次女フィーニスとの交流
うちの次女はとてもよくできた少女だと言われている。
礼儀正しく落ち着いていて、挨拶もきちんとできるいい子なのだと。まるで武人のように凛としていて、近所の悪ガキからも一目置かれる俊才なのだと。
確かにフィーニスにはそのような面が存在する。モラルや常識はわきまえているし、老人、子ども、近所の人たちに対しても親切だ。妹の面倒もよく見るし、あの騒々しいコミエルも姉は姉だとばかりにしっかり立ててくれている。
あのルートゥーから生まれたとは思えないほどにできた子どもだ。そこに異論はないし、俺もフィーニスのことは内心頼もしく思っているんだが――。
しかし、あいつの本性は人ではなくドラゴンなんだ。
獰猛そうに笑う次女と戦いながら、俺はそのことを心底痛感するのだった。
今さらではあるが、ここで一度、改めて確認をしておこう。うちの隣には世にも恐ろしいドラゴンが住んでいる。その屋敷は周辺の家屋を買い取ってまで建てた豪勢なものだ。
ご近所さんの手前、ここ数年は敷地面積を二軒分にまで減らし、景観維持のために落ち着いた外観になってはいるが――。
その内側は、かえって拡大の一途をたどっている。
扉を開けば広がる空間、そこにはロマリア風呂やら宝物庫やら東洋の庭やらが存在している。どうやら空間拡張魔法を上手く活用しているようで、ルートゥーの屋敷、竜姫御殿には、外からは想像もつかない部屋が多く備わっているのだった。
この場所、トレーニングルームもそのうちのひとつだ。体育館を思わせる広々とした空間には、ダンベルやバーベルなどの鍛錬器具、トランポリンや吊り輪などの特殊な設備、刃を落とした訓練用の武具などがあちらこちらに見受けられる。
ここはフィーニスの要望により作られた部屋だ。うちの次女は時間があるとこの部屋にこもり、他の者が呼びに来るまでひたすら鍛錬を続けるのだという。
無論、それは実戦を想定してのトレーニングだ。設備の中には自動で動く人形もいて、そのうちのいくつかは相当強いオートマタなのだと聞いたことがある。
なるほど、確かに、かなり動けそうな人形が何体かはいるな。レベルはおよそ100相当だろう。並みの人間には歯が立たない、強固で厄介そうな自動人形に見えた。
ただ、気になるのは、それがべこべこ凹んでいるようにも見えて――。
それを成したであろう、鋭く重い攻撃が今まさに俺を襲っているのだった。
「楽しいなあ、父よ! 強者との戦いは実に楽しい!!」
近所でも評判の次女が、目を爛々と光らせ、牙をむいては俺に拳を突き出してくる。
とても人様には見せられないシーンというものだ。龍の本性を露わにしているフィーニスは、まさに混沌龍の幼体、最強生物としての片鱗を感じさせていた。
「突いても、蹴っても、払っても、薙いでも! まるで手が届く感覚がしないぞ! 我らの力量は埋めがたいほどの差がある!」
「そう思うんなら止めろよ……」
「止められるものか! 精根尽き果て、魂が抜けるほどに戦い続けたい! さあ、もっともっと戦おう! 父も私を容赦なく攻め立ててくれ!!」
「うーーーーーん……」
いや、たとえドラゴン相手でも俺の子どもだしなあ。この部屋は学園迷宮のように保護機能が働いているが、だからって子どもに手を上げるのは本気でどうかと思うし……。
いや、でも、攻撃をさばき続けるだけだとフィーニスは絶対に満足してくれない。俺のやる気を引き出すまで、娘はあと何時間も、ともすれば日が暮れるまで粘るはずだ。
せっかくの休日、それで潰してしまうのは気が引けてしまう。ここは心を鬼にして、とも少し違うが、俺は要望通り、娘に攻撃をしかけることを決めた。
「しゃーない。やるか」
「おおっ! 来るかっ!!」
「ああ……行くぞ?」
「…………っ!!」
「…………【サウザンド・エッジ】」
「~~~~~~~~~~~~~~~っ!?」
瞬間、フィーニスは無数の残像に襲われた。それは一突き一突きが確かな実体を持つ超高速の刺突だ。咄嗟に防御態勢を取るが間に合わない。暴風雨のような攻撃はガードを固めた程度では意味を成さない。
「くっ、うっ、あっ……ああああああああっ!?」
途切れることのない攻撃に、フィーニスは呆気ないほど簡単に弾かれ、飛ばされていった。俺はそこで攻撃を中断し、ふうと息をついて事態の推移を見守り始める。
(急所に当たった感触はなかったが……)
その分、ダメージが少なかったかもしれない。余力があればすぐに跳ね上がって攻撃をしかけてくるだろう。フィーニスとはそういう娘で、ある意味ではドラゴンらしい、闘争心に溢れた少女ではあった。
しかし、予想に反して少女は床に転がったままだった。両手両足を大きく投げ出し、まさに大の字になってトレーニングルームの天井を見上げている。
そこまで効いてしまったんだろうか? 心配になって駆け寄ろうとしたところで、部屋には愉快そうな声が、大きな笑い声が響いていくのだった。
「ははっ! はははっ! あーーーははははははっ!!」
ひとしきり笑ったあと、くつくつとのどを鳴らしながらフィーニスはゆっくりと立ち上がる。一度這いつくばってからの挙動は、見るからに緩慢かつ重たいものではあったが、その反面、本人は至って楽しそうで満足げな表情だった。
「はあ、はあ、は、ははは……まさかこれほどのものとはな……」
艶やかな黒髪が汗にまみれて垂れ下がっている。後ろで束ねた髪も解けかけていて、白いTシャツが、それにスパッツが、攻撃の余波で所どころに穴を開けていた。
(やりすぎたか?)
親としてはそう思わないでもなかったが、
「ち、父よ。素晴らしい攻撃だったぞ。咄嗟に死を覚悟したほどだ……」
どこか陶然とそんなことを言う娘に、違う意味での心配が湧き上がってくる。
ま、まあ、別にフィーニスはマゾヒストというわけではない。強者と戦うこと、限界を超えること、成長を実感することが当家の次女の最大の喜びなんだ。満身創痍になることも、フィーニス的にはむしろご褒美のようなものであり、
(……やはりマゾなのでは?)
いやいやいや! 武人気質、アスリート気質なだけなんだ!
そう自分に言い聞かせつつ、俺は娘にポーションを飲ませてやるのだった。
「んく、ん。ふう。すまないな、父よ」
回復薬を飲み干し、少し血色が良くなったフィーニス。ダメージの抜けた少女は、俺からタオルを受け取り、それに顔を埋めるようにして汗を拭き始めた。
「はあ……やはり父との戦いは楽しいな。とても充実した時間を過ごせる」
「そりゃ光栄だけど……いいのか? こんな休日で?」
「当然だ。私は他の姉妹のように甘いものがそれほど得手ではないからな。どこかに間食に行くくらいなら、こうして体を動かしている方がずっといい」
「いや、でもなあ。家にこもって戦ってばかりってのもなあ」
なんか、これじゃないという気持ちが強い。本人が望むならそれでもいいんだけど、一日使う以上は、普段できないことをやるべきというか……。
「ふむ」
俺の心をうかがうようにフィーニスが何かを考えている。あごに手を当ててこちらを見ていた少女は、すぐにも構えを解いて軽い調子で話し始めた。
「確かに一理あるな。今日は私と父のふたりの時間。街に出かけたり、いっそ郊外に足を延ばしてみるのも一興だろう」
「おっ、ピクニックか?」
「そのようなものだ。飛竜で遠乗りがてら、どこか景色のいい場所に行こう」
ここでようやく、フィーニスは歳相応の顔、無邪気で屈託のない笑顔を見せてくれた。そして軽やかに踵を返すと、タオルを首に巻いたまま、トレーニングルームの隅にあるシャワールームの方へと向かっていく。
「すぐに支度を済ませる。父は食堂で待っていてくれ」
そう言い切った後、フィーニスは振り向くことなく仕切りの向こうへと去っていった。
どこまでも無駄のない少女である。清々しささえ感じる我が子の動きに、俺は感心したように「うーん」と声を漏らしていて、
「タカヒロッ!」
「うわっ!?」
どーん! と横から突撃を受け、俺はたまらずごろごろと床に転がってしまった。
結構強い衝撃だった。この俺が耐えられないほどの勢いだった。となれば、襲撃者の正体は探るまでもないあいつだろう。仰向けになった体の上にまたがる少女を見て、俺は呆れたように彼女に向かって声をかけるのだった。
「なんだ、ルートゥーか」
「うむ! 生涯の伴侶であるルートゥーだ!」
黒い髪に金色の瞳、それにゴスロリっぽい服の竜人少女だ。見た目は変わらずティーンエイジャーのままで、その小さな手をぺたんと俺の胸へと下ろしている。
「って、また元に戻ってんのか。大人の姿はどうした?」
「あれは我の美的感覚といまいち合致していなくてな……」
「フィーニスに親らしい姿を見せるんじゃなかったか?」
「そうは言っても、ほら。あまりかわいくないであろう?」
言ったそばからルートゥーは絶世の美女へと変わっていった。変幻自在の混沌龍は、姿かたち、年齢程度は意識せずとも変えられるらしい。
その力で大人になったのがいまの美女としての姿だ。本人は収まりの悪そうな顔をしているが、この状態のルートゥーからは成熟した女性としての魅力が感じられた。
「いや、もうずっとその姿でいてくれよ」
「ええっ!? な、なぜだ!? タカヒロはいつもの我が好きではないのか!?」
「好きだけど、最近ほんと、世間の風当たりが強いんだよ……」
それを思い出してしまい、俺は両手で顔を覆ってうずくまってしまった。
三十路にもなって少女のような妻と戯れている男。公然といちゃいちゃし、ご町内の公序良俗を大いに乱している男。耳に入ってくる噂はどれも冷たく、厳しいものだ。ルートゥーが昔の姿でいればいるほど、俺にはロリコンの烙印が深々と刻まれ……!
「まあ、別に構わぬのでは?」
「構うわ! 大いに構うんだよ!」
「世間のことなど知らぬ。いざとなれば家族総出で龍の山に越してしまえばいいのだ」
あっけらかんと語る混沌龍は、すでに少女としての姿に戻ってしまっていた。
遠慮なく俺に甘え、すりすりと頬ずりすら始めているルートゥー。そのあどけない顔、小さな頭をなでなでしながら、俺ははあと大きなため息をつくのだった。
イースィンドは平地の多い国だ。全体的に地形がなだらかで、場所によっては見渡す限りに丘陵が続いていることもままある。
これが日本だと「海のすぐ近くに山がある」「一山超えたらまた山が見えた」なんてことにもなり得るんだが、そこはさすがに大陸有数の大国ということだろうか。
街道が縫うように走る平原の上、視界いっぱいに広がる空の上を、俺は娘と相乗りになって飛竜のフライトを楽しんでいた。
「フィーニス! 寒くはないか!?」
「大丈夫だ! 保護の魔法が働いている!」
「じゃあ……もう少し飛ばすか!?」
「ああ! 思い切り飛ばしてくれ!」
ワークブーツに厚手のズボン。フライトジャケットにお揃いのゴーグル。いつもの遠乗りの格好で、俺たちふたりは飛竜の背中にまたがって空を飛んでいる。
耳元で風が轟々とうねり、雲や鳥の群れは瞬時に後ろへ置き去りにされる。そんな非日常的な速度の中、フィーニスは珍しくはしゃいだ声で手綱に手を伸ばしていた。
「父よ! 私の番だ! 今度は私がこやつを操縦するぞ!」
俺の前に座る娘が振り返りながら宣言をしてくる。それに対してふっと笑いながら承諾すると、少女は気力をみなぎらせ、赤い飛竜に鋭く号令を発するのだった。
「行くぞ! 風を超え、音を超え、そして光さえも超えてみせるのだ!!」
つくづく「超える」という言葉が好きな少女だ。飛竜もそれに触発されたのか、どこか真剣な表情でますます速度を上げていっている。
どうやら王国を縦断しようという腹積もりらしい。目的地は特に定めず、行って帰ってのハードなフライトを楽しむつもりだろうか?
「行きたい場所とかはないのか?」
「ない! 心のゆくままに飛行を続ける!」
力強く言い切って、フィーニスは丘の向こう、地平線の向こうに視線を向ける。
一体その目には何が映っているのか、娘はにやりと口の端を持ち上げ、やんちゃな少女のように竜の手綱を握り続けるのだった。
「はー……飛んだなー……」
娘に操縦を任せて一時間後、俺はどことも知れない丘の上に降り立っていた。
周りには人里や街道などが一切見られない。羊のような魔物が草を食む、そんな牧歌的な光景がどこまでも広く続いている。
ここで昼食を取るのか? 問いかけようと振り向いた先で、フィーニスはカチャカチャと音を立てて金具を外している。
(やっぱりお昼ごはんの時間だったか)
今回のフライトはピクニックも兼ねている。どこか風光明媚な場所でお弁当を広げ、親子水入らず、ゆっくり食事を楽しむのが目的なのだ。
それにしては若干、味気ない場所のようにも思えるんだが――。
まあ、これも風情があると言えなくもないな。虚飾を嫌うフィーニスのことだ、かえってこういう場所の方が心に刺さるのかもしれなかった。
「よし! そういうことなら」
まずはシートを広げようか。アウトドア用品は常備しているし、スープやコーヒー、お茶なんかも、温かいものがすぐに提供できるぞ。
サンドイッチも炙ってホットサンドにするべきか? いやいや、それはそのまま食べるべきだろうな。火を通して美味いのはやはりベーコンで、これを薄めに切って、フライパンでカリカリに焼いてからサンドイッチに添えて――。
「父よ。何をしているのだ?」
「え? 何って……食事の準備だけど?」
「食事? 戦いの前に食事など不要だろう?」
「え? は? た、戦い? 戦いって……?」
「戦いは戦いのことだ。それが分からぬ父ではあるまい?」
お互いに疑問符を浮かべながらの会話だった。俺は完全にピクニックのつもりでこの場に立っている。対するフィーニスは俺と戦うつもりでこの場に立っている、らしい。
「今朝方は不覚を取ったが……同じ轍は、もう踏まんよ」
バッサア! とジャケットを脱ぎ捨て、まるで米国軍人のような格好で武術の構えを取ってみせるフィーニス。俺は未だに話についていけず、騎乗服姿のまま、ぶんぶんと何度も手を横に振るのだった。
「いやいやいや……あの? フィーニスさん?」
「なんだ、父よ」
「ここで戦うおつもりですか? こんなのんびりとした空気の中で?」
「おあつらえ向きに何もないな。ここなら全力を出しても大丈夫だろう」
「いや、全力って……そもそも、お前は全力なんて出せないはずで……」
そこまで言ってハッと気がついた。
まさか……まさか、もうそんな時期だというのか!?
慌てて娘の手元を見る俺を、フィーニスは薄く笑ってうなずいてみせるのだった。
「そうだ。どうやら先の戦いでいくつか限界を超えたらしい。私の体内には龍の力が渦巻いていて、今にもそれが皮膚を破って飛び出しそうになっている」
「そんな……早すぎる! なんで、どうして!?」
「それは私にも分からんさ。咎があるとすれば、恐らくは父よ、貴方があまりに強大すぎたのだ」
「抑えられないのか!? せめてルートゥーが来るまで、どうにか自分の力で……!」
「不可能だ。もはや一刻の猶予もならない。この力、解放する以外には道はないのだ」
「い、いや、しかし……!」
「父よ。腹をくくれ」
「え……?」
「戦いの時だ」
瞬間、フィーニスの両腕から金属質な音が響いた。
それは彼女の腕輪にヒビが入る音だ。まだ幼い混沌龍、その力が暴走するのを防いでいた黄金の封環。それが内側からの力で粉々に砕け散ろうとしていた。
「うううう……ぐおおおオオオオオ……!」
腕輪のヒビが広がるにつれ、フィーニスの輪郭は揺らめき、まるで龍の姿が重なるようにして変化していった。
同時に溢れ出すオーラは空を黒色に染めていき、渦巻く黒雲の下、目につく範囲の生き物は飛竜までもが怯えるようにして逃げ出していく。
「ぐうう……があアあアア……!」
もはやフィーニスの姿はヒトではなかった。龍の瞳に龍の牙、角はメキメキと音を立てて肥大化し、翼は天を覆わんばかりに広がっていく。
少女が本来の姿に戻ろうとしているのだ。伝説にうたわれる偉大なる龍、世界最強の混沌龍としての姿に――。
制御できない力は暴虐となって俺を襲うだろう。荒れ狂う魔力は嵐のようにこの地を荒らすだろう。
もはや事態は俺の手に負えるものではなかった。このままフィーニスは混沌龍に変わってしまう。それは自然の成り行きのことで、ある意味では当然のこととも言えたのだが――。
それでも俺は諦めることができなかった。溢れ出す黒いオーラの中、懸命に娘に向かってその手を伸ばした。
しかし事態は何も変わらず、腕輪には決定的な亀裂が生じていき、
「止めろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
俺の絶望の叫びの中、混沌龍フィーニスは遂にその姿を現すのだった。
「………………」
『………………』
「………………」
『………………』
「………………」
『ぎゃーお』
深い深いため息が溢れ出した。どうしようもない脱力感に襲われ、俺はたまらずその場にうずくまって頭を抱える。
そんな俺の下に一匹の小龍が飛んできていた。子犬のようなサイズの漆黒の龍。人懐っこそうなこの子こそが、何を隠そう、混沌龍フィーニスの真の姿だった。
『がう!』
空中でサッと両手を上げて威嚇してくるフィーニス。なんだかぬいぐるみに威嚇されているようで、俺は何とも言えない気分になってしまう。
『がおー!』
「はいはい。はいはい」
じゃれてくるフィーニスを適当にあしらいながら、俺は砕け散った腕輪、黄金の封環が欠片も残っていないのを見て肩を落とした。
こうなるのが嫌だから、普段は混沌龍になることを禁じているんだ。理性を失った暴走形態、と言えば聞こえはいいが、実際のところは年齢相応のベビードラゴンになることと同義でしかない。
(本人は力の開放だと思い込んでいるけど)
実際、力の制限はすべて解除されているけど……。
「これじゃあなあ~~~……」
大きなため息をつき、俺はへなへなとその場にうずくまるのだった。
「どうすんだよ、このあと」
どうやって帰ればいいんだろうか? 飛竜はいざという時、操縦者ではなく元の小屋に帰るように教育されている。
つまり、ここで待っていても飛竜は帰ってこないわけで、だからと言って、他に乗り物があるわけでもなくて――。
「徒歩? 徒歩なのか?」
主要な街まで走っていけば、そこに飛竜乗り場がありそうではある。だけどここは見渡す限りの丘陵地帯で、地図を見る限りでは、どの街からも等しく遠いような場所だった。
「ああ、ああああ……」
『あぎー』
「ああああああ……」
『あぐあぐ』
「ああああ……噛むなー……」
あまりの面倒臭さに身悶えする俺。
そんな俺の頭を、混沌龍フィーニスはがじがじと無心にかじり続けるのだった。




