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かまちょ、ヤンデレ魔法使いにガッツリ執着されて…ちょ~ご満悦♡

作者: たかさば
掲載日:2026/01/18

「ねえ、誰か……!!! 今すぐ、私のこと、構ってよぉ……!」


 放課後の図書室。

 月宮(つきみや)ひよりは、涙目でスマホを睨みつけたのち、机に突っ伏した。


 LINEは既読なのに、返信なし。

 はりきってアップしたインスタのストーリーなのに、誰も反応してくれない。

 真性”かまちょ”である彼女は、ガッツリマジ凹みしていた。


「もう、限界……、ごふっ‥‥‥」


 血を吐きそうになった、その時。

 涙で揺らめく視線の先に…一冊の古びた本を見つけた。


 棚の奥にひっそりと置かれた、地味な本。

 なぜだかとても…気になる。

 涙と鼻水を袖で拭ったひよりは、おもむろに立ち上がり、そっと近付いて…手に取ってみた。


『魔 導 書 ~エテルニア~』と金文字で刻まれた、ほのかに温かみを感じる…革の表紙の分厚い本。

 天井のLEDライトの光を浴びるその本は…まるで誘うかのように、にぶく輝いている。


 そっとページを開いてみた、その瞬間。


 まわりの空間が歪み、黒い魔法陣が床に浮かび上がった。


 生暖かい風と共に、淡い光が…体のまわりに散る。

 背を丸くして両手で顔の前をガードし、視界が落ち着くのを待って…顔をあげると。


「え…、ウソ…!」


 いつの間にか、漆黒のローブに身を包んだ美青年が現れていた。

 シュッとした顎、長い直毛の黒髪からのぞく切れ長の目、高い鼻にぶ厚すぎない唇…見た目こそ怪しいが、完全にストライク範疇である。


「君を…孤独から救うと約束しよう。有り余るこの力、全てを捧げる乙女が必要なのだ…。ずっと…待っていた、僕を使役する、唯一を。この力が尽きるまで、君を永遠に…構うと誓う……、おお、今まさに……」


 なにやらブツブツとつぶやき続けているその瞳は狂気に満ち、微笑みはひたすらに甘く、そして何よりも…危険な香りがプンプンしている。


 ひよりは、思わず叫んだ。


「……なにこれ、最高かよ♡ ねえねえ、お兄さんお名前はっ?! あたしひより!!」

「る、ルシフェル……」


「や~ん!!マジカッコよ!! ねえねえ、どうやってかまってくれるのルシフェルっ♡とことん甘やかして♡はよ、はよ!!!」

「~っ?!ええっと、ハイ?!」


 ハイテンション女子を前にして、シリアスムードは秒で吹っ飛んだ。



 かくして、美貌の魔法使いおよび召使い兼頼れるお兄さんポジション(過保護気質&心配性そのうえ甘やかし放題)24時間いつでもどこでも構ってくれるスパダリを手に入れたひより。


 打てば響くような50000%の満足をバッチリ提供してくれる魔法使いのおかげで、一ミリもストレスのない毎日を過ごすようになった。

 攻撃的だった性格はみるみる丸くなり、返事や反応に執着して自己アピールする事しか考えられなかったのが嘘のように優しさと思いやりを振り撒くようになって、SNSへのいいねも爆伸びし始めた。気のすむまで鬼送信していたLINEはなりを潜め、誰かの失礼極まりない誤爆にもスルーを決めることができるレベルにまで落ち着いたのだから恐れ入る。


 時々ルシフェルの表情が曇りがちなのが気にはなっていたものの…、ひよりはちやほやされる毎日に大満足することに忙しく、ついつい見て見ないふりをした。




「ひよりが今日泣いた理由は……、あの子か」


 とある日の、放課後。

 ルシフェルは校舎の屋上から、ひよりの教室を見下ろしていた。


 友達の沙耶に「ちょっと距離置こうか」と言われ、ショックで涙ぐんだ、その姿。

 その場面を思い出すだけで…、胸のあたりが重苦しい。

 少しでもひよりの苦しみを取り除いてあげたい…、そう願う気持ちを抑えきれない、ルシフェル。


「君を悲しませる者は、()()()()()排除すべし。これは“愛の魔法”だ……」


 ルシフェルは魔導書を開き、静かに呪文を唱えた。


 ──翌日、沙耶は「親の転勤で急に引っ越すことになった」と言い残し、学校を去った。




「ひよりが、あの先生に怒られて落ち込んでいた……、ならば」


 ひよりの苦手としている担任、田中。

 なにを言っても大人の常識とやらで雁字搦めにし、天真爛漫な女子の良さをつぶしにかかる…不届き者だ。

 首を垂れ、小さくなっていくひよりの姿を思い出すだけで…脳みそが沸騰する。罪深いものには…、相応の報いを受けさせねばなるまい。

 止めるものがいないこの世界で、ルシフェルは際限なく魔法を使う。


 ──数日後、田中先生は「体調不良による長期休暇」に入り、代わりに優しい女性教師が赴任してきた。




「最近、学校の居心地が良すぎて良き~!!」


 ひよりは変化に気づきながらも、ルシフェルの関与には気づいていない。


「最近みんな、私に優しすぎない? こんなに幸せでいいのかな?」


 疑問を口にする、ひより。

 友達はみな彼女に気を遣い、気のすむまで話に付き合ってくれるし、めっちゃ盛り上がる。塩対応がデフォの幼馴染を追いかける必要がなくなり、余裕も出てきた。厳しくてウザかった先生も甘くなり、クラスの空気も妙に穏やか。テストは簡単だし、成績もめきめきと上昇中なのだ。


「君が笑ってくれるなら、それでいい。僕が“調整”した…それだけのことさ」


 ルシフェルは穏やかに、幸せそうに微笑んだ。


「……それって、私のために世界を変えてくれたってこと?」


 驚きながらも、ひよりはどこか嬉しそうに言った。


「そう。ひよりの涙は、なによりも…重い。僕の魔力が尽きようと…崩壊しようと…捧げて、尽くすよ?」


 ひよりは、少しだけ怖くなった。


 でも、それ以上に――()()()だったのだ。




「ひより、最近……あいつとばっかりだな」


 とある日の、放課後。

 校門の前で、ひよりの幼馴染兼天敵である佐伯湊( さえき みなと)は、ぽつりと呟いた。


 ひよりの隣には、当然のようにルシフェル(カジュアルフォーム)が立っている。

 手にはひよりの日傘、肩には彼女のカバン、そして瞳には…彼女への愛しかない。


「アレ、みなとく~ん、もしかして…嫉妬してるの? ふふ、キミがかまってくれないからルシフェルに乗り換えたんだよ〜♡私だってね、いつまでも塩対応くらって…さめざめと泣いてる訳じゃ無いっつーの!」

「……それ、本気で言ってるのか?」


 みなとの声には、怒りと哀しみが混じっていた。

 だが、お花畑状態のひよりは気づかない。


 イケメンの腕に絡みつき、満悦の笑みを浮かべる幼馴染を、湊は何も言わずに見送った。




 その夜。

 ルシフェルは、静かに…魔導書を開いた。


「……ひよりが悲しむ原因となりうる、アイツ。消えてもらうしか……、ないな」



 やたらと簡単になってしまった授業に見切りをつけ、自主的に参考書をめくっていた湊の足元に、魔法陣が現れた。

 突然眩い光に包まれ、ふわりと浮いた身体に驚いた湊。


「な、なんだよこれっ……!」


 声をあげた、次の瞬間。

 異世界エテルニアへの道がつながった。


 この世界の、ごく普通の男子高生は…強制的に転移させられてしまったのである。


 そして、この世界の歴史が、乱暴に…歪まされた。




「ルシフェル、湊を……どうしたの?」


 数日後。

 ひよりはようやく違和感に気づいた。


 ムカつく幼馴染の姿が、どこにも…ない。

 先生は「転校した」と言うが、そんなはずはない。

 久しぶりにおばさんに会って話を聞くも、会うたびに旅に出ただの、親戚の家に修行に行っているだの、入院しているだの、そんな子はいませんだのと違うことを言ってきて、違和感しかない。


 これは絶対に…ルシフェルの仕業に違いない。

 ひよりが問い詰めると、ルシフェルは悪びれもせずに微笑んだ。


「君のためだよ。彼は君を傷つける存在だったしね。いなくなって…スッキリしたでしょ?」


 もっと褒めていいんだよという表情をしたあと、そっとひよりを抱き寄せ…髪にキスを落とし。

 そのまま唇を奪おうとした、その時。


 ひよりの大きな目から、ポロリ、ポロリと…涙の粒が零れ落ちた。


「違うよ……!憎たらしいけど、み、みなとは、私の…大切な、幼馴染、なのにぃ~!!」


 ひよりの叫びを聞き、ルシフェルは…沈黙した。


 まさか、自分が…ひよりを泣かせてしまうなんて。

 自らの失態に気が付き、胸が張り裂けそうだった。


 すぐさま異世界への扉を開くことを決めた、ルシフェル。


 ひよりとともに剣と魔法があふれる異世界へと転移し、湊を探す旅が始まった。




 《エテルニア》の王都・ルミナリアにたどり着いたひよりとルシフェル。

 何やらざわついているので、耳を澄ませて情報収取にあたることにした。


 すると……。


「いよいよご結婚だそうよ!」

「楽しみだねえ、聖騎士様のご正装!」

「セレナさまのお幸せそうなお顔と言ったら…」

「ミナトさまの凛々しさは80過ぎの婆さんでもキュンと来るのう♡」


 このところ話題になっている人物の噂を耳にして、ひよりは心の底から驚いた。


「ちょ、ちょっとお話、聞かせてください!!!」




 王女を魔王の襲撃から守り、ハートを射止め、次期国王として指名された賢王の器。

 その名は、聖騎士、ミナト=サエキ。


 ルシフェルの魔法で豪華な宮殿の中庭に降り立ったひよりが目にしたのは、王女セレナと手を取り合って微笑む、コスプレ上等バッチリ正装のゴテゴテの騎士姿をした湊その人だった。


「みなと……?」


 空気を読まず、仲睦まじい様子の二人の会話を遮り…思わず話しかけてしまったひより。

 こちらに視線を向け一瞬驚いた表情をしたのち、きらびやかなお姫様に頭を下げ、こちらへと向かってきた…幼馴染。


「ひより……来たのか?!」

「みなと…、とんでもないことをしてしまって、ごめんなさい。謝って許される事じゃないってわかってる、でも…」


 ひよりは、殴られることを覚悟して誠心誠意謝った。

 湊は、いつも自己中に言葉を投げつけてきていた幼馴染の、今までに見たことがないような態度に驚いた。


 涙ながらに語るひよりを見守るルシフェルの表情は…いつになく、硬い。


「いいよ、ひより。俺はもう……ここで生きるって決めたんだから」

「でも!! ルシフェルなら、元の世界に帰せるんだよ? 時間だってつないでくれるって、元に戻れるって!」


 真っ白い甲冑に身を包む幼馴染のツルっとした小手に包まれる手を取ったその時、ひよりの手の上に王女セレナの白魚のような手が添えられた。


「彼は…私の命の恩人、そして…かけがえの無い人。ミナトの心は、もう…こちらにあります。だから…」


 王女セレナは、ひよりに優しく微笑んだあと…視線を湊に向けた。


「…そう言うこと。わざわざ来てもらって悪いけどさ、俺のことは諦めてくれよな、ひより!」


 幸せそうに微笑みあった二人を見て、ひよりは言葉を失った。


 小さなころからずっとそばにいた、憎たらしいけど…身近にいた、湊。

 大人になってもなんだかんだで、縁が続いていくものとばかり思っていた。

 自分の世界から、一人の人間が消え…違う世界で、生きて行く……。私のせいで、運命を捻じ曲げられて…。


 手を取り合い、少しだけ不安そうな眼差しでこちらを見ている湊と王女セレナ。


 二人の幸せは、この世界で…続いていくのだ。

 ミナトはもう…幼なじみとして過ごした世界には、戻らないのだ。

 戻らないと、選択をしたのだ……。


「ひよりには…、僕がいるでしょ。ずっと、構ってあげるよ?」


 ルシフェルがそっと肩に手を置いて囁いた。

 ひよりは、ルシフェルの真剣なまなざしを受け、頷く。


「……うん。そっか…、そうだね! ルシフェルがずっと構ってくれるんなら、私も……ずっと、ご満悦でいられるもんね♡」


 異世界エテルニアの宮殿の庭で、二組のカップルが幸せそうに笑い合う声がこだました。




 ややこじれていた関係を修復し、和解したひよりと湊。


 ひよりとルシフェルは、せっかくなのでエテルニア観光を楽しんでから世界を渡ろうと考え、王都ルミナリアの宮殿に滞在することにした。


 煩わしい人間関係や、難しい勉強、めんどくさい掃除も無ければ、魔法を使った物珍しい暮らしがあふれている、この世界。

 ひよりは異世界の非日常的な暮らしを楽しみながらも…、複雑な気持ちを抱えていた。


 湊は王女セレナと幸せそうに過ごしている。

 あんなにガサツで乱暴で気がきかないおこちゃまだったのに、こんなにも甲斐甲斐しく女性をサポートするなんてという驚きがすごくて…正直ついていけてない。


 ルシフェルは相変わらず過保護で、ひよりの一挙手一投足に魔法を使ってしまう。

 甘やかされ過ぎて自分がダメになってしまうのではという不安が常に漂っているが、この世界では常識だと言われて…容認するほかない。

 こっちで暮らすことも考えてみないかと言われて、迷っていたりもする。ルシフェルの魔法があれば無双状態だけど、推しメンや大好物のひつまぶし、おいしいケーキにカラオケなんかの娯楽は…この世界には存在していない。


 何となくモヤモヤしながら…、いつ帰ろうか、これからどうしようか、決めかねる毎日。



 そんな中、王女セレナがひよりに声をかけてきた。

 女性同士、二人だけでお茶会をしましょうというお誘いだった。


 ほんの少しだけ、胸のあたりが重い気がするのは…湊とこの人が恋仲であるということや、この状況を生み出してしまったのは自分だという自責の念が顔を出しているに違いないとひよりは思った。

 胸のつかえを軽くすることができるかもしれない…、そんな気持ちでお茶会の誘いを受け、席に着いた。


 当たり障りのない話題で盛り上がり、少しばかり場が和んだころ、王女セレナが少し表情を暗くした。

 もしかして何か責められるのかもしれない、追及されたらどうしよう…そんなことを胸に思い浮かべながら、様子をうかがう。


「ひよりさん……。あなたは、ミナトの大切な人だったと聞いています。あなたにとっても、ミナトは…大切な人、ですよね」


 ひよりと湊は、幼馴染ではあったけれど恋人ではなかった。好きというよりはむしろ…家族、あまり相性の良くない、同い年の兄のような、弟のような感じだった。

 自分の歴史の中には、確実に湊がいる。湊の歴史の中にもガッツリ自分が存在しているはずだ。…そういう意味では、大切な思い出を共有する人物で…大切な人だと言える。現にひよりは、湊がいなくなった時、取り戻しに行かなければという思いが抑えきれなくなって…ここに来たのだ。

 けれど、湊にとって自分が大切かどうかは…、わからないし、知らない。


「だった、かも……? でも、今はお互いに一番大事な人がいるし…、ルシフェルがいれば、まあ…、うん……」


 はっきりしない返事を聞いた王女セレナは、にっこりと微笑んだ。


「あの、私たちも…“大切な人”に、なりませんか?」


 どこからともなくティーセットが現れ、良い香りのお茶がカップに注がれて目の前に置かれた。

 テーブルの周りに、花火のような花々が咲き始める。

 美味しそうなスイーツが、ポンポンと現れて…テーブルの上に並んでいく。


「えっとぉ…?? これ、全部セレナさんの魔法?すごくて…すごいですね?!」


 突拍子もない申し出といきなりの演出に、思わずおかしな事を口走ってしまったひより。


 断れない雰囲気じゃない? もしかして王女は女性も好きパターンだったり…?

 ひょっとして自分もこの世界に残らないといけなくなるかもしれない!!

 ……色んな考察が頭の中で音速でぐるぐると巡りはじめる。


 キョロキョロと視線を動かし、落ち着かない様子を見せるひよりを見て、王女セレナはクスッと声を出して笑った。


「フフッ…! ありがとう、遠慮なく食べてね? 実は私のお手製なの、気に入っていただけるといいのだけれど。ミナトは甘いものが苦手だから、あまり食べてくれなくって」

「ええー!!もったいな!!こんなにおいしそうなのに…全部いただきます!!!…って、ウマー!!!あいつマジ何やってんの?!あ、あとで絞めとくね!!!」


「メイドたちにも差し入れるのだけど、みんなすごく褒め称えるから…逆に自信が無くなってしまうのよ。できれば…忌憚のない感想を聞かせてほしいわ?湊から、ひよりさんはとてもまっすぐで、ウソがつけなくて、思ったことはすぐに口にする人だと聞いているの」

「ええー!!モグ、モグ…!!褒め称えて当然っしょ?!美味すぎるし!!っていうか、湊、なんか変なこと言ってなかった?!」


 庭園のどこかぎこちない空気はいつの間にか消え去り…明るくて賑やかな心地いい空間へと変貌した。




「私も、少し“かまちょ”なところがあるの。だから、あなたの気持ち……少しだけ、わかる気がする!!」


 ひよりは驚いた。

 王女という立場にありながら、セレナも孤独を感じており…誰かに構ってもらうことを心から切望していたのである。

 立場も世界も違うのに、ふたりは心の奥底で通じ合っていたのだ。


「じゃあ、私たち……“かまちょ同盟”だね!」

「ふふ、それ、いい名前!」


 仲睦まじい様子で談笑する二人の女性の様子を、木陰から恨めしそうに見る目が、あった。


 黒目、黒髪、黒いマントの…長身のイケメン。

 ……ルシフェルである。




 ルシフェルは、不機嫌だった。


「ひよりが……他の誰かと笑い合うなんて、耐えられない」


 ヤンデレの魔法使いは、すねていた。

 ひよりの太陽みたいな笑顔が自分以外の誰かに向けられている…、それが不愉快でならなかったのである。


「ルシフェル、セレナは敵じゃないよ?! 友達なの!! ねえ、私の心を…、ちゃんと見てよ!!」


 ひよりの言葉に、ルシフェルは沈黙した。

 そして、魔導書を閉じて言った。


「……わかった。君の“かまちょ”は、僕だけのものじゃないって、ことだね。ハイハイ、了解した…。君が笑ってくれるなら、それでいいとするよ。でも…、うん…。そうだ、我慢するから…ごほうびだけ、もらいたいな」


「…え?」


 その晩。

 貪欲なヤンデレ魔法使いの、底なしの愛につぶされかけた、ひより。


 一刻も早くこの世界を発たねば…身が持たないことを、悟った。




 ひよりが元居た世界への帰還を決め、5日後に発つとセレナに報告をしたところ、急遽《星の舞踏会》の開催が決定された。


 《星の舞踏会》とは、慶事に合わせて催されるエテルニアで一番の大きなお祭りである。

 名うての魔法使いが準備をするので、公示された翌日には豪華な会場が整い、仕事やしがらみ、身分や争いを一切忘れて国を挙げて全力で楽しむのが慣例だ。


 セレナとひよりはおそろいの衣装に身を包み、ダンス会場でペアで踊って注目を集め、空に舞う星々の下で思いっきり笑い合った。

 親友との別れを前に思いっきり楽しい時間を過ごしたい…その気持ちを尊重し、楽しそうに笑い転げている二人を見守るそれぞれのパートナー。祭りは三日間続くため、愛する人を独り占めできる時間が潤沢で、ヤンデレの束縛が軽減したのは幸いだった。


「セレナ、ありがとう!! こんなに素敵なお祭り…絶対に忘れないよ! 私、異世界(ここ)に来てよかった!」

「私も…絶対に忘れない。今日の思い出は、一生の宝物だわ! ひよりが来てくれて、心が……軽くなったの、ホントよ? 」


 二人は手を取り合い、祭り会場のド真ん中にある誓いの祠に向かった。

 ここは神のもとで誓いを立てる場所で、まれに祝福を受けることもある。婚姻や新しい法律の制定の時に向かうものが多いが、決して違えない約束をする際に利用するものも多い。


「これからも…、世界が違っても、離れても、ずっと友達だよ!! ズットモ、約束!!う、ぅうう~!!!」

「ええ、もちろん! 絶対にまた遊びに来てね、私の一番のお友達!!ずっと、ずーっとだよ?!ふ、ふぇええええ!!!」


 感極まって泣き出した二人の頭上から、キラキラと輝く光が落ちてきた。

 それはまごうことなき、神の祝福だった。

 間近にいた人々はみな、感動のあまり己の願い事を忘れて…拝み始めた。


 その後、そろって涙と鼻水だらけで祠から出てきた二人。

 見目麗しい聖騎士と、格の違いを漂わせている漆黒の魔法使いが、それぞれ別れの悲しみに暮れる女性を優しく抱き留め、涙をぬぐい、胸に抱えて会場を去った。


 その姿は大変に人々の胸を熱くし、のちに老若男女すべての人々に愛される物語として語られることになるのだが…それはまた別の話である。




 祭りが終わり、後片付けも土産の調達も完了し、あとはエテルニアを発つだけとなった日の夜。

 ひよりは、真夜中に…ふと、目が覚めた。


 何となく眠れず、水でも飲もうかとベッドから降りると…ドアの隙間から明かりがさしているのが目に入った。


 気になったので、夜着の上に薄手の毛布を羽織り廊下をのぞき込むと…、図書室のあたりから光が漏れ出していた。


 どうせ最後の夜だし、思い残しになるくらいなら確かめに行こう…。

 そう思ったひよりは、着替えて図書室へと向かうことにした。


 宮殿の、図書室。

 何度かセレナやルシフェルと一緒に入室した事はあるけれど、一人で…しかも夜中に入るのは初めてだ。

 ドキドキしながら、やけに回りが静かであることに気付き…緊張感を高めた、その時。


 一冊の本が、にぶく光りながら…ひよりの前に降りてきた。


 見覚えのある、ほのかに温かみを感じる…革の表紙の分厚い本。

 表紙には、『魔 導 書 ~エテルニア~』と、金文字で刻まれている。


 ひよりは、そっと手に取り、表紙を開いた。

 ページをめくるたびに、文字が浮かび上がり、文章となって、押し寄せる…。


 ―――この書は、孤独を喰らい、愛を歪める

 ―――かつて孤独に呑まれた魂の、真実を見よ


「……ルシフェルのこと?」


 魔導書は、静かに…語り始めた。



 ヤンデレ魔術師は、かつて《エテルニア》の王宮魔導師だった。

 誰よりも魔力を持ち、誰よりも優しく、誰よりも……孤独だった。


 …場面が、変わる。

 幼いルシフェルと、彼の唯一の友人・王女エリスの姿が見える。


 ―――ルシフェル、あなたはわたしの光よ!

 ―――エリス、キミはぼくの全てだ!


 ―――ずっと一緒にいてね!

 ―――ぼくはエリスがいてくれたらそれでいい


 ―――お願い、わかって…

 ―――だめだ!エリスはずっと僕と一緒にいる!!


 ―――さよなら

 ―――僕はエリスを…諦めない


 永遠に共にいてくれると信じていたエリスは、政略結婚で他国へ嫁いだ。

 愛する人を奪い返したい一心で暴走したルシフェルは、王宮から追放された。


 彼の心は砕け散り、魔導書に魂ごと全てを捧げ、眠りについた。



 ―――誰か、僕を必要として……、僕を、構って……、僕だけを…見て



 その願いが、魔導書を通じて異世界まで届き…ひよりの魂の叫びと重なって、奇跡が起きていたのだ。


 過去のシーンが砕け散り……、眩い光となってひよりを包み込んだ。



 現実に戻ったひよりは、真夜中という時間にもかかわらず、ルシフェルの部屋を訪ねた。

 ノックをしようとしたその瞬間、ドアが…開く。


 …部屋の中に入ると、そっと抱き寄せられた。

 情熱的で、どこか冷たい…ヤンデレ魔法使いの、ほのかな温かさを感じる。


「ルシフェル……あなたは、私を“必要としてくれた”んじゃなくて、“必要とされたかった”んだね」


 ひよりは、ぎゅっと抱きしめながら、呟いた。


「君が笑ってくれると、僕の心が……少しだけ、救われる気がする。本当だよ……」


 静かに頷くルシフェルが…少し震えている事には、気付かないふりをしてあげる事にした。


「…あのね、提案。これからは…“対等”でいようよ。私も、あなたを構うよ? 全力で…ねっ!」


 ひよりが涙を流す魔法使いの手を取り、優しく微笑んだ、その時。

 魔導書が光を放ち、空中に浮かびあがった。


 まばゆい光が差し、ページが一枚、二枚、三枚と…空へと舞い上がってゆく。

 それは、まるで浄化されていくような光景であった。


 光が収まり、元の薄暗い部屋に戻った時、魔導書は「契約の書」から「共鳴の書」へと変化していた。


 独占ではなく、共鳴の魔法。

 ふたりが手を取り合うたび、お互いを想い合うたび、周囲の人々の心も癒されていく……。


 それはまさに、愛の魔法だった。




 別れの時、セレナは微笑みながら親友に言った。


「あなたたちの魔法、ステキすぎます……!!”かまちょ”ってホント…素晴らしいシステムだと思うわ!!」


 ひよりは照れながら答える。


「ねっ♡”かまちょ”って、悪くないでしょ?」


 ”かまちょ”は“病み”ではなく、貴いものであるのだと…エテルニアに語り継がれていくのだが、その話はまた、別の機会に……。




 異世界から戻ったひよりとルシフェル。


 目の前には、見慣れた春の街並みと、コンビニの明かり。

 日付と時間は…エテルニアに向かった日の、二時間後。


「魔導書が変化したから、魔力が激減してしまったな…。ひよりを満足させてあげる事ができなくなるかもしれない」

「そんなの!!私はルシフェルが構ってくれたらそれだけで十分だよ!」


 ひよりの提案で、ルシフェルは“転入生”として高校に通うことになった。

 ド派手な魔法は使えないものの、ある程度のご都合展開を用意することは可能だったためである。


 制服に袖を通したルシフェルは、女子の視線を一身に集めることになった。


「ねえ、あの転校生、王子様みたいじゃない?」

「でも、ひよりちゃんと一緒に登校してたよね……彼氏?」


「彼氏……です♡」


 ひよりが即答すると、ルシフェルは満足げに微笑んだ。


 その破壊力満点のご尊顔を目の当たりにした女子学生が何人も卒倒し、伝説になってしまった事は…このあと廃校になる日まで語り継がれていく。




 ……春。

 桜の下で、ふたりは並んでベンチに座る。


「ねえ、ルシフェル。これからも、ずっと私のこと……構ってくれる?」

「もちろん。魔力が尽きて魔法が使えなくなっても、君の隣にいるよ。ずっと愛し合って…周りに幸せを振り撒いていこうね」


 ひよりは笑った。


「私、スマホが鳴らなくても、あなたがいれば…寂しくない」


 ふたりの手が、そっと重なる。


「僕だって…、君がいてくれたらそれだけで幸せだよ」


 唇がそっと重なり…、周りにいる人たちの胸に、じんわりと幸せな気持ちが伝わっていく。


 のちに、この桜の木の下でキスをすると幸せなカップルになれるという噂が広まるが…、それは確かに本当のことなので、特に説明はしないでおく。




 かまちょな少女と、ヤンデレ魔法使い。


 世界を越えて出会ったふたりの、ちょっと不器用で、でも確かな…ふつうの恋。


 ふたりは今日もお互いを想い、笑い合う。

 異世界で出会い、孤独と執着の中で繋がったふたりは、今、現代の街角で“誰かの幸せ”を育てている。



 …ピコン!


 スマホの通知が鳴った。

 ひよりはちらりと見て、すぐに画面を伏せる。


「もう、誰かに構ってもらうためにスマホ見なくてもいいや。だって、隣に……

「僕がいる♡」」


 ルシフェルが言葉を重ねる。

 ひよりは照れくさそうに笑い、彼の肩にもたれかかった。



 ……春の風が、ふたりの笑顔を包み込む。



「”かまちょ”の、何が悪い!」


「”ヤンデレ”だって…、悪くないよ?」



 一秒だって一人ぼっちになりたくない、”かまちょ”と”ヤンデレ”の物語は、これからも続いていく……。



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