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ワンモア・バザール~最底職行商人、成り上がる~  作者: とあるアルパカ


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039,行商人、調査準備する

「……またアップデート、来たらしいな」


 ログイン画面の更新情報に並ぶのは、見慣れない地名――《蒼殻境界フィアブル》。


「地形未解析。敵性モンスターの強度、不明。出現素材、未知。探索可能レベルは上級向け以上……って、なんだよこれ、完全に“やりたい放題”ってことか……つまり、最前線の連中ですらまだ手を出してないレベルだな」


 俺は苦笑しながら椅子を回す。

 こういう“初手未知”なフィールドは、うちのような少数精鋭+職人系が最も輝く。


 調達、実験、実地観測。

 戦うだけじゃ突破できない仕掛けやギミック。そういうのこそ、俺たちの出番だ。


「で、その新素材……?」


「うん、出てる情報は少ないけど、既存の薬理効果を“拡張”する因子を持つ、って噂がある。今までの倍以上の効果を重ねがけできる……とか」


 薬師冥利に尽きるってやつだな。

 となれば――準備だ。慎重に、だが迅速に。


「探索班の再編成と、装備の見直し。素材保管用の新ケースも開発。あと……」


「師匠、やっぱ俺も連れてってください!」


「ユウカも行くからねー!」


「当然私も!」


 いつもの面々がずらっと前に並ぶ。


 うるさい。でも頼もしい。


「……了解。じゃあ、まずは拠点構築からだ」


 俺たちは、《夜灯商会》の新たな遠征支部を現地に設けることを決めた。

 そこを起点に、素材回収と敵性調査、地形把握、サンプル精製……やることは山積みだ。


 だがその先には、また新たな「革命」が待っているかもしれない。

 “誰も知らない薬”をこの手で作り上げるために。


 ――準備は整えろ。

 再び、世界の真理を暴く旅が始まる。ってあれなんか目標変わってね?俺商人なんだが……




「――さて。ここが、“誰もまだ本格的に踏み込んでない場所”か」


 転移陣から一歩、俺たちは崩壊しかけた足場に降り立った。

 空が、空じゃなかった。雲ひとつない碧空なのに、重力は斜め上からのしかかる。

 見上げれば、無数の島が“逆さまに”浮かび、そのどれもが崩れ、散り、流れていた。


「浮遊都市の瓦礫が漂ってるってわけ……」


 ユウカが頭を抑えながら呟く。どうやら重力異常は、体調にも影響するようだ。


「……ログイン直後の空間情報すら乱れてる。完全に《システムの盲点》って感じですね」


 ミナトが端末を操作しながら、苦笑混じりに言う。彼の手には現地地形のスキャンツールと、初期拠点構築用のテンプレ設計書。


「まずは“拠点づくり”からだな」


 俺たち《夜灯商会》のやり方は、いつだって同じだ。

 地形把握→拠点設営→素材採取→敵性把握→試薬開発。逆に言えば、拠点がなければ何もできない。


「設営班、動けるな?」


「任されました!」


「任せてってば!」


 双子がビシッと指を立て、魔導杭と転送マーカーを抱えて飛び出していく。

 あの二人は本当に……うるさいが、こういう時は最も頼りになる。


「俺は支援ラインの構築と、防御壁の結界配置を優先する。防衛班はそのあと」


「じゃ、俺とレイで素材エリアの確認に行ってくる。あの“青く光る結晶”……たぶん、例の《青晶核》だと思う」


「頼んだ」

 前回同様RoDの面々と共に指示を出しながら、俺は背負ってきた大型ケースを床に下ろす。

 中には、調合器具・観測機・仮設ラボの魔導核すべてが詰まっている。


「……さて。未知を、解きにいこうか」


 敵性情報も、現地素材の性質も、未知。

 だが――だからこそ燃える。


 浮遊する崩壊都市《蒼殻境界フィアブル》。

 重力がゆがみ、心音のようなノイズが響くこの場所で、レンたち《夜灯商会》の調査が、静かに幕を開ける。




「じゃ、始めるぞ――青晶核、第一試薬抽出」


 簡易ラボに設置された調合台の上に、薄く光を帯びた青い結晶が一つ、静かに転がっている。

 それは鉱石というより“脈打つ水晶”のような見た目で、表面がわずかに波打っていた。


「……やっぱ、微細な振動してる。これ、生きてる?」


「いや、なんか違う気がするんすけど……」


 ミナトが観測機のログを読み上げる。


「内部に脈動データが保存されてる。たぶん、フィアブル内部で観測されてた“心音”と同期してる」


「心音と素材が連動してる……気持ち悪いっすね……」


 ユウカが眉をしかめながら、結晶に軽く触れる。


「触ると響く。“生き物の拍動”みたいな反応だ……これ、適当に混ぜたらまずいやつだね」


「だからこそ、やる価値がある」


 俺は防護手袋をはめ、慎重に青晶核を抽出皿へと乗せた。

 次に混ぜるのは、基礎触媒――《中和水晶粉末》と、《中等魔精液》。

 いずれも反応の触媒としては万能な、基礎中の基礎だ。


「調合開始。レシピ未確定。リアルタイム記録、よろしく」


「OK、録ってます」


 ミナトの声が落ち着くのと同時に、俺は攪拌機を起動する。


 ──カコン……ゴッ、ゴッ……


 撹拌機が青晶核をゆっくりと削り、液体へと溶かしていく。

 青の光が、じわじわと試薬全体へと広がって――


 ──ビィィィィィィィン……!!


「うっ……!? 共鳴が……っ!」


「だめ! 精神干渉反応が急上昇してる!視界にノイズが入る!」


「レンくん、切って!装置切らなきゃ!」


「まだいける、あと少しだ……!」


 歪む視界。

 耳の奥に響く、低く、重たい心音――ドクン、ドクン……


 それでも、俺は振動の波形を読み、強制的に中和圧を加える。

 薬液が一瞬、真っ黒に染まった。――そして。


 ……チィィ……ン。


 撹拌機が静かに停止した。


「……成功、ですか?」


「いや……安定化はしてるけど、未だ“心音”が残ってる」


 青い試薬は、ほのかに鼓動のようなリズムでゆらめいていた。


「これは“薬”というより、“疑似生命体”の生成に近い……?」


 俺たちは顔を見合わせた。

 これは単なるバフアイテムや治癒薬ではない。

 下手をすれば、素材そのものが“主導権”を持つレベルの危険性がある。


「命名するなら……《青響薬セイキョウヤク》、か?まるで、青の心臓だな」


 ──未知の薬品。

 だが、これがフィアブルを進む鍵になると、本能が告げていた。



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