わん娘の休日
○ケース2 孤児院のわんこの場合
きょうも、ゴルディとまちを歩く。
こじいんのみんなと遊ぶのも楽しいけれど、ゴルディとのんびりおさんぽをするのも好きだ。
でも、さいきんはそれよりも好きなことが、わたしにもゴルディにもできた。
それは……。
「わふっ!」
このにおい! タカヒロだ!
「わんわんっ!!」
わかってる! 行こう、ゴルディ!!
「っはっはっはっはっは……」
あんまりいそいで走ってきたから、いきがくるしい。
でも、タカヒロに会えた!
いつものこーえんのいつものばしょで、あいかわらずすやすやと気もちよさそーにお昼ねしている。
お休みの日でも、お休みの日じゃなくても、いつもこの時間はここでお昼ねしている(いいのかなあ……?)。
タカヒロは、「シエスタだよ、シエスタ! 地理的には近いんだから、そういう風習があってもいいはずだ!」って言ってたけど、むずかしいことはよくわかんない。
とにかく、せっかく会えたんだ! 遊ぼう!
「わんっ! わんわんっ!!」
「わんわんっ! ペロペロ……」
あはっ、ゴルディがタカヒロの顔なめてる! わたしもなめよっと。
「くぅん、ペロペロ……」
「おぶっ……ま~たお前らか……」
「「わんっ!!」」
おきた! タカヒロがおきた! さあ、なにして遊ぼう?
「まてぇぁ~!! 俺の家のカギだ、それはぁぁ~~~~~!!」
「きゃあ~♪」
「わふっ♪」
タカヒロがなかなかおきないから、こしについてたキラキラしたカギをもってはなれてみた。
そうしたら、タカヒロがひっしになって追いかけてきた! きゃあ~♪
鬼ごっこのはじまりだ!
「もう少し……! くおっ!?」
「わんっ!」
つかまりそうになったらゴルディにパス! ナイスキャッチ!
「くそぉ~、カギ返せ……!」
こんどはゴルディを追いかけるタカヒロ。
そんなやり取りがけっこうつづいて、三人ともすっかり息があがった。
いっぱいかけっこできて、とってもまんぞく!
あ~、たのしかった!
遊んだあとは、一緒にお昼ねだ。「しえすた」だっけ? まあ、いいや。
「ゔゔ~ん……フグがぁ……フグがぁ……」
なんだか、タカヒロがむずがっている。こじいんのちっちゃい子みたいだ。
「ん~……ちゅ」
こういうとき、シスターみたいにほっぺにキスをしてあげるとしずかになる。
「うぐぐ……ぐ……グ~……zzz……」
ほら! 気もちよさそうにねむりだした。やっぱりシスターはすごい。
「くぁ~あ……」
わっ! ゴルディ、おっきなあくび……。
でも、わたしもなんだかねむたいな……。
ねよう……おやすみなさ~い……。
ぼふっとタカヒロのうでに顔をうずめる。
(あ……タカヒロのにおい、こい……)
こうすると、とってもよくねむれる。なんだか、あんしんできるんだ。
(わたしにお父さんがいたら……こんな感じなのかな……)
わたしはすて子だけど、タカヒロやこじいんのみんながいる。ちっともさみしくない。
でも、ときどきだれかに甘えたくなる。タカヒロに会ってからはそれが多くなった気がする。
(タカヒロはやさしい……むねがあったかくなる)
はじめて会ったときから、タカヒロはやさしかった。
はぐれたゴルディのことを見つけてまもっててくれたし、こじいんのみんなをいじめるこわい人たちもおっぱらってくれた(シスターはかみさまのおかげっていってるけど、わたしはタカヒロのおかげだと思ってる!)。
あの日、「どうにかしてやるさ」と言って頭をなでてくれたタカヒロのやさしい顔と、あったかい大きな手は今でもはっきりと思いだせる。
「ありがとね……タカヒロ……」
タカヒロの服をきゅっとつかむ。すると、むにゃむにゃいいながら頭をなでてくれた。とても気もちがいい。
(ずっと、こんな日がつづくといいなあ……)
こうして、わたしのお休みの日はゆっくりとすぎていった。