続くフリーライフ
霧の晴れたグランフェリアの中級区。
その住宅街の一角で、少女はずっと待っていた。
主の帰りを。約束を交わした青年の、無事の帰還を。
それはきっと、遠くない未来だ。【妖精種の加護】が教えてくれる。彼はすぐそこにいる。あの角の向こう、通りの先から、こちらに歩いてきている。
ほら、すぐにも顔を出し、きっと元気な姿を見せて――。
「……あっ」
道の先に、ひょろりとした影があった。
それは疲れたようにゆっくりと歩き、しかし、ゆるゆると手を振っている。
貴大だ。間違いない、貴大だ。彼がすべてを終わらせて、帰ってきてくれた。
少女は喜びか、あるいは安堵で胸が詰まり、言葉が出せなかった。何か言おうと思っても言葉が出ず、結局、手を振り返すことも出来なかった。
そうしている間に、貴大は少女の――ユミエルの前に立った。
穏やかな顔で、疲れたような顔で、やはり彼も言葉はない。
「終わったよ」
それだけ言って、貴大はまた、黙り込んだ。
しかし、嫌な沈黙ではない。貴大はただ、ユミエルの言葉を待っている。
そんな彼に対し、ユミエルは迷い、考え、結局――いつもの言葉を言った。
「……おかえりなさい」
「ああ、ただいま」
花のつぼみがほころぶように微笑んで、主を迎えるユミエル。
彼女は同じように微笑む貴大と手をつなぎ、自分たちの家の中へと入っていった。
イースィンドは花の都、グランフェリア。
ここは大陸でも有数の大都市にして、国内最大の貿易拠点でもある。
湾に面したこの街には、ありとあらゆるものが集められる。食料も建材も、貴金属も工芸品も、何もかもが運ばれてくる。
それらが生み出す巨万の富が、この街を大きく発展させていった。その勢いは留まることを知らず、この繁栄もいつまでも続くものだと信じられていた。
豊かで、何でもあって、いつもにぎやかな王国の首都。
そんな街の片すみに、こんな看板がぶら下がっている。
「何でも屋・フリーライフ」
これはその何でも屋を舞台にした物語――だった。
異世界に迷い込んだ青年が、何でも屋として騒動に巻き込まれていく物語だった。
そしてそれは、きっとこれからも続いていく。この世界で、何でも屋として生きることを決めた青年が、きっと物語を続けていく。
だから、彼のこれまでとこれからをまとめるのなら。
異世界何でも屋奮闘記。
そう言えるのかもしれない。




