瞬間
この瞬間が永遠に続けば良いのに…
この文意は概ね2つに分けられる。
1 ああ、残念だなぁ…。だからこの瞬間を大切に生きよう。
2 終わってしまうのならば永遠に終わらせなければ良い。この瞬間を永遠に「する」のだ。
大抵は1を意味しているだろう。ほぼ100%。
始めは目的は同じだったはずなのに、何故こうも違ってしまったのだろう。何故こんなにも分かり合えないのだろう。過程が違うのはまだしも目的すらもズレてしまうなんて。ちぐはぐな靴のサイズ。蛇行する遊覧船。覚束無い足取り。
2を選ぶ人なんてそうそういないだろう。この瞬間を永遠にするなんてことはあり得ない。瞬間は持続しない。例えほんの少しの間だけ持続したとしても、それらは全て失われる運命にあるからだ。この瞬間をキラキラとした宝石箱に大切に閉じ込めておくことは不可能なのだ。もはやこれはただの屁理屈だ。
まともな時間感覚を失い、前後不覚のまま意思を持たないゾンビのように深夜の寂れた繁華街をふらふらと徘徊する。それで得たのは…。得たのはひとかけらの狂気と崩れたチーズケーキだけ。何の意味もない。
そう。本当に何の意味もないのだ。単なる脆弱な軌跡そのものだ。しかし、それが、それだけが私を繋ぎ止めるのだ。瞬間でも持続ですらない我々を無意味なものへと変換するための装置。無機質な外骨格。空っぽの内装。無骨で凸凹なデザイン。
記憶を頭の中に閉じ込めるのではなく、蝶よ花よと言わんばかりにアルバムに大切に封入するのではなく。足跡はいつか跡形もなく消える。ならばこそ、水平線を覆い尽くさんばかりの巨大な足跡を夢想し、取るに足らないちっぽけな足跡すら具に分節する。それがそうである限りは。
永遠に繰り返される瞬間よりも、瞬間ですらない永遠を探し歩く。ありえない。ありえない。ありえない。だが、それが何だというのだ。怨嗟に満ちた呻き声。穴のあくほど見つめた真っ白な天井。轟々と吹き荒ぶ深い森。あちらへ誘おうとする穏やかな波。微かに甘く香る冷たく重い霧。
同じ場所を志し違う場所へ辿り着こうが、違う場所を志し同じような場所へ辿り着こうが、そんなことは気にも止めてはならない。何故ならば足跡…。足跡が、砂漠の小高い丘の影にひっそりと佇む足跡がそれを告げるからだ。だから…等身大の足跡をここに! 一歩一歩踏みしめるのではなく、羽が生えたみたく軽々と踊るように。この瞬間は永遠なのだから。