025,行商人、騒がしくなる
《夜灯商会・二階オーナールーム》
夕方の微かな風がカーテンを揺らす中、俺はソファに身を沈めて、珍しくまったりとした時間を過ごしていた。
――ピロン。
控えめな通知音。メニューウィンドウの端に浮かぶ未読チャットに視線を向ける。
『今店行っていい?』
……ああ、この感じ。読んだ瞬間にわかる、静寂の終焉を告げる一撃。
『いいけど……なんかよう?』
若干そっけなく返したつもりだったが、即既読、そして即返信。
『用はない!この世界でまだ会ってなかった思って!』
「……元気だな、こいつ……」
画面越しなのに、声が聞こえる気すらしてくる。チャットでこれなら、実際に会ったときの騒がしさは言うまでもない。
現実でもそうだった。何かと張り切っては暴れ回り、勝手に喧嘩を売って、笑って返り血を浴びるような、そんな“戦闘狂の幼馴染”。
だが、ふと気づく。
「そういえば……まだ、この世界では会ってなかったか」
あのうるささすら、今の俺にはちょっとだけ懐かしく思えた。
ため息交じりに、キーボードを叩く。
「なら店で待ってるから来れる時来れば?」
言葉にすればただの一文。でも、その背後には――この世界で再び出会うという、ちょっとした期待があった。
《夜灯商会・一階店舗カウンター前》
「はあ……静かだったな、この数日……」
レシピ整理しながらぼやいていたその時だった。
――ドンッ!!
「レンっっっっッ!!!!!」
店の扉が文字通り“爆音”と共に開いた。ガラスは割れなかったのが奇跡。風すら怯えるこの突風の正体は――
「……お前かよ、ユウカ」
ツインテールが跳ねる。“戦闘狂”と称される幼馴染・ユウカが、両手を広げて突撃してきた。
「ひっっっっさしぶりー!え、なにその顔、感動の再会にしてはテンション低くない!?」
「感動してるヒマもねぇよ、俺の店壊す気か。開け方考えろ開け方。もはや入場じゃなくて“突撃”だろ」
「へへーん!元気だった!? てかさー、なんでこっちで私のこと誘ってくれなかったのー!? さびしかったんですけどー!?」
「誘ったらこの調子だろ。店の信用が飛ぶわ」
「えー、失礼な!私めっちゃお行儀よくするよ? 戦闘以外は、たぶん!」
「“たぶん”の時点で信用ねぇよ」
カウンターに肘をついてる俺を見て、彼女はにこにこと笑う。が、その目がキラリと光った瞬間、嫌な予感がした。
「で? 調薬って聞いたけどぉ……もしかして、私に似合う“最強バフ薬”とか作ってくれちゃったり~?」
「やらねぇよ。てか、お前の戦い方に薬っている?」
「ひどい! これでも支援はほしい派だよ!? むしろ“私が使うから強い薬”とか作ってよ!」
「どっちだよ。あと“支援がもったいないランキング”堂々の上位な、お前みたいな奴のために俺の高級薬が泣くわ」
「えっ今の地味に傷ついた!! ……あ、じゃあ、今度デート代わりに素材取り行こ! 採集と討伐とスイーツめぐりの旅っ!」
「いやそれ“デート”じゃなくて“労働+戦争+補給”な。スイーツで釣ろうとしても無駄」
「え~、じゃあレンくんのために、素材いっぱい採ってくるから! そのかわり、帰ったらお茶とお菓子な!」
「それもう完全にバイトの報酬だろ……」
二人して笑い合う。まるで旧友同士というより、“いつも喧嘩してる親友”みたいな距離感。
けれど、この騒がしさ――
“ああ、帰ってきたな”って思わせてくれる。現実でもゲームでも、変わらない彼女の存在に、少しだけ気が緩む。
「――まあ、あんま暴れるなよ。せっかく繁盛してる店だし」
「へっへー、大丈夫大丈夫。レンがやることなら、どこまででも付き合ってやるよ」
そう言って、彼女はウィンクしてみせる。
まったく、うるさいけど……でも、これが悪くないんだよな。
《夜灯商会・一階店舗カウンター前》
ユウカとひとしきり口喧嘩という名のテンポのいい会話を交わした数分後――
「――あっ、やっぱりいた。姉さん、店壊してないよね?」
入ってきたのは、同じ顔、同じ身長、そして同じように戦闘服をラフに着崩したもうひとり。目元で軽く結ばれた髪が違うくらいで、見た目はほぼコピー&ペースト。
「おう、ミズキー! レンがツンツンしてくるからさー、冷やかしに来たの!」
「いやいや、“冷やかし”は姉さんの趣味でしょ。私はただの巻き込まれです」
「ウソつけ、全力で乗っかってきてるだろお前」
俺はそう返しながら頭を抱えた。案の定、来やがった。最強で、最凶で、最騒の双子が。
「店、静かにしてって言ったじゃん……! なんで一日ももたないの!?」
「えー、でもほら、たまには騒がしいくらいがレンくんの免疫にもいいよね、ミズキ?」
「うん、デバフ解除的な意味では……いや、ないな。それ普通に騒音だわ」
……言ってることメチャクチャだが、口調とテンポだけは完璧にそろっているのが逆に恐ろしい。
「で、ふたりそろってどうしたよ。てっきり前線で殴り合ってるもんかと」
「いやー、もうすぐあれでしょ? 次の大型遠征」
「そこで使う支援薬の試作があるって噂、ギルド内で飛び交ってるんだよね~」
どこでそんな情報得たんだか。ほんとに、あちこちのギルドに顔が効くってのは嘘じゃなさそうだ。
「その支援薬、私たちが“テスト”してあげようかと!」
「もちろん現物支給、あとスイーツ付きで!」
「強欲かてめぇら!」
思わず椅子からずり落ちそうになる俺。こいつら、双子揃うと“会話が一方通行”になるんだよな……
「ほらレン、そういう反応こそが私たちの燃料よ」
「うん、ツン成分追加でテンションMAX。姉さん、そろそろ暴れる?」
「バッチこーい☆」
「帰れよッ!!」
言いつつも、どこか嬉しそうな俺がいた。なんだかんだ、この騒がしさも嫌いじゃない。
ああ……やっぱり戻ってきたなって、こういうのが一番実感するんだ。
ただし――
「……素材の棚、倒したらお前らの分の薬全部回収するからな」
「えーっ!?」
「ひどいっ!」
叫び声が重なる。
最強の双子は今日も絶好調、俺の静けさは当分戻ってこなさそうだった




