030,行商人、お祭りに参加する
《王都中央通り・祭り会場 早朝》
「開門ーーーッ!」
衛兵の号令と同時に、ドッと流れ込むプレイヤーとNPCの波。華やかな装飾、宙に舞う紙吹雪、笛と太鼓の音が空を包み込み、ついに祭りが――始まった!
「師匠!客来てます!なんかもう一気に三方向から!」
「了解! ミナトは前! ユウカ、ミズキは調理! レイは補充支援! 俺は……注文捌く!」
「なんか戦場っぽいっすよ!?」
「うるせぇ、これは戦争だ!」
――開幕十秒で鍋が一つ吹きこぼれ、串焼きの香りに列が三倍。
その背後では、対面のライバル屋台から「甘い香り+メイド衣装」の全方位攻撃が飛んでくる。
「ちょっ、あっちの売り子めっちゃ可愛いんだけど!? 完全に視覚誘導狙いじゃん!」
「ちょっとレイ、目逸らさないでポーション補充優先!」
「ご、ごめんなさい!」
一方――
「……あの、筋力強化串、三本ください」
「はいよ!三本ね!一本食ったら筋トレ三倍!異世界のプロテインよ!」
「マジっすか!? おいお前も買えよ!」
「え、俺回復スープの方が気になってたんだけど」
「そっちはそっちで汗だくの後に飲むと体力が回復してクールダウンできるんだぜ!」
「ヤバいじゃん!完璧じゃん!」
――列が、増えた。
「師匠、供給追いつきません!限界ギリギリラインですッ!」
「いいから手を止めるなミナト!敵も最大火力出してくるぞッ!」
見ると、ライバル屋台ではお色気担当NPCが「手作りですぅ~♡」と笑顔を振りまきつつ、“胃に効くスパイスカレー”を手渡していた。完ッ全にこっちを潰しにきてる。
「くっ……この、商戦の癖に戦術がエグい……!」
「師匠!ならこっちは奥の手出しましょう!」
「よし、解禁だ……!」
俺はサッと裏から出した“赤い札”を掲げた。
『特別試食セット《食べ比べ+抽選券付き》!』
――効果は絶大。
「試食!? しかも抽選券!? 絶対買う!!」
「なんだこの販促攻撃……!」
ライバル屋台の店主がグヌヌと唸る。
「くっ、まさかここまで準備してたとはな……っ!」
向こうもなにやら“美少女抽選券”とか出してきたが、時すでに遅し。
場内アナウンスが響く。
「ただいまの時点での売上中間報告――トップは、《夜灯商会》!!」
「ッッッシャアアアアア!!!」
「見たかあああ!!うちの薬膳はガチだって言っただろ!!」
「まだ後半戦がありますよ師匠!」
「上等だ、受けて立つ……!」
祭りはまだ、終わらない。
《王都中央通り・祭り会場・午後》
「残り三十分! ラストスパートッ!!」
「スイーツ部隊、行っきまーーすっ!!」
「出撃した!? ミズキが砂糖の海に突っ込んでったぞ!?」
後半戦、こちらは〝回復スイーツ攻勢〟で勝負に出た。
対するライバル屋台も黙っちゃいない。
「こちら『花園カフェ屋台』、怒涛の新作投入ッ!看板メニュー《天使の微笑みパフェ》投下ーっ!!」
なんか名前だけで勝ちに来てる気がする!
「ユウカ、ミナト、全力でいけ!! 甘味は正義!砂糖は信仰!!」
「っしゃああああああ!」
その頃、レイは物資補充しながら笑っていた。
「なんだかんだで、師匠はやっぱりこういうの向いてますよね……」
「今何か言った!? 助っ人、次のシロップ投げて!」
「はーい!」
もはや厨房は戦場、砂糖とスパイスとスプーンが飛び交い、
何故か通りすがりの吟遊詩人が実況を始めていた。
「見よ、これぞ料理人たちの戦い――!」
「実況やめろォ!邪魔だァ!」
そして――ついにその時は来た。
結果発表
「皆様、お疲れ様でしたァーッ!! 屋台勝負、最終結果を発表しまーす!!」
ステージに現れたのは、主催者である商工会会長。
背後のスクリーンに、最終売上グラフが表示され――
《夜灯商会 金貨:22,540枚》
《花園カフェ屋台 金貨:22,280枚》
「……え、勝ってる」
「勝ってるうううう!? まさかの260差!?」
「うわああああああっ勝ったーー!!スイーツ最高ーーーー!!!」
ユウカとミズキがハイタッチして宙に舞い、
ミナトはその場で正座土下座して謎の神に祈り始める。
「ありがとございます神さま女神さまスイーツの妖精さま!!」
そんな俺たちの背後――
「……クッ、たった260差……っ!」
敗北したライバル屋台の美人店主が、キッとこちらを睨む。
「やるわね、夜灯商会。今回は認める。でも……!」
ずいっと指を突きつけられた。
「次は、“夏の冷菓バトル”で決着をつけるわ!」
「また出るの!?」
「当然よ!この胃袋の因縁、甘く見ないでッ!」
「誰がうまいこと言えとッ!」
その後、優勝賞品として渡されたのは……
「これ……王都公認屋台許可証!? しかも三か月分!?」
「やったじゃん師匠!いつでも祭り出せるっすよ!」
「い、いやこれ普通に業務過多になる未来しか見えないんだけど!?」
「じゃあ決まりだね!」
「うん!毎週出そう!」
「誰がそうしろと言ったァァ!!」
――こうして、夜灯商会の祭り戦争は勝利に終わった。
しかし、その代償は大きく、今後“週一屋台営業義務”が発生するという未来に俺はまだ気づいていない。




