無限図書館・第2話 ライオン館長と男の子
無限図書館・第2話
どこまでも続く書架の間を、元気な足音が響いた。
小学生の男の子が、はしゃぎながら駆けこんでくる。
「うわー! 本がいっぱい!」
彼は片っ端から本を抜き出しては、床に置いたり、乱暴にページをめくったりした。
そのときだった。
「ガオォォォンッ!」
館内に響き渡る大きな咆哮に、男の子は飛び上がった。
「ひっ! お、おおかみ!?」
慌てて振り返ると、そこにいたのは黄金色のたてがみを揺らすライオンだった。
「私は狼ではない。この無限図書館の館長だ」
低い声が静かに響く。
ライオン館長は散らばった本を一冊手に取ると、優しく表紙を撫でた。
「本はおもちゃではない。みんなで使う宝物だ。乱暴に扱えば、次に読む者が困ってしまう」
男の子はむっとして言い返す。
「でもさ、ページをめくったらすぐに読めるし、どうだっていいじゃん!」
館長はゆっくりと目を細め、少し笑った。
「どうだってよくはない。君が雑に扱えば、この本は傷つく。そして、次に読む人は悲しむ。
――君には友達がいるだろう?」
「いるけど……」
「本も同じだよ。本は君の友達になってくれる。だからこそ、思いやりを持って接してごらん」
男の子は目を丸くし、しばらく黙りこんだ。やがて、恥ずかしそうに本を抱きしめる。
「……ごめん。本、ありがとう」
散らばった本をひとつひとつ棚に戻す彼を見て、ライオン館長は満足げにうなずいた。
「よろしい。またいつでも、遊びにおいで」
男の子の足音が遠ざかると、館長は深いたてがみを揺らし、静かな書架の奥へと姿を消した。