想像以上に瘦せた土
「オスカー様、川魚獲って参りました!今日は5匹も罠に掛かってましたよ。
すごいですねあの罠、あんな漁具見た事もありません!」
「ああ、あれは”ずうけ”というんだ。ところで様付で呼ぶのはいい加減やめてくれ」
──あの二人とこの家に一緒に住むことにしてから三日が経過していた。
ガリガリに痩せていた二人の体力を回復させるため、俺は食料集めに奔走していた。
魚や山菜を採りに野に山にと忙しかったが、その甲斐あって二人は
三日前よりもふっくら少しはふっくらしてきたように思える。
今日はマーガレットが何か手伝いたいと言ってきたので、”ずうけ”の回収と
山菜採りをお願いしていたのだ。
その彼女はあの日から俺の事を様付けで呼ぶようになってしまった。
ずっと田舎暮らしだった俺にしたら、こそばゆいから止めて欲しいのだが・・・。
でも彼女が今日みたいに手伝ってくれるなら少し余裕ができるな。
「よし、これだけあれば今日食べる分には問題なさそうだな。俺はちょっと
畑を見てくるから、マーガレットはリーシアちゃんの面倒を見ててくれるか?」
「はい、わかりました!」
さて、ようやくこれで畑仕事に着手する事ができる。
何は無くとも穀物を生産できないと安定した食の確保は難しいからな。
リーシアが「いってらっしゃーーい」と手を振ってきたので俺も笑顔で応じる。
何だか孫の小さかったと気を思い出すな。
家に来たばかりの頃は怖がっていたのかあまりしゃべらずにじっとしている
事が多かったが最近は笑顔を見せてくれるようになっていた。
いつか畑の収穫なんかを一緒にやれる日が来ると嬉しいな。
─まぁとは言えこの畑の惨状をどうにかしないと何も始まらないのだが。
目の前に広がる家の前の広々とした畑。
ザッザっと畑の中を歩いてみて改めて確認するが、かなり深刻な状態だ。
領民がいなくなり農耕放棄地となって1年弱と聞いていたが、
雑草が伸び放題で畝なんかももう形を保っていないような状況だ。
でも一番深刻なのは土壌だろう。
カラカラに干からび地面はそこかしこヒビ割れている。手に持ってみると
かなり硬く、手の中で砕いてみればサラサラと指から零れ落ち、まるで
砂の様な典型的な痩せた土。
その証拠に植物図鑑で見た痩せた土に強い雑草『アレチノグサ』や
『ハキダメギク』、『イミナソウ』といった植物ばかりが根を生やしている。
本格的な春が来る前に、この土壌をある程度改善しないと行けない。
これは大掛かりになるなと無意識にため息が出てしまう。
・・・・と現状を嘆いていてもしょうがない。
まずはこの栄養の無い土壌の改善をするには取れる方法は限られてくる。
まず堆肥を撒いて土を起こすところから始めたいが、その堆肥を作るにも
今はなんの設備もないので却下だ。
ということで、前々からこういう事態も想定して策は考えてある。
今は近所に誰も住んでいないので、危険も少ないだろう。
さっそく俺は行動を起こすために準備に取り掛かる。
幸い今は春の手前、伸び放題の雑草はカラカラに乾燥しているのは都合がいい。
まずは安全確保の為に畑の周囲に生えている雑草を鍬で掘り返し
畑に無造作に散らして置いていく。
「おお!疲れるが若い身体はいいな!動く動く。わははははは」
前世の老骨な体に慣れていたせいか、若い元気な肉体に思わず笑ってしまった。
傍から見たら笑いながら鍬を振る変な男だけど周りに誰もいないし気にしない。
・・・・と調子に乗って鍬を振りまくっていたら流石に汗だくになっていた。
もう二時間くらい作業していたか?こんな時時計がないのは不便だな。
一旦休憩と思い井戸の方に歩いて向かうと、家の玄関の前にマーガレットと
リーシアが立っていた。手を振ると彼女は軽くペコリと頭を下げてくれる。
「お疲れ様ですオスカー様、手拭い持ってきました。使ってください」
「おお、気が利くねどうも」
俺はマーガレットから手拭いを受け取り汗を拭いた後、井戸から桶を引き上げ
柄杓で水をすくうとゴクゴクと井戸水を飲み干した。
前世では井戸水を飲む機会なんて、ほとんど無くなってしまったが冷たくて
やはり美味しい。自然のミネラルが入っているからだろうか?
「あのオスカー様?さっきから畑の周りの雑草を刈り取って畑に投げ入れて
いたようですけど、あれはどういう意味があるんですか?」
「ん?ああ見ていたのか?まだ終わった訳では無いがこれから焼き畑を
試してみようと思ってね」
「焼き畑?」
知らないのか。あまりこっちの世界ではそういう文化がないのか?
「ああ、焼き畑ってのは雑草や収穫後の作物を文字通り燃やして土の養分に
するんだよ。草木を燃やすことによって”リン酸”や”カリウム”の他”カルシウム”
なんかの栄養が供給できる。あと窒素も増加すると言われているな」
「リン・・・・?カル・・・え?」
「あ~すまん、ちょっと難しかったか。まあ要は土を肥沃にしてくれるんだ」
「そう・・・なんですね。オスカー様は博識なんですね」
つい前世の専門知識で説明してしまったが、こっちの世界ではわからんか。
農業やってたら当たり前に知っとったが、一般の人には難しいよな。
・・・というかそもそも文明レベルが前世の時よりずっと低そうだしなぁ。
あんまりそういう事は大っぴらに言わんほうがいいのかも知れないな。
話がややこしくなりそうだし。




