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ワンモア・バザール~最底職行商人、成り上がる~  作者: とあるアルパカ


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032,行商人、というか双子、再戦する

《病室・翌日・午前》


 あの“看護師師範代事件”から一晩――

 双子は妙に静かだった。


「……なあ。今日は来ないのか、あいつら」


 珍しく落ち着いた病室で、俺は窓の外をぼんやり眺めながら呟いた。

 賑やかすぎた昨日が嘘みたいに、部屋には静寂が漂っている。


 ――と思った矢先。


ガチャ。


「お邪魔しまーす……」


「お、おとなしく来たよ……今日は騒がないから……!」


 開口一番、神妙な顔のユウカとミズキが現れる。

 二人とも制服に着替えていて、背筋がピンと伸びている。お辞儀まで丁寧にしてくる始末だ。


「……どした? 二人して“現世仕様”じゃん」


「いやぁ……昨日マジでヤバかった……」


「“本物の敵”はああいうタイプだって、ようやく理解した……」


「完全に初見殺しだった……“医療機関エネミー・ナース型”の行動速度と威圧スキル、Sランクだよ……」


口撃こうげき力高すぎ……」


「しかも動きにスキがなさすぎる……物理回避不能……!」


 二人してガチ反省モード。


「……あんだけ元気だったのに、よく萎んだな」


「いやもう無理だって! 看護師さんに“今日またふざけたら即点滴”って脅されたし!」


「ゲーム内でもないのに“デバフ警告”受けるなんて聞いてないからね!? 現実怖っ!」


 反抗期の獣が完封されたかのように、双子は大人しく病室のソファに腰を下ろした。

 なんだかんだ、元気な彼女たちが静かになると逆に不安になるが――


「……でもまた復活するんだろ?」


「……一週間ぐらいは大人しくしてる……多分……」


「いや絶対……!」


 チラッと看護師ステーションの方向を見ながら、二人がぴしっと姿勢を正す。


 ……うん、しばらくは平和な入院生活が送れそうだ。




《病院内・リハビリフロア前・午後》


「なあ、マジでやめとけって。お前ら昨日“点滴警告”食らったばっかだろ?」


 俺の静止もむなしく、双子はそろって顔を見合わせ――


「「行けるっしょ」」


 まったく根拠のない自信とともに、白い廊下へ踏み出した。


 目指すは看護師詰所前――通称「第一関門」。

 そこには昨日、彼女たちの自由行動(という名の大暴走)を一撃で封じた“看護師リーダー”が陣取っている。


「今日こそリベンジだよ……!」


「作戦はシンプル。壁際から音を立てずにすり抜けて、屋上の自販機エリアまで辿り着く!」


「“逃げのスニーキングミッション”じゃねーか」


「いいかレン、これは戦いじゃない。“潜入”だ!」


 ミズキが妙に緊張感のある声で囁く。


「この先には……“白衣の絶対防衛線”がある」


「相手の視線は鋭く、ステップは静か。あの白衣、完全に戦闘用スーツだと思う」


「言いすぎだろ!?」


 だがそのとき――


カツン、カツン……。


 白く光る廊下の奥から、規則正しい足音が響く。


「ッ!? 来たッ……!」


 その姿は白衣の女神――ではなく、白衣の死神。

 鋭くまとめた髪。キリリと上がった眉。バインダーを片手に無音の威圧を纏うその存在――


「看護師長だァァァァァァ!!!!!」


 双子、即座に方向転換。


 廊下を反転ダッシュで逃げ戻り――


「レン!ドア開けて!ドア開けて!!」


「施錠は甘え!!ドアロック解除!!」


 バンッ!! と俺の病室ドアを突き破り、二人が飛び込んでくる。


 続いて看護師長の声が、静かに鳴り響いた。


「……廊下を走らない」


 まるで神の裁きのように。


「「ヒィィィィィ!!!」」


 布団に突っ伏してガクガク震える双子。


「だから言っただろ……」


 ――これにて、《白衣制圧戦》は完敗。




その夜・反省たぶん

「……やっぱり現実NPCはレベル上限超えてる……」


「看護師長、絶対ユニークスキル持ってる……“精神崩壊A+”とか……」


「次は情報戦から始めよう。直接交戦は危険すぎる」


「つーかお前ら、大人しくしてるって言ってなかったか?」


「ご、ごめんなさいっした……」


 小さく正座してシュンとする双子。


 まあ……懲りたフリだけは上手いから、またすぐにやらかすだろうけど。


 ――それでも、こういう日常がなんだかんだ、悪くない。




《病棟中庭・晴れた午後》


 ――それは、事件から数日後。


 “看護師長・白衣の死神”の鉄槌によって完全敗北した双子は、病院内で静かに過ごすことを余儀なくされた。


「なあレン。……私たちさ」


「うん。正直に言うと」


「――ちょっと、反省した」


 病室のベッドに正座しながら、いつもより声のトーンが低い双子。

 「私たち悪くないもん!」という無敵の理論を掲げていた二人が、だ。


「お、おう……どうしたんだ急に」


「今日さ、看護師さんたちが中庭でお茶会やってるって話、聞いたから……」


「お菓子、持っていこうかと!」


「仲直り……というか、謝罪? ついでに友好度上げ!」


「RPG脳がにじみ出てるぞ」


 とはいえ、悪気はないようだ。

 おとなしく用意した小袋には、ミズキが徹夜で焼いたクッキーと、ユウカが選んだ紅茶のパック。


「……ま、いいんじゃね?」


「でしょ!? 行こ行こ!」


《中庭・看護師たちのティータイム》


「あら……あなたたち、今日は穏やかね」


 ベンチで談笑していた看護師たちが、双子の姿に目を細めた。


「こ、こんにちは! ……この前は、いろいろ、ごめんなさいっした!!」


「お詫びのクッキーです! あと、お茶っ葉も持ってきました!」


 勢いよく頭を下げる双子に、一瞬の静寂――そして。


「……ふふっ。可愛いじゃない」


 看護師長が口元を緩めた。


「そういうの、大事よ。ちゃんと気持ちが伝われば、怒る理由なんてないわ」


「ってことで、参加する? ティータイム」


「マジすか!? いいんですか!?」


 数分後、ベンチに座った双子と看護師たちの間には、お茶とクッキーと、穏やかな笑いが広がっていた。


「あなたたち、ほんとに仲良しね」


「双子ですから! セット売りです!」


「戦闘以外でもセット行動なんだ……面白い子たちねぇ」


「……最初はこの病院、怖いと思ってたけどさ」


「うん。なんか、ちょっとだけ……好きかも」


 照れくさそうに笑う二人を見ながら、俺はふと感じた。


 ――きっと、この時間もゲームにはない“クエスト”の一部なんだろう。


 騒がしくて、うるさくて、でも少しずつ成長してく。


 そんな双子の、ちょっとだけ優しい午後だった。




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