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第五話-3



 アマドに呼ばれて、ハクスイは四階のラウンジにやってきた。ハクスイに背を向けて、片腕を白衣のポケットに突っ込みながら自動販売機に硬貨を投入しているアマドは、平調を装っているものの、とても万全の調子には見えなかった。


「先生は無事、なんすか?」

 缶コーヒーをふたつ購入したアマドは、曖昧な笑みを浮かべながら、そのうちの片方をハクスイに向かって放り投げてくる。

「そうは言い難いけれどね。私は機奨光レベルが相当低いから、なんとかこうして、動くことはできるのさ。そのかわりに、別室に入院している彩光使さんたちが……うん、ちょっと、ひどそうだけどさ」

「ユメたちもここにいるのか……」


「今はとりあえず、別棟で避難作業が続いているところだよ。ここにも、もうすぐで彩光使の愛徳大隊がやってくるかな」

 ハクスイは缶の蓋を開けて、コーヒーを口に含む。無糖のそれは壮絶に苦かったが、それはまるで今現在の状況のようだった。


「それより、その、ルノの容態は」

 ハクスイが尋ねると、アマドは視線を逸らした。ハクスイの病状を八年間もどうこうできなかった医使が、機奨光を失ったルルノノをたやすく治すことなどできないのだろう。

「そうか……ルノ……」

 ハクスイは拳を握る。


 もし冥混沌の放出が止まったとしても、彼女の機奨光は元には戻らない。ルルノノが言っていたように、彼女の頑張りは全て無駄になってしまったのだ。これからリハビリを繰り返して、ハクスイのように機奨光がなくても生活できるようになったとしても、彩光使に戻ることは難しいだろう。自分のことではないのに、ハクスイは悔しくなってきた。ルルノノの夢を邪魔し続ける大悪魔に、とめどない怒りが湧いた。


「ふざけんなよ……何様のつもりだよ……って、うおう!」

 そのときだ。病院が突如、大きく揺れたのだ。


 ハクスイすら態勢を崩してしまうような衝撃だった。危うくコーヒーを床に落としてしまうところだった。

「な、なんだ……? 地震? 嵐? って、なわけねえよな……」

 天ツ雲は常に機奨光によって守られている。どんなに大型な台風であろうと、天ツ雲に干渉を及ぼすことはできないはずだ。


 一方、アマドはその原因を即座に判断したようだった。口元に手を当てて眉根を寄せた。

「……天ツ雲を支えられなくなっているんだ」

「それ、どういう、ことですか……?」

 アマドは手で顔を覆う。彼女のそれほどまでに絶望的な表情は、ハクスイですら初めて見た。


「……ルルノノくんが吹き出した冥混沌のせいさ。この霧が天ツ雲を支える機奨光を失わせているんだ。彼女の300万がそのままマイナスに転換したせいでさ……実際に天ツ雲が空中分解したところなんて、歴史上にも類を見ないけれど、このままじゃ、そうなるかもしれない」


 あまりの大ごとに、ハクスイはたちくらみを起こしそうになった。口の中の苦味は、とっくに感じられなくなっていた。

「そんな、ルノひとりで、そんなことが……」


「彼女の機奨光は、異常だったからね……大悪魔も、そこに目をつけたのかも知れない……まさか、ベオラの狙いが、フィノーノ落下だったなんて……」

 アマドは舌打ちをした。

「未だに私を恨んでいるのか、しつこすぎるさ、べオラ……こんなとこなら、あの子がさっさと女神になれば良かったものを……」

「……女神に?」

「べオラとはちょっとした因縁があってね……本当なら、私が地上に降りてあの子をぶっ飛ばしてやりたいところだけど、今の私じゃ、この病院に入院している人たちの面倒を診るのが精一杯だからね……」

「大悪魔の名前を知っているって、先生って一体……」

 アマドは缶をくわえて、白衣のポケットに手を突っ込みながら、壁に寄りかかった。



「私はアマド。ただ、八年前の今頃は、アマテラと呼ばれていたさ」

 

 

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