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灰冠のアーカイブ  作者: 深町 ネル
第一章『墓底のオルゴール』

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第5話 廃区三番の市場

船の中で、ミナから概況を聞かされた。


世界の名前はエルグレイア。


現在人類が暮らすのは「浮遊大陸」で、大陸は複数存在する。大陸間は渡橋船で行き来する。


下の霧は「霧底」と呼ばれ、立ち入り禁止区域だ。霧は精神に作用する。長時間いると幻覚や記憶の混濁が起きる。


「知っているか?」とミナが聞いた。


「断片的に。でも実体験として知っているわけじゃない」


「記憶がないって言ってたけど、生まれたてのくせに言葉は喋れるんだね」


「生まれたてではないと思うが、確かに変だな」


俺は自分の手を見た。


「たぶん誰かの記憶を吸収して、それで言語や知識を得ているんだと思う。自分の経験じゃなく、死者の記憶が俺の中に入ってくる」


「死者の記憶を読む能力——それが《残響読解》と呼ばれる能力よ」


「知っているのか」


「お前が持っているって聞いた。能力そのものは伝説の話だけど」


「伝説?」


「エルグレイア建国時の伝説に、《読者》と呼ばれる存在が出てくる。死者の記憶を読んで時代を記録したという。でも実在した証拠はない——それが今まで」


つまり俺が実在を証明している、ということか。


「お前はなんでその能力が必要なんだ」


「行きたい場所がある」とミナは言った。「でも入るには、そこの扉の前で死んだ人間の記憶が必要。白環教が殺して鍵を隠した。だからその鍵を読み取れる人間が要る」


「それが俺」


「そういうこと」


「もし読めなかったら?」


「次を探す」


「冷たいな」


「現実的と言って」


俺は苦笑いした。


苦笑いは、たぶん俺のオリジナルの反応だ。誰かの記憶から来たわけじゃない。


それが少し——救いになった。

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