身寄りのない二人
「おい、君は誰だ?・・・・・・もしかして腹減ってるのか?」
茂みから顔を出した小さな子供は相変らず俺の焼いた川魚を凝視している。
警戒しているのか俺の質問には答えずに黙っているが、グウグウと腹の虫が
鳴いているのがここまで聞こえてきている。
少し離れている所から聞こえるってよほど腹が空いているらしい。
うーん、とは言え知らない男に急に近寄ってこられても怖がらせるかも
知れないし、もしかしたら近くに親がいるかも知れない。
腹を空かせた小さい子供だ。魚を分けてあげたいのは山々だが・・・
ここは一旦様子を見る意味でも放っておいた方がいいのかも知れない。
そう決めて俺は焼き上がった川魚を手に取り、ガブリと齧り付く。
おお!?これは美味い!
川魚だけあって変な臭みもなくホロホロの白身がたんぱくで癖になる。
夢中になって食べすすめ、あっという間に1匹完食してしまった。
もう1匹に手を出そうかとしたところで、また茂みの方からガサリという音
がした。思わず視線を上げると驚いた事に”二人いた”。
気付けば3メートルほどの距離に二人。
いつの間に距離を詰めて来てたのかという驚きと子供の他にもう一人、
その子の親か姉妹かわからないがボロボロの身なりをした年若い女性?
が俺に向かって土下座をしていた事に驚いた。
その女性は土下座をしながらも女の子の袖をぎゅっと握っている。
恐らく女の子の袖を握っていないと、今にも俺の魚に向かって走り出しそう
に暴れているからだろう。
「そこで何をしているんだ?」
「申し訳ございません。もう三日飲まず食わずだったのでこの子が・・・。
恥を忍んで申し上げます。幼いこの子に一口だけでも食べ物を恵んでは頂けない
でしょうか。・・・・どうか!どうかお慈悲を!」
良く見れば二人の姿は酷くやせ細っており女性に至っては手が少し震えている。
明らかに栄養失調か低血糖の症状だ。顔色も悪い。
泥だらけで手や足も傷だらけな上に裸足だ。一体どんな生活をしていたのか。
・・・・せちがらい世の中だ。
「こっちへ来い。全部食っていいぞ」
「!?・・・本当によろしいのですか!?」
二人に魚を差し出してやると、おずおずと受け取り食べ始めた。
無心になってムシャムシャと食べ進めていれば、ゴホっと咳き込んだので
竹製の水筒を渡してやると、ペコペコと何度もお辞儀をしながら喉に
流し込んでいく。
5分と経たずに全部食べ終わった二人は涙で顔をクシャクシャにさせながら
「ありがとうございました!ありがとうございました!なんとお礼を言えば
いいのかっ!このご恩は一生忘れません!」とまた地面に頭をこすりつける。
「あんた名前は?」
「私の名前はマーガレット、こっちは妹のリーシアと言います」
「そうか・・・じゃあマーガレット、一体どうしてこんなところに?親は?
良かったら事情を聞かせて貰ってもいいかな?」
妹を抱きしめる姉のマーガレットはポツリポツリと経緯を話してくれた。
彼女達姉妹は隣の領地であるディンブル伯爵領から徒歩でここまで来たと言った。
別に逃げて来た訳では無く、連日の飢饉で食べる物が無く口減らしの為に
両親に山に捨てられてしまったとの事だった。
驚いた事にこういう事は近年”よくある事”なのだそうだ。
行き場の無い二人はモンスターに怯えながらも、食べ物を求めて山中を彷徨い
時には芋虫や茸なんかを口にしながら飢えを凌いできたらしい。
夜の山は怖くて茂みの中で二人息を殺し抱きしめ合いながら過ごしたと、
少しカタカタと肩を震わせながら答えてくれた。
「一応聞くが行く当てはあるのか?」
「・・・・・」
そう聞くとマーガレットは首を振り地面を力なく見つめる。
予想通りな返答にどうするか頭を悩ませる。
正直俺も他人を助けられるほどの余裕は無い。
まだこっちに移り住んで初日だ。まさかこんな出会いがあるなんて一体
誰が想像できる?
”情けは人の為ならず”とは言うが、二つ返事で面倒を見てやるなんて言えるほど
楽観的にはなれない。
とは言え犬猫じゃあるまいしこのまま放置という訳にも・・・。
焚き火を囲んで二人とも何も言えずに気まずい沈黙が流れる。
妹のリーシアは満腹になったからかマーガレットの膝の上に頭を置いて
スヤスヤと寝息を立てはじめた。
そんな二人を見ていると、笑っている息子達や孫たちの顔が頭を過る。
ここで見捨てたら儂の子供達に顔向けできん・・・・か。
「よし決めた!」
パンッと俺が太ももを叩くとビクリとマーガレットが顔を上げる。
俺は彼女の顔を見ながら特大の笑顔で言ってやった。
「心配するな!二人とも俺がまとめて面倒をみてやる!その代わり元気に
なったら俺の畑を手伝ってくれ。いいか?」
最初は何を言っているのかわからないと言った様子でキョトン顔の
マーガレットだったが、理解したのか大きく目を見開いて手で口を覆った。
「で・・・でも!お気持ちは嬉しいですがご迷惑では?」
「若いんだからそんな細かい事気にするな!今日から俺達は生き抜く為の
運命共同体だ。OK?」
そう出来るだけ元気に笑って宣言してやれば、彼女は目から大粒の涙を零し
何度も「ありがとうございます」と繰り返していた。
正直二人を面倒見切れるかなんかわからない。
最悪三人仲良く飢え死なんて事になる可能性だってあるだろう。
けどここで見捨てれば一生あの時助けてやればなんて後悔しながら
生きていくのもつまらない。
助けてやる。いや助け合って生きる!そう覚悟を決めればあとは行動あるのみだ。




