028,行商人、買い出しする
《祭り会場・開幕前日》
まだ屋台がまばらな祭り会場の広場。朝露に濡れた地面の上で、俺は己の判断を後悔していた。
「……なんだこれは」
「見ての通り! “簡易展開式・魔導屋台《ブーストver2.6》”っすよ!」
ミナトが自信満々に言ったその“屋台”は、どう見ても“ロボットの未完成パーツの山”にしか見えなかった。
配線むき出し、板は浮いてる、天幕は風でバタバタ。
そして設置のたびに「ヴイィィン」「ドゥン!」とか不穏な音がする。
「ミナト。お前の中で“簡易”って言葉の意味、定義壊れてないか?」
「安心してください! 起動すれば全部勝手に展開してくれますから!」
「“ちゃんと”展開されるとは言ってないんだよな、それ……?」
俺がため息をついていると、双子のうちの一人――ユウカが屋台の裏から顔を出してきた。
「おーい、これ後ろの冷却魔方陣、火花出てるけど仕様~?」
「ミナト!?」
「すぐ直します! たぶん、たぶんっすよ! やっぱり魔力導線が逆流しがちなんですよこの天候だと!」
「言い訳が物理現象なんだよ!」
さらにもう一人、ミズキが屋台の天幕に登っていた。なぜか。
「高いところで見た方が全体像つかみやすいじゃん? あ、これこのままぶら下がれるかな……?」
「やめろ落ちるぞ! いやもう落ちてるぞ天幕がァァァ!」
バサァン!
豪快に屋台の半分が潰れ、煙がもうもうと上がる。
……正確には、“上がるように設計された演出煙”らしいが、今はそれどころじゃない。
「レン~? 煙演出は本番にとっとかないと映えないよ?」
「知ってるよ!! 誰のせいだと!!」
そのとき、隣のブースから顔を出した他ギルドの関係者が、ぽかんとこっちを見ていた。
「……あの、準備中ですよね? もう出し物始まってます?」
「違う! これは事故だ! 演出じゃない!!」
これから俺たちは、こんな状態で本番を迎えるらしい。
「ま、まあ……修理は間に合いますよ! 予備パーツ、四割くらいは残ってますから!」
「どこが“安心してください”なんだお前は……」
広がっていく騒動の中、俺は空を見上げ、遠くの打ち上げ台に積まれた花火を見た。
……ま、いつものことか。
「よし、時間までには形にしろよ。どうせ祭りは、何が起きても楽しまなきゃ損なんだからな」
「了解っす師匠ーっ!」
こうして、《夜灯商会》の“事故物件屋台”は、華々しくも騒がしく、お祭り開幕へと向かっていったのだった。
《祭り当日・朝・会場中央通り》
ガヤガヤと朝から活気づく祭りの準備中。屋台通りの一角で、ひときわ視線を集める二つのブースがあった。
一つは俺たち《夜灯商会》の特製ポーション&軽食屋台。もう一つは、最近勢力を伸ばしてきた商業ギルド《百輪連》の高級スイーツブース。
その前で、俺と《百輪連》の筆頭看板娘――という名の営業魔王、リセリア・フレイアが対峙していた。
「で、どういうつもりだ? わざわざ目の前に構えるとか」
「んふふ~? たまたまですわよ、レン様♡ あなたの店が“視界に入る場所”にあったから、ただそれだけ」
口調こそにこやかだが、目はまったく笑ってない。
この女、商売の時だけは本気で殺しにくる。
「“たまたま”で店構えるやつがあるかよ……」
「まさか、ビビったんじゃなくて?」
「は? 逆にこっちが聞きてえわ。挑発ってことか?」
「まさか~♡ “勝負しない理由がない”と思っただけ」
彼女は自分の屋台の方をくるりと振り返ると、色鮮やかなマカロンタワーと、魅惑的なフルーツタルトのディスプレイを指差した。
「この一帯の売上、どちらが“より多くのお金を積めるか”。勝負してみません?」
その瞬間、俺の背後からバン!と音がして、天幕の上からユウカとミズキの声が飛ぶ。
「売上勝負!? 乗ったーーー!!」
「面白そーーー!! ミナト、全力でカウンター増設して! 客捌きは任せた!」
ミナトが涙目で天幕の上に叫ぶ。
「お、俺まだ冷蔵ポーション棚の温度調整してないんですけどぉぉ!?」
……聞いてねぇ。
俺は軽くため息をつきつつ、目の前の営業魔王に一歩近づいた。
「いいだろう。売上勝負、受けて立つ」
「では条件を明確にしておきましょう。“日が落ちるまでの売上金額勝負”。敗者は……」
彼女の唇がいたずらっぽく持ち上がる。
「相手の屋台で、翌日一日、全力で“バイト”してもらうってのはどう?」
……想像した。
俺がフリフリのエプロンでマカロン売らされてる未来を。
「よし、絶対勝つ」
「うふふっ、その意気やよしですわ、レン様♪」
こうして、お祭り一番の目玉。
《夜灯商会》 vs 《百輪連》・売上対決バトルの幕が、華々しく切って落とされた――!




