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ワンモア・バザール~最底職行商人、成り上がる~  作者: とあるアルパカ


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041,行商人、追体験する

静寂のなか、青い結晶片が脈打っている。

まるで生きているかのように、かすかに“心音”を刻むその欠片。


「準備いいか、ミナト?」


「いつでもOKです。再生結界は張り終わってますし。“見える”のは、レンさんだけにしてあります」


「俺の神経だけにリンク……了解」


レンは椅子に腰かけ、結晶の上に手を伸ばす。

青い光が、静かに神経に入り込む。

その瞬間――


《記憶》が流れ込む。


 ――浮遊都市フィアブル、計画名称プロジェクト・ブルーコード

 ――重力制御技術と“魔導臓核”による“永続動力文明”の創造。

 ――だが、安定化実験中に発生した“共鳴災害アニマシェル”。

 ――その発生源は、魔力と記憶を混合解析する“精神核融合”だった。

 ――都市中枢《記憶格納庫》は自律防衛に入り、都市を空中で封鎖。

 ――研究員は全滅。人格情報と魔力記録が“記憶ごと凍結”された。


「……記録じゃねえ、これ“実体験”だ。まるで追体験してるみたいにリアルだ……」


ライトがモニター越しに眉をひそめる。


「フィアブルは“記憶ごと封印された都市”だった……」


レンは静かに立ち上がる。


「目的地が決まったな。《記憶格納庫》……フィアブルの心臓部だ」


《フィアブル》の中枢へ

―浮遊都市フィアブル:禁域《核心回廊》


幾重にもねじれた階層を超え、ようやくたどり着いた禁域。

視界の奥、中央に浮かぶ巨大な球体――それが《記憶格納庫》だった。


「こっから先、重力のバグがひどい。前進すらままならない……!」


ユウカが声を上げる。

立っているはずなのに、壁が“上”に見えるほど空間が捻じれていた。


「ミズキ、位置制御薬、散布準備!」


「任されたーっ! 《散布薬・空間慣性整律》投下ッ!」


空間を安定させる霧が一帯に散布され、

わずかに足場が“固定”される。


「重力座標、修正完了!」


レンが先陣を切って中枢へ踏み込む。

だが――


ドクン、ドクン、ドクン……


あの“心音”が、再び鳴り始めた。

まるで歓迎ではなく、拒絶のような、あるいは……警告のような音。


「……この中に、“都市が記憶したすべて”が眠っているってわけか」


《記憶格納庫》の扉が、自動的に開く。


そこには、かつてフィアブルで生きていた人々の、

“記録された記憶の断片”が、蒼い光の粒子として漂っていた。


「うわ、これ……全部、記憶?」


「うん。多分俺たち、ここで“過去の意思”と向き合うことになる……」


そしてその最奥――

誰もアクセスできなかった封印領域、《エンコードコア》の前に立つ時、

レンたちは思いもよらない存在と対峙することになる。


それはこの浮遊都市の最後の防衛装置。

かつて「人間だったもの」。


 ――カンッ、カンッ。


 空間が音を立てて、ゆっくりと“反転”した。


 床だったはずの場所が天井に、天井だったはずの空が足元へと逆転し、重力が収束し直す。空間が意思を持ったかのように、歪む、揺れる、抗う。


「く、これが《記憶格納庫》の防衛領域……!」


 レンが魔力転換薬を片手にグッと踏ん張りながら呟いた瞬間だった。


 ――《システム起動確認。記憶擁護優先モードへ移行》


 その声は、無機質だった。だが、どこかで怒りと悲哀を含んでいるようにも聞こえた。


 空間の奥――無数の蒼光が集まり、人の形をかたどる。


 そして姿を現す、“それ”。


「……なにあれ、人型……?」


「いや、違う。見て……目が、ない」


 それは、かつての都市管理者たちの記憶情報を束ねた集合存在。《記憶執行ユニット:アーカイブ=ゼロ》。


 その姿は人のようで人でなく、

 その存在は意思を持ちつつも感情を持たず。

 だが彼らを見たとき、なぜか“哀しみ”が染み出した。


「――未登録者の侵入を確認。記憶へのアクセスは許可されていない。破棄プロトコルを開始する」


 刹那、空間が“閃いた”。


 無数の光の矢が虚空から放たれ、レンたちへと襲いかかる。


「っく、こっち来るぞ!ミナト、バリア!」


「《防障結界・刻晶陣》! 今展開中ですってば!」


 ミナトが手をかざし、青白い障壁を張る。矢はそこに衝突して拡散したが、一発ごとに魔力がごっそりと削られる。


「なにこの密度! いくらなんでも防御しきれないよっ!?」


「攻撃に乗るぞ、カズ、ユウカ、ミズキ!」


「任せたまえ!《圧縮魔弾・三重奏》ッ!」


「よっしゃ、いっちょ派手にいこうか!」


「行くよミズキ、連携開始!」


 炎と雷、光と闇、五属性が乱舞し、アーカイブ=ゼロへと突撃していく。


 しかし――


「効いてない……?!」


 攻撃が着弾したにもかかわらず、相手の身体は再構築を始めていた。粒子のように分解・再生され、ダメージを帳消しにするかのような動き。


 《記憶再構築。損傷領域を初期化》


「再生型AIか……面倒だな」


「どうするの、レン!?」


 レンは考える。これはただの敵ではない。

 “記憶を守るための存在”――つまり、都市そのものの意思の代弁者。


 ならば必要なのは――“過去と未来の橋を架ける”こと。


「……あいつをただ壊せばいいってもんじゃない。記憶の意志に、俺たちの意思をぶつける!」


 手の中で、青晶核が共鳴する。

 蒼い光が爆ぜ、全員の装備が“中枢共鳴状態”へと変化していく。


 《共鳴値上昇確認。アクセス許可条件、変動――》


 防衛システムが、わずかに動揺した。

 その刹那――レンたちの反撃が始まった。

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