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第三話-7


「ねえねえが元気になったのは、そういう理由があったんですね……」


 ハクスイがルルノノの心を鍛える特訓しているということを――SM要素を除いて――かいつまんで語ると、ニニノノは納得してくれたようだった。

 本日のメインはランチだったため、一同はルルノノが同僚に教えてもらったというパスタ屋に入っていた。いかにも学生が初めてデートをするときに人気がありそうな、清潔感のあるキャッチーな内装であった。


 ルルノノはなぜだか、ハクスイにご馳走することに対して、少し嬉しげにしていた。ハクスイは、ルルノノ姉妹と向かい合って対面に座っている。


「……知らぬ間に、ねえねえがオトナになっているものと思ってしまい……」

「そ、その話はもういいでしょ、ニニちゃんっ、ほら、た、頼も、頼もっ!」

 無理矢理話を変えながらメニューを広げて、ニニノノの口を塞ぐルルノノ。


 ニニノノは甘えるような口ぶりで、姉を軽くつつく。

「ねえねえはなににするの?」

「あ、あたしはねー」

「これなんてどう? 激辛陰鬱パスタ“機奨光もぶっ飛ぶウマさ!”だって」

「あたしの人生に一個のトクもないよね! っていうか、なにその料理! 天使に毒だよ!」

「ねえねえ、お店の人が一生懸命頑張って考えているのに、一蹴するのはどうかと思う」

「あっ、うっ、ご、ごめんなさい皆様!」

「じゃあやっぱり罰として……」

「罰! 罰って言っちゃったね! ニニちゃんも、ほら、ゴメンナサイしてっ」

「ごめんなさい皆様」


「仲いいなお前ら……」

 からかわれていることに気付いていないルルノノと、無表情で姉をおちょくるニニノノは、自分とミズカのことを思い出させて、微笑ましかった。



 久しぶりに会ったニニノノは、やはりハクスイの目を見ても落ち込むようなことはなかった。常時、姉の機奨光に照らされているから、耐性があるのかもしれない。



 その後、三種類のパスタと取皿が運ばれてくる。湯気の立ち上る三色のそれらは非常に食欲を刺激した。姉との会話と食事を続けていた最中だ、唐突にニニノノが尋ねてくる。


「ハクスイさんは、ねえねえのことを、どう思っているんですか?」

 あまりにも突然すぎた。ストローをくわえていたルルノノが吹き出しそうになる。

「どう、って言われてもな」

 ちらりとルルノノを見やると、ルルノノは顔を真っ赤にして、なにものにも目を向けないような一心不乱さを取り繕って、パスタをフォークに巻きつけていた。


「変なやつだよな」

「そうですよね、変ですよね」

「妹まで認めるのか」

「ハクスイさんは、良い感覚をお持ちですね。冷静な目を持っている人じゃないと、ねえねえには付き合えないと思えますので、ハクスイさんは合格です」

「そりゃ嬉しいな」


 ルルノノはふたりのやりとりをちらちらを見つめて、すでにパスタの巻き付いていないフォークを噛んでいた。


「私、ねえねえって、アマテラさまに似てるって、思うんです。あ、知っています?」

 ハクスイは頬をかき、「そんな、恐れ多い!」と手を振っているルルノノを横目で眺めながら、なぜだか決まりが悪そうに答える。

「まあ、そら名前くらいは」

 そんなことを言った瞬間だった。ニニノノのくりくりの目が光ったような気がした。


「フィノーノが産んだ天使アマテラは、異例の早さで大天使となり、それから女神となりました。虹色に輝く特別な機奨光を所持していたことから、『虹彩なる太陽』の二つ名を持っています。もっとも最近に女神になったことから知名度も高く、まさに世界的な女神さまで、彼女が記録した写真集の最多発行部数は、天使のうち十人にひとりは持っている計算となり――」

「詳しいなオイっ」


 急に別人のような口ぶりとなったニニノノは若干嬉しそうに胸を張る。

「ニニちゃんは、マニアだからね……」

「ですからね」

 そのことに彼女は誇りを持っているようだ。ニニノノの瞳から微量だが機奨光が散布されていた。


「ねえねえって、アマテラさまみたいに、人を明るくさせたり、元気にする力があると思うんです。なんだか、どこか愛らしくて、間が抜けていて、なのに毅然としていて憧れちゃうっていうか……」

 話題のルルノノはというと、「いやあ、あたしなんてまだまだで……」とひたすらに恐縮している。


「……まあ、俺もどこか似ているとは、思うよ」

 ルルノノの秘めているポテンシャルは、すなわちそれほどのものなのだ。

 彼女のような天使こそが、将来女神の座を手にするのだとハクスイは思う。


「あ、でも勘違いしないでくださいね。アマテラさまに似てるからねえねえが好きなんじゃなくて、私はただひたすらにねえねえを抱きしめたいだけなんです。トゥルーラブです」

「……だんだん、お前に付き合うのが楽しくなってきたよ」

「つ、付き合うだなんて、にーさんそんな、中学生相手にハレンチな……!」

「お前はさっきから、俺の言葉尻ばっかり取ってんなよ。妹の求愛行動はスルーかよ」

「そんなところも可愛いですよね。ハクスイさんはねえねえのどの辺りが好きなんですか?」

「そういう意図的な聞き方をするんじゃない」

「じゃあ嫌いなんですか?」

「素直に答えれば良いのか?」

「どうぞ」


 開いた手をこちらに向けてくるニニノノに、ハクスイは嘆息をしてから、真面目に告げる。


「……感謝しているよ。ルノは根っからのいい奴だしな。俺相手にもまともに接してくれる。あと、可愛いかどうかに限って言えば……まあ、顔は、すげえ綺麗だろ……って、なんで俺にンなこと言わせたがるんだよ」

「恥ずかしがるねえねえの顔が見たいからじゃないですか」


 平然と言うニニノノの言葉に、ハクスイも斜めを見やれば、ルルノノは顔を赤くして俯き、ストローの包み紙をもじもじとこねくり回していた。そうして、「うううう……」と唸っていたりする。

「……なるほどな、初志貫徹してやがる」


 ブレの無いシスコンだ。

 

 


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