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×××××シリーズ

近くて遠いヒト

作者: 浜木綿


 00



 オレンジピールチョコレート。



 01



「……はぁ」


 私は×××××くんが好きだ。


 理由もきっかけも良く分からない、でも好き。その気持ちだけは確かだと言える。誇れる。胸を張って、自信を持って、心の底から。


 ただひとつ、問題がある。


「告白…………」


 私は人付き合いがあまり上手ではない。人と話すのもあまり得意ではないので、いつも無口になってしまう。そんな私としては、×××××くんと友達になれただけですごいことなのだ。


 そんな私が告白。愛の告白。


 いつまでも友達としての関係のまま、ぬるま湯い関係のままでもいいんだけど。私だって女の子だ。好きな人と付き合いたい。

 けど、そうなるためには告白しなきゃならない。まさか×××××くんの方から告白してくるなんてこと、あり得ないし。


 だから、私は今悩んでいる。猛烈に壮絶に激烈に。


「×××××くん…………好き……」




 02



 次の日になり、学校へ登校。


「おはよう……×××××くん」

「おはよー、×××××ちゃん!」


 ×××××くんだ。正直、×××××くんと挨拶するだけで心がぽかぽかする。


「×××××くん……今日はちゃんと宿題やってきた?」

「あっ! やべっ、やってねぇ! しかも数学じゃん、先生めちゃくちゃ怖いのに!」


 ×××××くんはめんどくさがりで、宿題とか全然やってこない。今、やべっとか言っていたけどきちんとやってきたことは一度もない。


「×××××ちゃんゴメン! 写させて!」

「まったく……×××××くんは……」


 私もまったく、とか怒っているふりをしているけど、本当はうきうきしている。


「しかたないから……見せてあげる」


 こんな言い方しなくてもいいんだけど何となく。こういうのツンデレって言うんだっけ。よく知らないけど。


「うおー! ありがと×××××ちゃん! 助かったぁ」

「えへへ……どういたしまして……」


 そして昼休み。

 ×××××君が話しかけてきた。


「ふいー、×××××ちゃんのおかげで何とか助かったぜ。ホント頼れるなぁ……頼れる……」


 ……ん? ×××××くんが珍しく真剣な顔をしている。珍しく、だなんて失礼だけど。


「ね、ねぇ……×××××ちゃん」

「なに……?」

「放課後、ちょっと体育館裏来て。相談したいことがあるんだ」


 へ?


「おっと、こんな時間だ! 早く購買行かないと売り切れちまう! じゃ、×××××ちゃんバイバイ!」


 ちょ、えっ? 待って今のって、え?

 放課後に? 体育館裏? 真剣な顔して言って?

 もしかして、もしかして……告白……とか。


 絶対あり得ないと思っていたのに。あり得るはずがないと思っていたのに。


「期待して……いいの、かなっ……」


 ×××××くんと、両想い。



 03



 突然の出来事に混乱、歓喜して放課後まで何も手に

 着かなかった。

 言われたとおりに体育館裏で待つ。


「…………」


 落ち着かない。

 そわそわしていて、きょろきょろしていて、私、今最高に挙動不審だ。

 リラックス、リラックス……私。


「あ……×××××ちゃん、ごめん待たせちゃって」

「……ひぅ!」


 変な声が出た。とはいえやっと×××××くんが来た。


「そ、それで……話っていうのは……」

「うん…………」


 やけに勿体ぶる。私も緊張してしまう。


「話って言うのは」


 ×××××くんの顔は紅潮し、所謂『そう言う雰囲気』が漂っている。

 ×××××君は決心したように口を開く。


「……俺、幼馴染の――が好きなんだ」




「……………………え」




「それで……付き合いたいんだけど、どうしたらいいのかアドバイス貰いたくって」


 なんだ。


「いつも頼れる×××××ちゃんならいいアドバイスくれると思って」


 なんだ。何が告白だよ。私の早とちりじゃない、勘違いじゃない。大体『相談』って言ってたんだから、気付こうよ私。

 馬鹿、阿呆、間抜け。


「うん」

「ありがと! さすが×××××ちゃん頼りになる!」


 何を言ってるんだ私。何で断らないの。


「告白ってラブレターか、直接かどっちがいいのかな? それともメールとか?」

「そうだね、告白。女の子だったら誰でも、直接がいいと思うよ?」


 おい、私の口。どうしたんだ。何を言っているの。

 こんなにも胸が痛いのに。こんなにも息が苦しいのに。こんなにも心が辛いのに。何を言っているんだ。


「そっか! なるほど!」


 こんなにも、こんなにも悲しいのに。


「で、これとかさ……」

「うーん、それはね……」


 考えがまとまらない。それなのに私の口は勝手に動く。するすると、ずるずると。


「いやぁ、×××××ちゃんは本当に頼りになるなぁ……」

「別にそんなことないよ……」


 その後も、帰る時間になるまでいくつかの話をした。残酷な恋の話を。

 何を話したかなんて、思い出したくもない。



 04



 気がつけばいつの間にか家に帰って自室のベッドに横たわっていた。


「…………ぁ」


 あんまりだ。


「……う、ぁぁ……」


 いくらなんでも、こんな……。


「うぐっ、うわぁぁ……ひぐっ……」


 胸が締め付けれられる。


「×××××、くん……うぅぅ、ぁぁぁあああぁぁぁ」


 気持ち悪い。気持チ悪イ。キモチワルイ。

 告白も、ぬるま湯い関係も、何もかも終わってしまった。


「すきだっ、たのに……だいす、きだったのにっ……」


 想いを伝えることもなく、終わって。


「×××××くん、っ……うぁああぁぁぁぁああああっ……」


 私がいつまで泣いていたかは、よく、覚えていない。



 05



「…………ん」


 朝だ。いつの間にか寝てしまったみたい。


「……うぐ、っ」


 一晩中泣いたものの、心の中は整理出来ていない。涙はもう出ないけど。


「……学校行かなくちゃ」


 どこか身体と精神が切り離されたような気持ちのまま支度を済ませると、家を出た。


「………………」


 外の景色はなんだか色褪せている。


 曇って。

 涸れて。

 尽きて。


 魅力は無くなり、価値は失くなり。



「失恋……しちゃった」


 灰色の学校は残酷にいつも通り。


「…………おぇ」


 お弁当が全然食べられない。ただでさえ、×××××くんに小さいお弁当と言われていたのに。

 ぐるぐるぐにゃぐにゃ気持ちが暴れて、授業なんて頭に入ってこなかったし。


「…………ふぐっ、うぁぁ……ぐぅぅううぅっ……」


 今日も×××××くんと少し話したけど、あんまり思い出せない。

 心が思い出すのを拒んでいるのかもしれない。あまりにも辛すぎて。


「う……ぁぁっ…………」



 そんな生活は、何日も続いた。



 06



「…………」


 以前に増して、無口で暗い子になってしまったせいで、最近先生に心配される。理由は、ただの、失恋だけど。


「……あー、×××××ちゃん?」

「×××××くん…………どうしたの……?」

「いや、今日また放課後いいかなーって聞こうと……てか、大丈夫?」


 ×××××くんは純粋に、本心から心配してくれている。それが逆につらい。


「ううん……別に、大したことないから……」

「なら、いいけど……」

「それより、放課後は平気だよ……」

「じゃ、ホームルーム終わったら教室に残っててね」

 何でか分からないけど、×××××くんの頼みは無意識にきいてしまう。断らない。

 断れない。

 放課後。ぼぅ、っと魂が抜けたような私を、何人か不審がってみてきたけど、まぁどうでもいいや。


「…………」

「みんないなくなったね」

「そうだね…………」

「×××××ちゃん……」

「俺、今日――に告白する」

「…………っ」


 胸を抉られるような悲しさと、やっと解放されるという安堵が混ざって変な気持ちだ。


「×××××ちゃんにアドバイスを受けていろいろ自信がついたんだ」

「×××××ちゃんのおかげだよ、ありがとう」


 なんて言えばいいんだろう。頑張って?


 もう疲れた。


「結果は……明日また、×××××ちゃんには手伝ってもらったから伝えないと悪いから」


 それじゃ、と×××××くんは緊張した顔で教室を出て。


「ねぇ、×××××くん!」


 何故か私は×××××くんを呼びとめていた。それも、私とは思えないほどの大きな声で。


「何?」

「×××××くんは……」


 もし、×××××くんなら。


「×××××くんは、絶対に振られちゃうって分かってても告白するの?」


 私からの不思議な質問に怪訝そうな顔をしながらも、×××××くんは答える。


「うん、振られるんだとしても僕の気持ちは本物だから……それはきちんと伝えたい」


 迷うこともなく即答。

 でも、その答えでちょっとだけ、本当にちょっとだけなんだけど……


 心のもやもやが晴れたような気がした。



 07



「想いは……本物」


 ×××××くんはそう言った。言いきった。


「私だって……」


 私だってこの気持ちは本物だ。×××××くんが大好きだ。


「よし!」


 心が決まった。

 今や視界は透き通ったガラスのようにクリアだ。


「明日、×××××くんに……!」



 08



 翌日。


「…………」

「あ! ×××××ちゃん!」


 ニコニコだ。太陽のように輝く×××××くんの笑顔は、よりキラキラしていた。

 きっと、いい結果だったのだろう。そうおもうと少し心が痛いけど。


「どうだった?」

「付き合える事になった! ありがとう! ×××××ちゃんのおかげだよ!」

「そう……」


 私のおかげ、だなんて、すごく皮肉が利いている。別に×××××くんはそんなつもりないんだけど。


「じゃ……私のお願い、聞いてくれる?」

「いいよ! 何でも言って!」




「×××××くんのことが大好きです。私と付き合ってください」




「え」


 驚いている。目が点になって、白黒して。


「…………」


 そりゃあそうだろう。付き合えたと言った直後に付き合ってだなんて。

 でも、×××××くんはすぐに真剣な顔に戻った。


「俺には好きな人がいるから、君とは付き合えません」


 それは真摯な言葉で。


「そっか……」


 私の心に響いた。


「ありがとう、ちゃんと振ってくれて」


 すっぱりと、綺麗に。

 涙が零れるし、とても悲しいけど、

 おかげで私は乗り越えられた。


「あの……その、ごめん」


 断ってごめんなのだろうか、それとも、相談してごめんなのだろうか。

 どっちなのか、分からないけど。


「×××××くん!」

「何……?」


 最後に一つ。



「お幸せにっ!」



 私の恋は終わった。


 でも、不思議と後悔はしていない。



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― 新着の感想 ―
[一言] なんだか、映像作品みたいで雰囲気もいい感じだと思いました。 最後の台詞のところも印象的でじーんときました。 最後に一つ。って台詞はお気に入りです。 最後に一つ。 「これからも、頑張っ…
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