならないようだ。鼻歌歌いながらルンルン♪ といった様子で歩いている。男同士手つないだまま歩くのは、そんなに嬉しい事にも思えないのだが、二号さんは楽しいようだ。繋いだ手を揺らしている。でもその楽しげな姿を見ていると、俺も楽しい気ごしてくる。ついニヤニヤと笑ってしまった。着ぐるみで表情が見えなくて幸いだ。多分生身のままだと、大の大人の男性二人が手を繋いで楽しげに歩いている様子は異様だろうから。
視線を感じてソチラを見ると、『とうてつ』の前で籐子さんかコチラをみて嬉しそうに笑って手を降っていた。俺は声は出さず頭を下げ籐子さんに挨拶した。
「万引きだーその男捕まえてくれ」
そんな声が商店街に響いた。
『Books大矢』から飛び出してきた若い男がコチラに向かって走ってくる。店長さん浅野さんがその男に向かって大声で叫んでいる。
足を止めてしまった俺、手を離し少し腰を落としてから万引き犯人に突進していく二号さん。一瞬で駆け寄りそのままの勢いを生かしジャンプして犯人を押し倒す。一瞬の事だった。
「このっ、おとなしくしろっつーのっ」
取り押さえられも尚も逃げようとする男にの上で、二号さんが低い声で恫喝しながら必至に短い手足でバタバタしている。
安住さんならば大丈夫でも、キーボ君だと一人の男を捕まえ続けるのは大変そうだ。
「おい一号、ちょっと手伝えっ」
どうしようかと迷っていると、二号さんに助けを求められる
「あ、はい」
返事して踏み出すもののどう手伝えば良いのか、解らない。しかも緊急事態にキーボ君を着ていた事を忘れていて、思ったよりも重かった身体によろけてしまう。その前方に二号さんの下から這い出でようとしている男。しかし身体のコントロールが効かずヨロヨロと移動する俺。
情けなくもスッ転ぶが、柔らかいモノの上に転けたようで、全く痛くない。その直後沸き起こった歓声が、キーボ君の中の青色の空間まで響いてきた。しかしその歓声に応えられるわけもなく、恐らく犯人の身体の上と思われる所で静かに横たわっていた。




