第三話-8「こころを強くするための冴えたやり方」
レストランを出た後にも、ハクスイはショッピングモールに行きたがる姉妹に乞われ、当たり前のようにふたりの後を付いて行くことにした。どうせならと、きょう一日ルルノノに付き合うつもりだったからだ。
ニニノノがモールの一角にあるアクセサリショップに気を取られている隙だ。モール通路のベンチに座っていたハクスイは立ち上がり、ふと思いついて近くにいたルルノノに耳打ちする。
「ルノ、今からやるか?」
「え、えええ、こ、ここでー……?」
ルルノノは少し拒否反応を示した後に、断るかと思いきや、OKサインを出してきた。
「ど、どんなときでも、向上心と、自己鍛錬の気持ちは忘れちゃいけないんだよね……生きている限り、永遠に修行と言わざるをえないよ……!」
「お前は、いつでも全力だな……いや、良い覚悟だけどよ……つか、近くにあんだけ加虐心に溢れたやつがいるんだったら、あいつに頼めばいいんじゃねえの?」
ショーケースの中の宝石に見とれている女の子らしいニニノノを親指で指すと、ルルノノはとんでもない、と手を振る。
「実の妹にそんなこと頼むなんて、恥ずかしくて死んじゃうよ……!」
そういうものなのだろうかと思い首を傾げつつ、ハクスイは気を取り直す。
「じゃあ、やるかルノ、きょうは珍しくズボンなんだな」
「え、ああうん、どう? ふふっ、似合うかなぁ」
軽くポーズを取り、ルルノノはジーンズを履いた長くて細い足を強調する。似合っていないと彼女に告げられるのは悪魔ぐらいなものだろうが、問題はそこではなかった。
「スカートのほうが虐めがいがあって良いんだがな……」
「ちょ、や、そんな目で見ないでほしいなっ」
ルルノノはズボンの前を押さえながら後ろに下がる。ハクスイはモール内の通路の人通りがまばらなのを確認してから、ルルノノのそばに寄った。
「まあでも、やりようはあるか。いいか、ルノ、絶対に隠しちゃだめだからな」
「え? え? え?」
ハクスイはルルノノの後ろに回って、ルルノノのお尻に手を当てた。
「ちょ、に、に、にーさぁん……?」
困った顔で振り返ってくるルルノノに、ハクスイは少し迷ったあとで、彼女のジーンズを掴みながら、自分のシャツの裾を破ってみせた。
ビリリ、と音が響く。
「な、な、なにを……ま、まさか……!」
ルルノノの顔色が変わったのを見て、ハクスイはうなずく。
「お前の下着って、白ばっかりだよな」
「ちょー! ちょーっ! ちょーっとー!」
後ろの生地を破られたと思っているルルノノの腕を掴み、ハクスイは穏やかに語りかける。
「いいか、ルノ、きょう一日それで過ごせよ。手で押さえたり、なんかの袋とかで隠したら、その時点で俺とお前の仲はそこまでだからな」
「……え、えっちなのは禁止だって、言ったのにぃ……っ!」
ルルノノは涙目だ。本当はズボンの上の隙間から下着の色だけを覗き見ただけなのだが、そうとは知らないルルノノは、店にいる人間や通り過ぎる人たちが、自分の下着を見ていると錯覚していることだろう。
「後で弁償はすっから、心配するな。ま、堂々としてりゃバレねえよ。くれぐれも、絶対に手で押さえたらダメだからな」
手を当てられたら破れていないということに気づかれてしまうからだ。
「うう~~……うううう~~~……!」
ルルノノが今にも地団駄を踏みそうな顔で唸っているところで、ニニノノが戻ってきた。
「ウィンドウショッピングは終わったあとに、虚しくなりますね……わたしには、何年も手が届かないものばかり……ふう、あれ、どうかしました?」
「う、ううん! なんでも、なんでもないと言わざるをえないよ! だから、ほら、ニニちゃん、先に行って、ほらほら!」
見えないところに汗をかきながら、ルルノノは両手を振る。ニニノノも不審がっていた。
「……? いつも変だけど、きょうは特別変なねえねえ……」
「あたしは大丈夫だからさ、エンジェル大丈夫だからさ! あと二十件くらい回ろうね!」
「う、うん」
そんな挙動不審気味のルルノノの後ろから、ハクスイは美少女の首筋に向けて囁く。
「ちなみにお前それ、ニニノノに見つかったら、言い訳せずに、“エンジェル大丈夫! あたしはパンツを人に見せて喜ぶのが趣味の、ドMのド変態だから!” って言うんだからな」
「ちょ、に、そ、そんな……さ、さすがにそれ、ニニちゃんは、さすがにぃ~~……」
想像したのか、ルルノノの顔色がさぁーっと青くなってゆく。だが、その代わりにどういった感情の揺れ動きか、本人も気づかぬうちに機奨光が散布されていた。
「バレたらこれから幸せな暮らしができるぞ、ルノ。お前の言う修行が、どこでも可能になるぞ」
「そ、そんなの、無理、無理、むりむりむりむり、絶対無理……」
「口ではなんと言ってても、機奨光は素直だよな」
「こ、これはぁ~~……違うぅぅ~~~……」
ルルノノがそう言い張っても、彼女の身体からはきらきらと光の粒が放たれている。どうあがいても、悦んでいる以外は考えられない反応だ。
「?」
ニニノノはそんな姉の様子を訝しげに眺めていた。
ルルノノは帰る時までずっとこれがハクスイの口車だと知らず、恥ずかしそうに身をよじらせ、さらに弱点を克服し続けたのであった。