少女との出会い
「荷物はこんなところだな。農作業に必要な物は裏の納屋にあるから使っていい」
──あれから一か月と半月、領内はめっきり春らしく暖かな日が多くなってきた。
体もリハビリの甲斐があって普通に歩けるまでに筋力が回復してきたので
本日、実家を離れて東の端にある小さな家に荷物を持ち引っ越してきた。。
かなり簡素な家だが一人で暮らす分には問題ないだろう。
「オスカー、お前が何を試したいが父さんは知らないが、まずは好きに
やってみなさい。何か相談したことが出来たら遠慮なく家に来るんだ。いいね?」
「はい、ありがとうございます父さん、無事作物が出来たらご報告に伺います」
そう応えると父さんはニコリと微笑んでから俺の腕をポンポンと叩いてから
黒い帽子を被って家を後にした。
あの二人との親子関係にも大分慣れて来た。
正直精神自体は70歳なので、かなり年下の親子に対して父さん母さんと呼ぶのは
最初はかなり気恥ずかしかったものだ。
父さんが帰った後、家の中を見て回ったが生活する分には充分な環境だった。
もちろん日本に住んでいたころのように水道なんて通っていないが
家の裏手に井戸もある。
薪も少量だったがストックがあったのですぐには困らないだろう。
春とは言ってもまだ朝晩冷えるから、これは後で薪も集めておかないとな。
問題は便所だろう。
こっちの世界に来たばかりの時はおまるで用を足して雑木林などに捨てている
と聞いてかなり抵抗があった。
堆肥を作る上でもせめて汲み取り式の便所と肥溜めを作らなくてはならない。
「とはいえ先だって必要なのは食料の確保だな・・・」
農作物はすぐに収穫できるものでは無い。
まずは安定した糧を得るためにも食料を確保するところから始めるとしようか。
植物図鑑を読み込んでおいたので、きのこや山菜など食べれる野草については
しっかりと頭に入れてある。
ただ大戦の影響で植物は穢れによってあまり食べ過ぎると中毒になるらしい。
だから野生生物も極端に減少していて狩りをするのも一苦労みたいだ。
そうなるとやはり釣りが一番手っ取り早い。
魚介類はほとんど穢れの影響を受けていないらしいし良いだろう。
実はこの日の為に漁具を複数準備しておいた。
長い銛と釣り竿、後は竹で編みこんだ魚用の罠だ。
”ずうけ”と呼ばれるこの罠は中に漏斗状の返しがあり、入った魚は外に出られない
仕組みになっているので、仕掛けておくだけで良いのでお手軽だ。
前世で爺様に教えて貰っておいて良かった。
知識はいつどこで役に立つかわからないものだ。
俺は動きやすい服に着替えてから、まずは”ずうけ”を肩に担いで川に向かう。
さっきこの家に着くまでに良い小川が流れていたのを確認していたのだ。
餌は一応虫の死骸やワーム系の虫を用意しておいた。
数分歩いていると目的の小川に着いたのでさっそく近場にあった大きな石を
集めて川に魚を誘い込む魚道を作る。
ここに仕掛けを置いておけば魚が獲れるだろう。
さて、罠はお手軽だが獲れるまでに時間が掛るので今日の分の食料は釣りで
手に入れる事にしよう。
今日は珍しく天気が良く絶好の釣り日和だ。
俺はさっそく釣り竿を手に良さそうなポイントを探して岩場を歩く。
実はこの釣り竿は父親であるマーヴィンにプレゼントされたフライフィッシング
用の釣り竿だ。
「フライフィッシングは何回かしかやったことが無いが、今後の為にも慣れておくか」
糸を弛ませヒュンヒュンと竿をしならせながら弧を描くように釣り針を操つる。
魚からはきっと羽虫が空を飛んでいる様に見える事だろう。
ザブザブと川に膝まで浸からせながら移動しつつ魚が食いつくまで繰り返す。
水面スレスレを這わせながら羽虫そっくりの仕掛けが宙を舞う。
最初はぎこちなかったがすぐに勘を取り戻してきた。
ザパッ・・・・ギュンッ
数分もしない内に水面から魚が顔を出し、ガブリと疑似餌に喰いついた。
「くっ・・・この!!」
結構な手ごたえに悪戦苦闘しながらグルグルとリールを巻いていく。
「よしっ!!やったぞ!結構大物だったな・・・ふふふ」
釣り糸を手繰り寄せると山女魚に酷似した魚がピチピチと元気よく暴れる。
その川魚を手に取り逃がさないように魚籠に放り込んだ。
幸先の良い釣果に気分を良くした俺は、何度も釣り糸を投げ込み
その後二時間かけて4匹ほど釣り上げた。
「よし、これだけ釣れば今日はもう充分だろう。一旦昼飯にしよう」
俺は乾燥した草に火打ち石で火を起こすと集めておいた枯れ枝が燃え始めた。
削った竹筒に息を吹き込み火が大きくなってきたのを確認してから
釣った魚に細い枝を突き刺して炙り焼きにしていく。
川魚は暫くするとジュージューと音を立てて表面にこんがりときつね色の
焼き目が付いてきた。
「そろそろ食べごろか・・・・ん?」
その時近くの茂みからガサガサと音がしたので、とっさに腰の短刀を引き抜き
構えた。・・・・もしかしてモンスターか?
領地付近には魔物が出没するこは滅多に無いと聞かされていたので油断した。
熊には遭遇した事はあるが、モンスターというのが一体どれほど大きいのか
見当もつかない。
もし熊のような習性であれば下手に逃げれば追ってくるだろう。
俺は立ち上がり音のした茂みの様子を冷や汗を流しながら見守る。
次の瞬間ガサっと茂みから顔を出したのは・・・小さな女の子だった。
その子は俺の存在に気づいていないのか、焚き火の方をじっと見ている。
いや、正確には今しがた焼き上がった魚を物欲しそうな目で見ていた。
誰だ?領地の人の子だろうか?
「おい、君は誰だ?もしかして腹減ってるのか?」




