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孤児院訪問

「クルミア! 貴女って人は、またこんなモノを拾ってきて!!!!」


「くぅ~ん……」


 雷のような怒号が響き渡り、ゴールデンレトリバーの特徴を持つ犬っ娘は、ペタンと耳を伏せ、尻尾を足の間に丸めこんでしまった。


 その足元では、ゴールデンレトリバーの犬が同じく縮こまっている。


「何回目ですか、貴女が変なモノを拾ってくるのは! しかも、今度は人!! そのうえ、どこからどう見てもダメ人間にしか見えない落伍者じゃない!!」


(どうも、ダメ人間です……ははは……帰っていいかな?)


 犬っ娘に連れられ下級区へとやってきた(中級区と下級区の行き来に許可はいらない)貴大の目の前に建っているのは、下級区らしくみすぼらしい孤児院。建てつけられた看板には、「ブライト孤児院」との表記がある。


「何のために拾ってきたの! まさか、入院希望じゃないでしょうね……? ダメよ! ウチは今余裕がないの! しかも、大の大人をだなんて!」


「くぅ~ん……ちがう、お礼、したい」


「えぇ? お礼ですって?」


(しゃべったああああ~~~~~~~!?)


 動くスポンジが言葉を発するのを目の当たりにした子どものように驚く貴大。ここに来る道中、「わん!」や「くぅ~ん」しか聞いていなかった身としては驚くのも無理はないだろう。


「はぐれた、ごるでぃ、まもって、くれてた……あの人、いい人……」


「あら?そ、そうなの?」


「「わんっ!」」


 揃って返事する犬っ娘とその相棒。シスター姿の妙齢な女性は、その声にうろたえる。


「それならそうと……ああ、ともかく、失礼しました!」


 やっと貴大の方を向くシスター。どうやら、スーパー放置タイムは終わりらしい。


「恩義に仇で報いるは大罪……主はそうおっしゃいました。本当に、話も聞かずに決めつけてしまい申し訳ありません」


「いや、別にいいんすけど……」


「ここで立ち話もなんですし、よろしければ中へどうぞ」


 「何のおかまいもできませんが……」と、貴大を孤児院の中へと招くシスター。


(やれやれ、茶の一杯ぐらいは出るんだろうな……)


 ゴールデンレトリバー(っ娘)どもにまとわりつかれながら、貴大は大した期待もせずに孤児院へと入っていった。流されやすい男である。




………………

…………

……




「ああ、では、タカヒロさんは、クルミアからはぐれたゴルディを保護してくださっていたのですね?」


「うん……? まあ、そうなるのか……な?」


「わんっ!」


「わふっ!」


 一緒に寝てただけなんだがなあ……しかも、わんこの方から勝手に来たし。まあ、細かいことはいいか。


「そうとは知らず、とんだ御無礼を……申し訳ありません」


「いや~、いいっすよ、そんな」


 ダメ人間って言われた時は軽く死にたくなったけどな……ははは。


「しかし……すみませんが、お礼できることは少ないのですよ。見ての通り貧乏でして……」


「いや、お礼なんて本当にいいですって!」


「ですが……」


「いいですってば! そんなに偉いことをしたわけじゃないですし」


「ああ、何たる寛容さ……主よ、善意溢れる若者は未だ世に居ます。この出会いに感謝を……!」


「はぁ……」


 涙ぐみ、十字を切ってお祈りを始めるシスターさん。大袈裟な……どうでもいいが、司祭で覚えられる【グランドクロス】のモーションだな、これ。あれって当たると痛えんだわ。


 んな、しょーもないことを考えていると……。


「シスターを苛めるなぁ~!」


「お、お母さんから離れろ!!」


「んごっ!?」


 はい、どこから現れたのか、ガキの集団に石をぶつけられました。


「こら、貴方たち! 何をするのですか!?」


「だってシスター! こいつも「かんりいん」なんだよね!? シスター泣かしてたじゃん!」


「違います! この人は違うんです!」


「違わないよ! このおっさん、悪そうな顔してるもん!」


 ・……おっさん。


 今日は心理的ダメージが大きいなあ……。


「わうっ!」


「なんだよ、クルミア!お前、悪もんの味方するのか!?」


「わうっ! わうぅ!」


 入り乱れるわん娘とガキども。収拾しようとするシスター。心理的ダメージで膝をつく俺。結局、事が収まったのは三十分も経ってからだった。






「本当に申し訳ありませんでした!」


「「「ごめんなさ~い!」」」


「わうぅぅ~……」


「いや、いいんデスヨ? ほんとに……」


 狭い応接間に十五人もの人間(+犬)が飛んだり跳ねたりして、部屋も人もボロボロだ。ついでに俺の心もボロボロだ。


「しかし、俺を「管理員」と間違えるなんて……俺は、そんなに立派な人間じゃないっすよ」


 「管理員」とは、区ごとに存在する役所の役人だ。警察や消防、戸籍管理や国の土地管理など、幅広く管理している。この場合、話に上っているのは「下級区管理員」のことだろう。


 しかし、俺が役人って……どこをどう見間違えればそう見えるやら。


「いいえ……あの者らに比べれば、タカヒロさんは聖人のようです」


 苦々しげに吐き出すシスター(なんか、この孤児院の院長らしい)。


 うん? 下級区では管理員は良く思われていないのか? 確かに、あいつら「公共映像水晶の受信料を払え」なんて強制取り立てみてえなことするからなあ……。


「そうだよ~! あいつら、僕らをここから追い出そうとしてるんだ!」


「わんわん!」


「嫌がらせもたくさんしてくるんだよ!」


「はあっ!?」


 おいおい、仮にも国の機関だぞ? 同じ国の施設(王国では、孤児院は国が管理している)に嫌がらせって……まさか……。


「……院長、あんた、不正に建物を占拠してるとかじゃ……?」


「違います! このブライト孤児院は、王の認可と主の祝福を受けた、由緒正しい孤児院です!!」


「え? じゃあなんで……?」


 時々、孤児院を飛び出した不良どもが空き家を占拠して、立ち退きを命じる管理員と衝突する、って話を聞くが、これじゃあないか……まあ、こいつら不良には見えないもんな。


「それがですね……」


 何やら神妙そうに話を切りだす院長。だが……。






「おい、なんだぁ!? このボロ孤児院は、客も出迎えねえのかぁ!?」






「「「っ!!!!!!」」


「おわっ! なんだぁ?」


 みんなしてビクッと大きく震える。な、なんだ……? ガキどもや犬っ娘はプルプル震えてるし、院長も顔を青ざめさせて口を横一文字に引き結んでいる。


 誰が来たんだ……?


「おうおう、こんなとこにかたまってやがったか! 手間が省けるってもんだぜ!!」


 バンッ、と扉を蹴り開け入ってきたのは……。




 で、で、ででで出たぁぁぁ~~~~~!? や、ヤクザやぁぁぁ~~~!!


 8・9・3!!


 どう見てもカタギには見えない御仁が、不敵に笑ってこの部屋に入ってくるぅ! いやあ!!


「何の用ですか……フォルム管理員」


 ウソ!? この人、管理員!? めっちゃカタギやん! カタギやったでぇ! おいちゃんビックリや!!


 ……なんだこの似非関西弁は。いかん、混乱しているな。


「おいおい、とぼけんなよ? 今日こそは返事を……ん?」



 目 が 合 っ た 。



 ヤクザ……じゃねえわ、カタギの管理員・フォルムさんが、怪訝そうな顔でこっちを見ている。やべえ、あまりの顔の怖さにおしょんしょんちびりそう。


「なんだ、シスターも好きもんだね。もう身売りしてたのか?」


「なっ!? し、失礼な!!」


「もう体を売ってるなら話は早えよな? どうだ? アンタがミケロッティの旦那の妾になるなら、この孤児院への援助も増やすぜ?」


「止めて! 子どもたちの前でそのような汚らわしい話……! 帰って! 帰ってください!!」


「おお、こええ、こええ。まあ、いいや。どの道、妾にならないならこの孤児院への援助は今月で最後だ。今日はそれを伝えに来ただけだからよ。今後の身の振り方は考えておけよ? そのガキどもも含めて……な。ひゃーっはっはっは!!」




 すげえ……なんか……なんというか……こんな典型的な悪党、久しぶりに見た……。


 肩で風切って去っていくヤクザみてえな風貌のフォルムさん。泣き崩れるシスター。涙目でフォルムを睨みつける子どもたち。


 もう、この光景だけでも事態の背景すら見えるわ。


 ああ……また、めんどくさいことになりそうだ……。






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