青い兄弟
二号さんはブニっと入口に体を入れ込み俺の方に近づいてくる。
「よう一号、そろそろ時間だぞ、準備しろ」
状況がまったく掴めない俺の頭に今さらのようにこの言葉が届く。
「え?」
間抜けな声を思わずあげる俺。
「え? じゃねーよ。せっかく一号二号で兄弟キャラなんだから一緒に楽しまなきゃダメだろ。あ、猫ママ」
二号さんは体を動かし、俺の後ろに視線を動かす。澄さんが近づいてくる気配がした。
「急なんですが一号の中の人、緊急出動よろしいですか?」
そう言い可愛く身体を傾ける。
「あらまあ~、わざわざお迎えに?」
澄さんはニコニコと二号さんに答えている。まるで小学生の息子のお友達が学校に一緒に行こうと誘いに来たのを迎えるかのようなノリである。
「だったら上で待っていてくれる? さすがに三人で上には上がれないから」
二号さんは澄さんの言葉に右手を少しあげ小さく曲げる。
「了解です」
たぶん敬礼しているつもりなのだろう。『二号くんも待っているから、急がないとね』と澄さんに促されて俺は三階へと上る事にする。いまいち状況が掴めないままキーボ君を着て裏の駐車場に行くと、そこにはキーボ君だけでなく、篠宮酒店の息子さん醸さんの姿もあった。約束した訳ではないけれど、二人を待たせてしまったのは事実なので二人にお辞儀する。
「遅いぞー、いくぞ、兄貴っ!」
二号さんがブンブンと待ちきれないと言わんばかりに俺に手を振ってくる。でも兄貴って? 中の安住さんの方が明らかに年上だと思う。
「……俺、兄貴ですか?」
「だって一号だろ? 普通は一号が兄、二号が弟だと思うけど。ねえ醸さん」
エッヘンという感じで二号さんが答え醸さんに同意を求める。そう言う設定いつ出来たのだろうか?
それにしても、なんでだろうか? 同じ着ぐるみだと思うのに、二号さんはスゴく表情がある。着ぐるみというか、キーボ君二号と話しているような錯覚をおこす。
「そうだな……それに多分、実際の中の人の年齢もそうだと思う」
「えっ?!」「えっ?」
顎に手をやり、醸さんが言ってくる言葉に俺は思わず声を上げてしまう。すると隣の二号さんからも同じような声が聞こえた。
同じ反応を見せた俺達を見て、醸さんが吹き出す。
「やっぱ兄弟だな、変なところでシンクロしていて面白いぞ、一号と二号って」
全く似てないと思うのに、醸さんはそんな事を言う。まあ着ぐるみきてしまえば、ソックリなのは確かかもしれない。
「そうっすか? ま、お互いの歳のことはま改めて話し合おう、一号」
二号さんはいち早く我に返ったようで、俺の肩に手をやりそんな事を言ってくる。
「はあ……」
歳の事ってこれ以上話し合う必要なんてないと思うのだが……。どう話し合っても二人の年齢は変わらない。何についてどう話し合おうと思っているのだろうか? そんな事考えている俺を二号さんが『行くぞ~!』と促す。
未だに状況についていけていない俺は、二人について裏通りから駅方面に歩向かう。二号さんはなぜか醸さんの押す台車に乗ってご機嫌な様子。
「あのさあ、俺に遠慮して出ないとか無しだからな? 俺が戻ってこれない時にピンで出るのは仕方がないとして、二人揃ってる時にせっかく一号二号でセットにされてるのを片割れしか出ないって何だかおかしいだろ?」
そして台車の上から、俺に対して説教が始まる。
「はあ……」
何故二号さんが誘いに来たのか、その理由が見えてくる。二号さんからしてみたら、帰ってきたら全て丸投げというのも腹立たしいだろう。二号さんに申し訳なくなり反省する。そして一緒に楽しもうという彼の気持ちは嬉しかった。しかし着ぐるみで怒られるという事は、こちらの態度や表情が相手に見えず真面目に聞いていないかのように見えているのかもしれない。二号さんの声も熱が上がっていく。
逆に二号さんも、口調とキーボ君のキャラが合ってなくて、どこか恍けた光景になっている。二号さんは気がついていないようで、台車の上にチョコンと座りながら大真面目にお説教を続ける。
「はあじゃないだろ。兄貴ならもっとシャキッとしろシャキッと」
短い手をブンブンふり熱弁している姿がなんとも妙である。
「恭一、口調が仕事モードになってる」
そんな二号さんと俺に、醸さんがおかしそうに笑いそう指摘する。すると背筋をピッと伸ばし、その後恐縮したように、醸さんに頭を下げる
「あー……すみません」
不覚にも、そう言うキーボ君が可愛く見える。そう言う仕種をみると、年下という事にも納得してしまった。




