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005,行商人、リピータと店舗を得る

 数週間前までは、誰も見向きもしなかった地味な草――風鳴草。

 だが今や、それは市場で確かな存在感を放ち始めていた。


 「本日入荷! 風鳴草・標準品、残りわずか!」

 「高等級きてる!? 前より香り濃いじゃん!」


 都市エリアの交易広場では、香料系クラフターや料理人たちが、レンの出品棚を覗き込む光景が当たり前になっていた。

 毎日50セット以上の安定供給。それはもはや、個人経営の範疇を超えている。


 《素材屋レン》という名前は、もはや「露店」ではなかった。

 採取者、乾燥設備、仕分けと等級分け、そして配送タイミングまで管理されたその体制は――


 まさしくひとつの供給インフラだった。


 「“良い素材”は売れる。けど……“供給できる素材”は、残る」


 レンは机に肘をつきながら、目の前の束を手に取った。

 そこにあるのは、最近印刷を始めた小冊子だ。


『風鳴草活用ガイド:Vol.1』

━━初心者にもわかる! 風鳴草の使い方大全


【おすすめ用途】

・風属性武器への一時付与(香気触媒)

・魚介系料理の香り付け(クセ消し)

・眠気防止スプレーの香料素材に(行軍時の便利アイテム)


【保存方法】

・乾燥済みなら、通気性の良い布袋で2週間品質保持可能

・水気・直射日光NG!


【ちょっと裏技】

・“香気爆破”ってご存じですか? 実は火属性の触媒と混ぜると……


 これはただの宣伝ではない。リピーターの育成ツールだった。

 素材をただ売るだけでは、やがて飽きられる。

 だがその“活用法”まで提示すれば、買い手は自然と「また欲しい」と思うようになる。


 「クラフターだって、毎回レシピ調べるのは面倒なんだ。だからこっちから、“もう使ってる感”を作ってやる」


 風鳴草という素材に、物語と技術を添えて渡す。

 それは、アイテムの価値を数字以上に“重く”する魔法だった。


 そして今日もまた、ひとりの錬金術師が小冊子を手に取り、つぶやく。


 「へぇ……風鳴草って、こんな使い道あったんだ」

 「次は高等級を試してみるか。もうちょい強い香りのやつ」


 レンの知らぬところで、確かに“リピーター”が生まれている。

 その積み重ねこそが、素材屋レンの真骨頂。


 売るのではない、育てるのだ。市場そのものを――




「そろそろ……ちゃんとした“店”が欲しいな」


 風鳴草の流通量が安定し、卸先も増えてきた。市場に出すだけでは限界があるし、ブランド性を高めるためにも――専用の拠点は必要だった。


 レンは、街の北区《商業エリアB》にある《空き区画掲示板》の前に立った。視線を走らせながら、操作パネルを開く。


 「家賃……月150G、初期改装費込み。これくらいならいける」


 彼が選んだのは、築年数のある小規模物件。外観は古びていたが、室内は改装自由、立地も目立ちすぎず、常連向けにはちょうどいい。


《草結い屋》、開店準備

「……この壁紙、風鳴草の模様にできないかな」


 改装モードを立ち上げると、3Dクラフト画面が展開される。

 棚、カウンター、採光窓、乾燥スペース、試香スペース――すべて自分で組み上げる、いわば空間クラフトだ。


 クラフト仲間のNPCレミィも駆けつけてくれた。


「レンさん、これ、“香りブースター付き展示棚”! 前に設計してたやつ、試作できたよ」


「助かる! 試供品置くのにピッタリだ」


 こうして、3日後には小さな一軒の香料店が完成した。


 看板には柔らかな文字で、《草結い屋》と記されている。

 これはレンが名付けた店の名――“風の草を結び、つなぐ場所”という意味を込めた。


《草結い屋》システム情報

・店舗効果:倉庫拡張(+100枠)、専用出品所、自動納品受付可

・販売形式:直接購入/受注生産/定期納品契約

・内装設備:

 ┗展示棚(香気計測つき)

 ┗乾燥香識スペース(無料試香)

 ┗スタッフ休憩用の畳コーナー(※ミナト私物)


「よし……あとは、初回キャンペーンを仕掛けるか」


 レンは店の目立つ位置に、手書きのポップを設置した。


《草結い屋》オープン記念

・初回購入者に『風鳴草ブレンド試供瓶』プレゼント!

・5セット購入で【高等級】を1本サービス!

・職人さん向け定期契約も受付中!


 初日の来店者数は控えめだったが、SNS連携機能を通して、口コミが広がっていく。


 「この店……香料の知識がちゃんとしてる」

 「品質ランク見やすいし、香りも試せるのいいな」

 「スタッフの対応が丁寧……って、あれ店主じゃん」


 こうして、《草結い屋》はプレイヤー経済の中で静かに、しかし確実に**“香料素材の聖地”**として根を下ろしていった。


「素材は売るだけじゃ終わらない。使ってもらって、初めて意味があるんだよな」


 レンはそう呟きながら、今日も新しい注文票に目を通す。

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