新たな器は痩せこけた躰
「オスカー?オスカー!!良かった目が醒めたのね。一時はどうなる事かと・・」
──目を開けると目の前に見知らぬ顔の外国人が2人、俺の顔を覗き込んでいた。
見知らぬ部屋、見知らぬ二人にそう声を掛けられ、ただ戸惑いを覚える。
二人は俺の目が醒めた事に対してか何故か嬉しそうに手を握ってくる。
状況が良くわからない。
確か・・・死後の世界にいたはずだが、気づけばベッドの上に寝かされていた。
2人は亜麻色の瞳にグレーの髪色から外国人かなとは思う。
異国の言葉をしゃべっているはずなのに何故か言語が理解できるのが
混乱に拍車をかける。
「驚いたな、もう目覚めないかと思ったが!オスカー君、これが何本に見える?」
そう声がした方を見てみるともう一人いた。
ベッドを挟んで二人とは反対側に座っていた白い髭を蓄えた男性。
白衣を纏っているので恐らく医者だろうか?
彼は俺の目の前に指を突き立てそう質問をしてきたので「1本」とだけ答えた。
「君の生年月日とフルネーム、ここがどこか答えられるかな?」
「・・・・・・」
思わず前世の生年月日と名前を答えそうになったが、何故かそれは状況を
さらにややこしくしそうな気がしたので口を噤んだ。
「どうだい?わからないかい?」と医者から言われたのでコクリと頷いておいた。
その反応に医者は胸ポケットから銀色のライトを取り出し、俺の瞳にその光を
当て下瞼を引っ張って観察する。瞳孔でも見ているのだろうか?
「どうやら事故後の一時的な記憶の混濁が見られますね。でも身体に影響は
無いのでこのまま経過を観察していきましょう」
「そうですか・・・・先生、息子は大丈夫なんですよね?」
その後も聴診器を当てたり脈も測ったりしてくれていたが、特に異常は無いのか
うんうんと彼は頷いてから答えた。
「恐らくは問題ないと思いますが、心配であれば明日もお伺いします。何かあれば
直接診療所へ。申し訳ないが私は次がありますのでこの辺で失礼します」
そう言うと白衣を着た男性は大きな革製の鞄を手に持ちスタスタと忙しそうに
ドアの方に歩き出した。
二人は慌てて立ち上がり「お忙しい中ありがとうございました」とその男性に
声を掛けて見送る為か彼の後に付いて行った。
二人が部屋を出て行ったのを見てから改めて部屋を見回す。
あまり裕福な家庭では無いのか部屋は全体的に広いが質素で飾り気がない。
掘っ建て小屋とまではいかないもののかなり年季の入った木造の家といった
印象でベッドの掛布団やシーツは継ぎ接ぎだらけだ。
俺の小さい頃もあまり裕福な家とは言えなかったがここまででは無かった。
あの二人が戻ってくるとベッドの小脇にある小さな椅子に腰かけ
柔らかく微笑みながら年若い女性が俺の手を握る。
「オスカー、あなた自分がどうなったか憶えてる?」
聞き馴染みの無い名前に一瞬戸惑ったが、真っすぐに俺の瞳を見て語り
掛けるのを見るに恐らく俺の事を言っているのだろうと悟る。
考えてみれば閻魔様は新しい器を用意すると言っていた。
もしかしたらこの2人の息子であるオスカーという人物に俺の魂が入った
もしくは憑依した・・・という事なのだろうか?
その辺の説明は全く受けていなかったので、一体どういう経緯でこの肉体に
転生してしまったのか、本当のオスカーはどうなったのか
さっぱりわからないので答えようがなく黙っていたら、2人共少し複雑そうな
表情をして顔を見合わせ教えてくれた。
どうやらオスカーは轢き逃げ事故にあったらしい。
車ではなく馬車に轢かれたのだそうだ。
馬車・・・。。
という事はあまり前世のような文明は発展していない世界なのかも知れない。
母親にお使いを頼まれ町で買い物をした帰り道に暴走する馬車に勢いよく
跳ね飛ばされたオスカーはかなりの重傷で事故から半年以上寝たきり
だったらしく、医者からはもう目覚めないかもと言われていたと聞かされた。
犯人はそのまま逃走し未だに捕まっていないらしい。
「目覚めてくれて本当に良かったわ。まだ起きたばかりで本調子じゃない
でしょうから今日はゆっくり休んで少しずつリハビリして行きましょう」
そう言って彼女は握った手にもう一つの手を重ねてくれる。
彼女の横に立っていた男性 (恐らく旦那さんだろう)が彼女の肩に手を置き
寄り添うと彼女は彼の腕に頭をそっと預けた。
きっと仲の良い夫婦だのだろう。
二人はその後も少しお話をしてから食事を用意してくると部屋を出ていき
ようやく一人の時間が訪れる。
「ふーーやれやれ。まさか爺の体で転生するとはさすがに思っていなかったが
これは予想外だな。これからどうするか・・・」
思わずそうぼやきながら自分の手のひらを見ると、もちろん手はしわしわという
事は無くむしろ若く小さな手だった。
でもあまり肉付きは良くなく痩せている手に、もしやと思って服を捲りあげると
肋骨が浮き出る程に痩せこけた体という事が一目でわかる。
事故後の影響なのか貧しさゆえなのか、まだそれはわからないが健康とは
言い難い肉体にこれは先行き不安だなと頭を抱えた。
その時不意に窓がガタガタと震える音がしてきたので、視線を移すと外は
風が強く吹雪いていて窓にはびっしりと雪が付着していた。
さっきから随分冷えると思っていたが、こっちの世界の季節は冬らしい。
痩せこけた体では立ち上がる事も出来そうも無いので、ぼんやりと外を眺めて
いると急に睡魔が襲ってきた俺は布団に潜り込みひと眠りする事にした。
「あまり良い環境では無さそうだけど、あの二人は良い人そうだ。うむ前向きに
生きて行こうか。生きてりゃあ何とかなる」
そう自分を励ますように呟いてから俺は深い眠りに落ちた。




