死後の世界と輪廻転生
「ほ~本当に閻魔様って実在したんじゃなぁ。こりゃあたまげたわい」
─死後の世界。
儂は信心深くは無いが『今わの際』に、もしそんな場所があるんだとすれば
これから三途の川を渡って行くのだろうかと自問した事はある。
三途の川は渡らなかったが、気づけば儂の前には生前どこかで見たような
巨大な体躯をした閻魔様が儂を見下ろしていて、思わずそんな正直な感想が
口から零れていた。
「ふむ、君には私がそう見えているのか?私は死者を案内をする死後管理局の
職員で残念ながら君の言う『閻魔様』では無い。
私の姿がそう見えているのであれば、それは君が生前の経験や知識からの想像が
反映されている姿だ」
「ほう、そういうものですか・・・。ところで儂はやはり死んだのですか?」
「ああ、私の前に来たという事はそういう事になる」
もしかしたら夢なのではないかと少し疑いもしたが、やはりここは
死後の世界で間違いないらしい。
死んだのか・・・。少しだけ動揺したが、まあとは言えいい歳だったし
いつかこういう日はくるだろうと覚悟はしていた。
百姓の家に生まれ、長男だったから当然のように家業を継ぐことを
受け入れ儂もまた百姓として米作りをして生きてきた。
他に色々な生き方もあったかも知れないが、それしか出来んかったし
それで満足もしていた。
真っ青な空の下、土に塗れ汗をかき農作物を育てる毎日。
お見合いではあったが、儂には勿体ないくらい別嬪で器量良しの嫁と
結婚できたし子宝にも恵まれた。
順風満帆とは行かないまでも胸を張って生きてこれたと思う。
後悔はない。
ああっ!!
でもそう言えば死ぬ間際に孫の吹雪に大変なお願いをしてしまった
気がする。確か意識が朦朧としていて・・・
まだ収穫前の作物が心配だったから畑を頼むと言ってしまった気がする。
悪い事をしてしまったなぁ・・・。
あの子は根が真面目だから変に真に受けていなけりゃいいが。。。
「さて本題に入らせてもらおう。君たち死者の案内をするのが私の職務なのでね」
そんな事を考えていると閻魔様・・・に見える方にそう言われ意識を戻される。
「最初に説明をしておくと、死んだ者は生前の行いによってこの先の行く
場所が変わってくる。善行をよく積んだものは天界に招かれ、悪行ばかりを
積んだものや自死を選んだものは地獄で魂を焼かれる。
そのどちらでもない者は魂を浄化され再び輪廻に戻される。
まぁあくまでここで言う天国や地獄という表現は君の住んでいる
星の文化圏に合わせて呼称しているだけだが・・・」
そう説明しながら閻魔様 (仮)は天網碌という表題のついた大きな本を
取り出すとペラペラと捲っていき、やがてピタリと動きを止めた。
「ほう、君は生前かなりの善行を積んでいるようだ」
「善行?そんな事意識してしたつもりは全くないのじゃが」
「君がどう思うかではないので問題ない。これは理の話だからね。
生前の名前は秋山孫六、戒名は秋穂か。農民らしい良い名じゃないか。
農業を通じてかなりの社会貢献をしているようだ。それに子孫も多い」
「それしか取り得が無いもので。社会貢献と言われるほどの事では
無いと思うがね」
米作りに関してはありがたい事に皆さんから美味しいと評判で
唯一自分に取って誇れる部分ではあるが、儂にとっては生活の一部だったし
子供達を食べさせていくのに必要な事だった。
それが善行、社会貢献と言われる程の事なのかはあまりピンとこない。
「ふむ、君は本来前世の功績から魂の位階が上がり浄土へと招かれる事に
なっているのだが・・・・私からひとつ君にお願いがある」
「お願い?」
「ああ、この世界には君が生前いた地球と呼ばれる星以外にも数多の星があり
数多の世界がある。俗にいう三千世界というやつだ。
その内の一つの世界が今危機に瀕していてね。そこに住まう人々が絶滅
してしまう可能性が非常に高いんだ」
別の世界の危機?
お願いの前振りとして、いきなりそんな壮大な話をされても農家をしていた
だけの老いぼれた自分に何をお願いするというのだろう。
世界でも救えと言うつもりじゃろうか。きつい冗談だ。
「そこで君にはその世界、その地において農家として力を貸して欲しいのだ」
「農家として?なんでそうなるんじゃ?農業で世界は救えないと思うが・・・」
「もちろん世界を救ってくれとか大仰な事をお願いするつもりは無いさ。
ただ人は生きていく上で食べなければ生きてはいけないだろう?
君にはその地で作物を作る事で残り少ない人々の助けになってあげて欲しい」
「わし一人で作物を作ったところでそんなに多くの人を救えるとは
思えんのじゃが。誰か別の人に頼んだ方がええと思いますがね」
「ああ、君一人では救える人は限られているだろう。だから君にはある
権能を与えられる事になっている。それが役に立ってくれるだろう。
だから君は前世の時と同様、農家として気ままに生きるだけでいいんだ」
「はあ・・・・農家として・・・」
─こうして儂は閻魔様に半ば強引に次の人生を押し付けられてしまった。
本当はこの後も
『善行を積んだと言っていたのにそんな罰ゲームみたいな世界で次の人生を
生きなきゃいけないのは理不尽だ!!』と訴えたのだが
口の巧い詐欺師のような口車にまんまと乗せられてしまった形だ。
まあ、農業は前世でしておったし、赤子として転生する訳でなく
新たな魂の器として若い肉体を用意してくれるとの事だったので
最後には渋々了承した。




