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ワンモア・バザール~最底職行商人、成り上がる~  作者: とあるアルパカ


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027,行商人、反省する

《第一拠点都市・ギルド連合評議室》


「――で?」


 重苦しい沈黙の中、先に口を開いたのは、戦術ギルド《鋼の理》の代表・ダンリクだった。


「第七探索区画の一部、地形崩壊してんだけど。誰か説明できる?」


「うちじゃない。今回はうちじゃないぞ」


 薬師ギルドのギルマスが一歩引いて手を上げる。


「うちの探索部隊は、撤退指示後にクールダウンしてる。レンの店の“試作薬”の話は聞いてたが、まさかあそこまでとは」


「……あの双子がな」


「うむ。ユウカとミズキ、確かに前線で名は上げてたが……限度というものがあるだろうに」


「いや、違うんだ。あの子たち、理性はあったんだよ?」


 レンが必死にフォローを入れる。


「……最初はな!」


「でも途中から理性より快楽にステータス振ってたろアレ!」


「まあ……はい、すいません」


 思わず謝ってしまうレンだった。ギルド代表たちの視線が冷ややかだ。


「……問題は、その薬だ。正式に扱うならば、“暴走耐性チェック”を事前に必須条件にすべきだな」


「了解しました。こっちでもプロトコル強化しておきます」


「それと、その双子。少し“教育的指導”をしておけ」


「……今やってます」


同刻・《レンの店・裏座敷》

「やってないよなー!? やってたよねぇぇぇ!? 完全にやりすぎだったよなぁ!?」


 レンは湯のみを机にガンと置きながら叫ぶ。


「はい反省してまーす……でもめっちゃ楽しかった~!」


 反省ゼロのユウカ。横でミズキもケロリと笑っている。


「レンくんの薬すごいよ! 世界が三倍速で動いて見えた!」


「いや、お前たちの目がおかしくなってただけだ!」


 頭を抱えるレン。双子はというと、


「ご褒美に、次は“対ボス用”の特別薬、試していい?」


「むしろあれ超えてきそうじゃない? もっとこう……身体がバラバラになりそうなレベルの!」


「……お前ら、本当に反省してるか?」


「もちろんしてるよ?」


「その顔でよく言えたな!?」


 レンは額に手を当ててため息をついた。


 が、――その唇には、わずかに笑みが浮かんでいた。


「……でもまあ、データ取れたのは収穫だったよ。次は“制御薬”つけてやるから、それで暴れな」


「おーっ!」


「よっしゃー! 制御つきで最強だわ!」


《夜の街道・帰り道》


「なーあ、ミズキ。やっぱちょっとやりすぎたかね?」


 静かな夜風の中、肩を並べて歩くユウカが、ふと呟いた。


「え? 今さら?」


 横で手を後ろに組んだミズキが、わずかに笑って返す。


「レンくん、ちょっと本気で怒ってたよね」


「だね。あれはマジの“あーもー!!”だった」


「でも、楽しかったんだよな。あの薬、加速感すごくてさ、感覚が“ズバァッ!”ってなって!」


「わかるぅ!! 思考も刃も空気もぶち抜いてく感、たまらん!」


 二人は一瞬、またテンションを上げかけて――ぴたり、と立ち止まった。


「……でも、後衛組、ちょっと怖がってたかもね」


「うん。気付いたら、みんなすっげぇ後ろに下がってた」


 いつもは冗談みたいに派手に笑い合う双子が、その時だけ、少し真面目な顔になる。


「……レンくんが止めてくれなかったら、マジで誰か傷つけてたかも」


「ね。あたしら、刃の先が軽くなりすぎると、どこ切ってるか分かんなくなる」


 そして、空を仰ぐ。


 星が、ふたりを見下ろしていた。


「……でも、レンくん、ちゃんと見ててくれたね」


「止めるだけじゃなくて、“次に使う薬”の話してくれたし」


「だから、ちゃんと反省する。……ほんのちょっと、だけど」


 ふっと、ミズキが笑う。


「でもさあ、次はもっと冷静に暴れよう?」


「おー! “制御されたカオス”! それって最強じゃん!」


「ほんと懲りてないよね、あたしら」


 二人は吹き出しながらまた歩き出す。


 夜道を照らす灯りの中、双子の背中が、少しだけ大人びて見えたのは――たぶん気のせいじゃなかった。



数日後

《《夜灯商会》・本店カウンター前》


 いつものように調合台を磨いていた俺のもとに、扉が勢いよく開く音が響いた。


「師匠! 師匠ーっ!!」


「うるさい。爆発でも起きたのか?」


「いえいえ、それよりも――コレっすコレ!」


 そう言ってミナトが俺の顔面にほぼ突き刺す勢いで差し出してきたのは、装飾たっぷりのチラシだった。


「……『第七回・流星花灯りゅうせいかとう祭』?」


 チラシの表には、華やかな提灯と空に打ち上がる魔法花火のイラスト。イベント好きの運営が張り切ったんだろう、情報量はギルドの契約書並みに多い。


「そう、お祭りっすよ師匠! 屋台と試合と花火と仮装と――あ、あと商品目当ての限定クエストも!」


「はぁ……また大混雑の予感しかしねぇな」


「でも、こういうときこそ薬屋が儲かるんじゃないですか? 回復薬とか暑気払い系の飲料とか、特効アイテムとか!」


「……ああ、なるほど。人が集まる=財布も集まる、か」


「ですよ! しかも今回は“特別屋台枠”ってのがあるみたいで! 出店申請通れば、《夜灯商会》として祭り会場にブース出せるんですよ!」


 目をキラキラさせて、ミナトは拳を握る。


「師匠の薬で屋台出したら、絶対大行列っす!」


「……俺が行列に巻き込まれる未来が見えるんだが」


「それは……がんばってください」


 お前が言うな。


 だが、祭りイベント……客足も、情報も、アイテム流通も増える。考えようによっては、これまでの動きを整理しつつ、次の手を打つタイミングにはちょうどいいかもしれない。


「よし、じゃあ――準備してみるか」


「うおぉぉぉ! やったぁ! じゃあ俺、屋台仕様のポーションスタンド設計してきます!」


「おい、それ爆発するやつじゃないだろうな!?」


「最低限の爆発力は必要っすよ! 派手さ大事!」


 ……平常運転のはずなのに、もう頭痛がしてきた。


 だが、“祭り”ってのは――何かが動き出す前触れでもある。


 俺はチラシを見つめながら、ふと胸の奥に湧いた高揚感をかき消すように、深く息を吐いた。


「……さて、何が起きるやら」



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