表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ワンモア・バザール~最底職行商人、成り上がる~  作者: とあるアルパカ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/44

033,行商人、舞い戻る

 視界がじんわりと色を取り戻していく。ログインした瞬間、どこか懐かしい香りが鼻をくすぐった。


 ――やっぱ、俺の店の匂いって落ち着くな。


 ひんやりしたカウンターの感触。棚に整然と並ぶ薬瓶たち。久しぶりに見る景色に、ついホッと息をついた瞬間――


「師匠ぉぉぉぉぉぉぉッッ!!!!!」


 後ろから爆弾でも飛んできたかのような勢いで、俺にミナトが飛びついてきた。


「うわっ!? ちょ、お前!?」


「ほんっっっっとに! 心配したんすよ!? 何も言わずに急に落ちて、連絡もつかないし!! 死んだのかと……いやマジで師匠の墓用意しそうになったっす!!」


「気が早すぎるだろ!?」


 ミナトはそのまま俺の腕をガシッと掴んで、真顔になる。


「体、大丈夫なんすか……?」


「……ああ。もう大丈夫だよ。ちょっと熱が出ただけでな。現実で点滴打たれて寝てた」


「っ、よかった……! あの、ほんとに、無理だけは……」


 言いかけてから、ミナトはぐっと言葉を飲み込む。

 いつもは軽口ばっかり叩いてるのに、今日はやけに真剣だ。


「……お前、俺の保護者かよ」


「弟子なんで」


 間髪入れずに返された言葉に、思わず笑ってしまう。


 ああ、やっぱりこの世界はいいな。ここには、俺を必要としてくれる人がいる。


「で? 店、何か変わったか?」


「変わったどころじゃないっすよ! 在庫は減るわ客は不安がるわ、双子先輩は暴走しかけるわで地獄でしたよ!!」


「……あいつらは何をしてんだ……」


「とにかく、もう無茶しないでください。いなくなると……やっぱ寂しいっすから」


「……あいよ。ありがとな、ミナト」


 ――帰ってきた場所に、変わらず迎えてくれる奴がいる。

 それだけで、今日のログインはもう大成功だ。



「じゃ、看板出すぞ。再開だ」


 そう宣言して、俺は店の木製サインボードをカタンと外へ出す。

 そこには――


《 夜灯商会》本日より通常営業。

新作・高品質ポーション各種入荷!

試供無料! 急げ、数に限りあり!


 ……とまあ、煽り気味の一文。ついでにミナトのセンスが爆発してる。


「目立たせたい気持ちはわかるけど、こういうのってもう少し落ち着きが――」


「いえいえ! 今は“攻め”っすよ! 師匠不在の数日、店のファンが心配してたんですから、ドカンと行きましょう!」


 ミナトはすでにカウンターに立ち、ローブ姿でやる気満々だった。

 奥の調合室からは、乾いた薬草の香りが心地よく漂ってくる。


「……じゃあ、俺は調薬室にこもる。お前、外の客対応任せた」


「まっかせてくださいッス!」


 ミナトの声が外に響くのとほぼ同時。

 店のドアが勢いよく開かれた。


「やっぱり本当に戻ってたー! ここの傷薬ないと狩りにならないんだよ!」


「回復ポーションまだある!? まとめ買いしたい!」


「新作って本当!? 師匠の実験的なの欲しいんだけど!」


 待っていたかのように、冒険者たちがどっと押し寄せてくる。


 ――これだ。このざわめき、この熱量。

 この世界の中で俺が築いた“小さな王国”。


 俺は静かに扉を閉め、調薬台の前に立つ。


「さて……久々に、調合するか」


 ポーションの色彩が瓶の中でゆらめき、混ぜ合わせた魔素がやわらかく光を放つ。


 右手はすでに、迷いなく動いていた。

 ブランクなんてものは、ここにはない。


「レン特製、回復促進剤+α、試作No.21。――さあ、帰ってきたぞ」


 扉の向こうでは、ミナトが客を捌く声と、遠くで聞き覚えのある双子の声。




「レンくんー! レンくんいるー!? 入るよー!!」


 バァンッ!


 店の扉が派手な音を立てて開かれ、元気すぎる声が店内に轟く。来たな、と思う間もなく。


「どこどこ!? いた!! あーほんとにいたー!」


「生存確認っ!」


 まるでミッション完了のようなテンションで、金髪ポニテと銀髪ショートの二人組――

 双子の戦闘狂、ユウカとミズキがズカズカと店内に突入してくる。


「おい、ここ薬屋な? 飲み屋じゃないから静かに入れ」


 俺が注意すると、


「えー、でもねー」


「レンくんが病院からログインしたら“店開けてる”って聞いて、来ないわけにいかないじゃん?」


 まったく悪びれずに、むしろ笑顔で応じる二人。

 その後ろでは、ミナトが心底困った顔で接客していた。


「師匠……こっちもこっちで忙しいんで、この双子の処理お願いしていいですか?」


「“処理”って言ったな!? おーい聞いたかミズキ! ミナトくん私らのこと“処理対象”って言ったぞ!」


「うん聞いた聞いた! 処理対象ってことは“討伐対象”ってことかもしれない!?」


「ならPvP申請いく!? 今この店で!? 勝ったら店乗っ取りでいい!?!?」


「やめろ、客の前で決闘始めようとすんな!」


 あまりの騒がしさに、他の客も引き笑いを浮かべる始末。

 が、ある程度この店の常連は“ああ、あの双子ね”と察して、静かに距離を取っている。もはや風物詩だ。


「で? 何しに来たんだお前らは」


 俺がため息交じりに聞くと、二人はぴたっと動きを止め、急にまじめな顔になる。


「新薬、試作品もらいに来た!」


「最前線、マジでポーション回復間に合わん。ここのやつしか信じられん」


「あと副作用ちょっと強めのやつ希望! たぶん耐えられるから!」


「たぶん、って言うな」


 それでも真っ直ぐな目をしてるから困る。

 二人が最前線に立っていることは知っているし、そこでは一秒の遅れが命取りになる。だから――


「……副作用込みの“攻性回復薬”、一種だけ試してみるか? 短時間で回復するけど、代償に一定時間スキルディレイ延長な」


「おおぉ、それ欲しかったやつ!」


「ミズキ、私たちにぴったりじゃない!? 回復終わったら脳筋で殴り倒すしかないから!」


「それな!」


「それな、じゃない」


 俺は苦笑しながら、カウンター奥の小箱から数本の瓶を取り出した。


「ただし、試用条件はレポート提出。あとな、壊した店の棚は次から弁償な?」


「うっ……あ、あれは勢いが……」


「うん……あれはたぶん、ちょっと、派手に斬りすぎた感……」


 さすがに少しだけ反省の色を見せる二人。

 とはいえその反省が長く続くわけもなく、


「でもレンくん、ぶっちゃけまた棚壊れたら補強した方がいいよ?」


「筋力Dの人間が普通に歩くだけで棚揺れてたし!」


「誰のせいだよ!!」


 やかましい双子が現れたことで、店はいつにも増してにぎやかになる。


 けど――こういう時間も、悪くない。

 帰ってきた日常ってやつだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ