御令嬢の休日
うすうすそうじゃないかとお思いの方も多いでしょう。そう、フランソワは勘違い系ヒロインだったんだよ!!
「な、なんだって~~~!!?」
これからも深読みし過ぎなフランソワさんの活躍をご期待ください。
○ケース3 学園に通う大公爵の娘の場合
「あら、先生。奇遇ですわね」
「げっ、フランソワ……!」
「げっ、とはなんですか、失礼な。それに、私のことは「フラン」と呼ぶよういつも言っているでしょう?」
「それはもういいから! っとと……」
ここは上級区が誇る王立大図書館。大きな声を出した先生は、司書の方から睨まれていた。
しかし、本当に奇遇だ。まあ、この図書館には学生や教員なら無許可で入れるため、いてもおかしくはないのですが……。
「先生は何を読まれに来ましたの? やはり、冒険者関係ですか?」
「いや、寝に来た。ここの地下階は静かで寝やすいからな」
「まあ……おほほ、冗談がお上手ですこと」
地下階。そうだ、地下階には、我が国のスキルについて書かれた本がある。
流石に管理は厳重だが、一部の優秀な学生と教員……つまりタカヒロ先生ならば、その場で読むことだけはできる。
今、身につけているスキルだけで満足せず、新たなスキルを貪欲に取り入れようとしている。この飽くなき探求心が、先生の強さの秘訣なのだろう。見習うべきことだ。
「いや、そうじゃなくてな……」
「ごまかさなくてもよろしくてよ? 私には分かっていますから。心配なさらずとも、誰にも漏らしたりはしません」
「ああ、うん……まあ、いいや」
おうるさ型の先生は他国の人間へのスキル開示は否定的だが、私はそうではない。
過去、何人もの他国人の先生が我が国のスキルに触れることにより新たなスキルを開発した。タカヒロ先生もそうなると私は睨んでいる(あれだけスキルに対する造詣が深いのだ、できないはずがない)。
それに、フェアじゃない。他国の者からスキルを絞れるだけ絞り取り、こちらからは何の見返りもない。余りにも阿漕だ。それでは優秀な人材は集まらなくなるだろう。
そのことが、頭の固い先生がたには理解できているのかしら……。
「そういうお前は何してんだ? 勉強か?」
「ええ、スキルについての復習を、少し……」
タカヒロ先生に教わったスキルは、私たちに副次的なものをもたらした。それは、「スキル習得法の簡略化および転用」だ。
例えば、【フォースエッジ】というスキルがある。瞬きの間に敵を四度切りつける達人の剣だ。
【フォースエッジ】は、我が国の騎士団の隊長格が身につけるべきスキルとされており、当然、その習得には血が滲むような努力が必要となる。
幼いころ、近衛騎士団長のバルガスにどうやって身につけたのか聞いたことがある。
その時、バルガスは遠い目をしながらこう語ってくれた。
「そうさのう……ただ無心に幾千幾万と剣を振るい、夥しいほどの魔物を屠る。その中で、ある日突然開眼するんじゃ。わしも、身につけたのは二十代も半ばであった」
その時の私は、「バルガスでもそんなにかかるなんて!」と、ひどく衝撃を受けたのを覚えている。予想以上の難度に、しかし、「私にもできるのかしら……いや、やってみせる!」と、子ども心ながらに決意を固めてすらいた。
その「フォースエッジ」だが、つい先日、習得できた。一時間で。
先生の指示通り、ひたすらに【デルタエッジ】(先生曰く、【フォースエッジ】の下位スキル)を繰り返した結果、百回目の【デルタエッジ】を振り終えるとともに、スキル神インフォ様の宣託が下ったのだ。
その時の何とも言えない気持ちをどのように表現すればいいのか……少なくとも、純粋な喜びではなかったことは確かだ。
先生が言うには、「スキルはある一定の数だけ連続使用することで、上位のスキルに派生するものもある」そうだ。レベルアップと、ジョブに就いた時間の長さで自然に身につくスキルもあるそうだが、それはインフォ様のお情けらしい(初心者救済処置? でしたっけ?)。
この場合、【フォースエッジ】は両方に当てはまるのだろう。つまり、気が遠くなるような鍛錬でも習得できるが、そうしなくとも短時間で習得できるということだ。
普通、同じスキルを百回も連続で使う機会はない。騎士団の練習は実戦さながらで、同じスキルを使い続ければすぐにスキを突かれるため、様々なスキルを組み合わせて対戦相手と戦うからだ。これでは今まで発見されなかったのも無理は無い。
この話を聞いた騎士団の方々は、意気消沈してしばらく使い物にならなかったとか。
「わしも、身につけたのは20代も半ばであった」。バルガス……。
しかし、このことで明らかとなったものがある。それこそが、「スキル習得法の簡略化および転用」だ。
検証の結果、これまで我が国でスキル習得に必要とされた条件は実はほとんどがでたらめで、インフォ様のお情けによる部分が多くを占めていた(「滝に長時間うたれる」などは意味がなかった……私もしたというのに!)。
それらのスキルは、先生が教えてくれた「同じ系列のスキルを一定数繰り返す」手段により、次々と習得法が簡略化されていく。今、この国ではその研究が最も盛んだ。これで、周辺諸国に遅れをとっていたスキル習得法の分野も巻き返しが図れるだろう。
かくいう私も、暇を見つけては図書館に来て、我が国独自のスキルの習得法を簡略化できないかと検証している。
我が国のスキルは、「なるほど、強力なスキルですね……で、いつ覚えるのですか?」という皮肉があるほど、威力は折り紙つきだが習得するのに非常に時間がかかる(今となって考えると、上位ジョブに就くことに対してのインフォ様のお情けなのだろう。それは時間もかかるし強いはずだ)。
それらのスキルの習得を簡略化できれば、国力増強は間違いない。スキル研究は貴族としての義務だ。私がやらないわけがない。
(それに、迷宮攻略にも役に立てることができますしね。一石二鳥ですわ)
……あら?
迷宮?
……そうだわ!
「先生。今、お暇ですこと?」
「うん? 暇っちゃあ暇だが……」
「では、今から迷宮探索に赴きましょう」
「はあっ!? なんで!?」
「私、自主訓練として単独での迷宮踏破も行っておりますの。先生は一人が一つの役割に徹してパーティーを構成することの意義を説いてくださいましたが、私、一人が全ての役割をこなすというこの国の伝統的な教えも大事だと考えておりますの」
「ああ、うん……?」
「だって、そうでしょう? 戦場では、常に誰かが傍にいるなんてことはありえません。時には孤立して戦うこともあるでしょう。そのような時に、一つの事しかできないようでは生き残ることはできませんわ」
「まあ、そうだけど……」
「そのことを学ぶのに、集団での迷宮探索は不向き……以前の私たちは、そのことにすら気づけませんでした。本当に独りで何でもやろうというのなら、実際に一人となって難事に立ち向かうべきです」
「そのとおりではあるけど……」
「そのための単独での迷宮踏破です。先生のスキル指導のおかげで、今の私は14Fまでは確実に攻略できるようになりました。しかし、同時に行き詰まりも感じています」
「へ~、そう……んで?」
「ここまで話せば分かりますね? さあ、行きますわよ。私の単独戦闘を見て、ご指導ご鞭撻をよろしくお願いいたしますわ」
「は? え? えええ???」
なぜか不思議そうな顔をする先生の腕を取り、学園迷宮へと赴く私。教え子の成長が気にならないのだろうか? 今の私は、以前先生が言った「指導するに値しない未熟者」ではないと自負しているのだが……。
多少強引ではあるが、実際に今の私の実力を見て、認識を改めてもらわなければ始まらない。今だ躊躇いをみせる先生の腕に腕をからめて連れて歩く。
(……あら? この状況は……)
途中、はたと気づく。
これではまるで、話に聞く「デート」とやらのようだ。
休日に尊敬する殿方と腕をからめて歩く……そう意識すると、迷宮探索の際に感じるものとはまた違った胸の高鳴りが、私の中に静かに響いていく。
(たまにはこのような心境で戦いに身を投じるのもまた一興でしょう)
なんだか、今日の単独迷宮踏破はうまくいきそうな予感がした。
最終的に、単独攻略は学内迷宮17Fまで踏破を果たしたところで終わった。予想以上だ。しかし、悔しいがこれ以上は仲間の助けがいるだろう。明日また、頑張ろう。
このように、私の休日はとても有意義に過ぎていきました。
武技系のスキルは(もちろん疲れはするが)いくらでも使えます。魔法や気といった超常のエネルギーを用いたスキルは、SPを消費します。
武技系みたいに無制限にしてしまうと、範囲魔法の雨が戦場に絶え間なく降り注ぎますからね・・・w