040,行商人、調査を進める
もう何がなんだかわからん!しらん!がんばれ!
――《共鳴点》戦闘:心音と共に現れるもの
「……また、聞こえるな」
レンが足を止めると、周囲の仲間たちも同時に身構えた。
ドクン……ドクン……
地面の奥底から響くような、耳ではなく“神経”に直接訴えかける重低音。
それは《蒼殻境界》でたびたび観測されていた謎の現象、通称――《心音現象》。
「レン、青響薬の瓶、揺れてる」
ライトの声に、俺は即座にポーチを確認した。
先ほど調合した《青響薬》が、リズムを刻むように淡く光を放っている。
――まるで、何かに「呼ばれて」いるように。
その瞬間、辺りの空気が一変した。
「空間歪曲発生!真上……いや、全方位から来る!」
「来たか、“やつ”が――!」
白銀の霧を引き裂いて、姿なき“それ”は、現れた。
《殻亡き殻》――
透明な殻の中に、青く脈打つ「なにか」が浮いている。
まるで感情を持たない胎児のように、浮かんでは跳ね、消えかけてまた現れる。
その姿は人智を越えていて、ただ見るだけで精神に圧迫感をもたらす。
「識別エラー!形式不明!属性なし!このタイプ……通常攻撃効かないかも!」
「やっぱりな……!」
レンは即座に、青響薬を口に含み、スキルを展開する。
「《薬式展開・共鳴式(フラクト=レシピ)》、起動!」
青い陣が足元に広がると同時に、シェルフィーネの心音と青響薬の鼓動が重なった。
ドクン――! ドクン――!!
「効いてる!共鳴反応、進行中!これなら……!」
ユウカが前に飛び出し、青い斬撃を振るう。
「くらええぇぇ!《裂刃・双葬舞ッ!!》」
双剣がシェルフィーネの透明殻を斬り裂いた瞬間、空間に亀裂が走るような衝撃波が発生。
それでも、殻の中の青い核はひときわ強く、「心音」で抵抗を試みる。
「カウンター来るよ!心音レベル跳ね上がってる!」
「レン!耐性薬ッ!」
「渡した!こっちも《強化精神障壁》展開ッ!」
シェルフィーネの「共鳴音波」が周囲を襲う。
地面が跳ね、壁が歪み、仲間たちの視界が一瞬モノクロになる。
「耐えろ……あと数秒で、相殺できるッ!」
レンは《青響薬》の第二段階を注射型にしてライトに投げ渡す。
「撃て!その薬を奴のコアに!」
「了解ッ!」
ライトの手から放たれた薬筒が、弧を描いてシェルフィーネの中核に命中――。
ドクン……ドクン……ッッ
音が、止んだ。
それと同時に、シェルフィーネの殻がゆっくりと消滅していく。
青い核だけが残り、それがそっと、レンの手元へと落ちてきた。
「……これは、“制御済みコア”?」
「初撃破データ、記録完了……やったね、師匠」
ようやく、レンは深く息を吐いた。
「心音と共鳴し、反応して現れる“存在”……“シェルフィーネ”。こいつはただのモンスターじゃない」
「この都市そのものと、同じ“記憶媒体”だ」
──それは、戦いというよりも「解析」。
蒼く輝く謎の核は、レンたち《夜灯商会》に、さらなる深層への扉を開いていくこととなる。
探索5日目、フィアブルの最深層手前。
蒼光が脈動する《胎室》と呼ばれる不規則構造空間に、俺たちは足を踏み入れていた。
「この……嫌な感じ、まただ」
ユウカが肌を震わせるように言った。
視界には見えないが、空気の“密度”が明らかに異なる。
「心音反応……あるな。でも前と違う。二重に重なってる……?」
ライトが《音層探知晶》を見ながら眉をひそめる。
その瞬間、蒼い閃光が空間に裂け目を生じさせた。
「来たッ!」
そして現れたのは――
《殻亡き殻:第二変異体(シェルフィーネ=アニムス)》。
第一体とは違う。
コアの数は二つ、それぞれが“異なる周波”で脈動し、
外殻は完全に不可視。観測装置でも補足不能。
「なんだこれ、姿が……見えない!」
「いや……見えてる、けど“脳が拒絶してる”んだ……!」
ドクン……ドクドクドク……ドク――ン!
まるで心音が“跳ねる”ようにテンポを狂わせ、感覚を惑わせてくる。
「初撃!ユウカ、右側から!コア位置、右上に集中してる!」
「任されたぁっ!!」
ユウカの双剣が、空間の歪みに刃を走らせる。
だが――
ギギッ……パリィン……!
「えっ、弾かれた!?」
「コアの片方、偽装だ!“誘導型”だこれ!」
シェルフィーネ=アニムスの青晶核が、共鳴しながら分裂・再配置していく。
その動きは、知性をもった罠のようだった。
「くっそ、これは完全に“進化個体”だ……!」
レンは即座に《青響薬・特型》を空中に展開。
「《薬式展開・環状式フラクタル》――領域制圧!」
青い光の輪が、空間を“凍結”させるように展開。
一瞬、動きが止まったその隙を狙い――
「ライト、今!」
「《響矢・奏式裂撃》ッ!!」
魔術と薬理を融合させた蒼の矢が、疾風のように飛び――
コアの一つを直撃した!
ギギギギィィイ……!
空間が裂け、視界が蒼に飲まれ、
脳裏に“何かの記憶の断片”が流れ込んできた。
「っ……見せてきた!? 記憶データか、これは……!」
『かつて私たちは、“命の形”を追いすぎた――』
「情報投影型……やはりこの存在は、《記録媒体》だ!」
しかし、その隙にもう一つのコアが自己増殖を開始。
「まずい!自律再生!? こいつ、データから学んで成長してやがるッ!」
「ここで倒さなきゃ、次は手がつけられないレベルに進化する!」
レンは最後の試薬を、自らの腕に注入する。
「限界を越える!展開――《共鳴臨界・薬界奏結(レゾナンス=バースト)》!」
世界が蒼く染まる。
レンの周囲に展開された魔法陣が、空間を圧縮し、
蒼き心音が敵と共鳴し、そして――
「ユウカ!右から!ライト!封鎖頼んだ! 今しかない――!!」
「了解ッ! 《蒼牙・双星斬ッ!》」
「《追撃結晶・停止弾》発射ァ!」
次の瞬間、視界が光に包まれ、
二つのコアは砕け、静寂が戻った。
……しかし。
「……倒したか?」
「うん。でも今のやつ……“記録を、渡してきた”」
レンの手には、砕けたコアのかけらと共に、
蒼く揺れる記憶のデータ粒子が残されていた。
「これが《フィアブル》の秘密に繋がる鍵か――」




