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019,行商人、英雄になる

《封鎖領域ティルフィア・玉座の間 最奥部》


 ――立ち上がった“王”の威容は、もはや幻想すら凌駕していた。


 玉座がその背に融合し、王の肉体は魔力と死の瘴気を喰らい肥大化している。

 背後に展開された“王権顕現”の魔法陣は七重構造。空間を歪ませ、現実世界の法則すら一時的に書き換えているようだった。


「これが……本来のアレクシス……」


 レイが思わず息を呑む。

 ステータス欄は依然「???」のままだが、システムログが変化を告げる。


 


 《アレクシス=ヴェリオン/真・玉座の主》

 《形態変化:王命形態》

 《パッシブ効果:玉座の支配・即死無効・魔力無限循環・時限強制ローテーション》


 


「なんだよこの詰め込みバフ……! まともに殴り合ったらこっちが先に落ちる!」


 カズが舌打ちするが、ライトが前へ出て剣を構える。


「なら、殴り合いにならねぇように立ち回るしかねぇだろ」


 即死級の魔導光が放たれた瞬間、ライトが魔剣でそれを斬り払った。

 だが、すぐさま王の杖が上空へと掲げられ、落雷のような魔法詠唱が始まる。


「これは……重ね撃ち!? 魔法スタック型の連弾構成だ!」


 レイが叫ぶ。だが理解する暇すら与えず、三連撃の大魔法が戦場を穿つ。


 


 《レガリア・オブ・エンド:崩界》

 《レガリア・オブ・ブレイズ:燼滅》

 《レガリア・オブ・ヴェイル:魂縛》


 


 立て続けに放たれる“世界の終端”級の攻撃。

 そのすべてが、規格外。


「っ……レン、展開! 限界術式いくぞ!」


「了解!《虚壊術式・遮断型》!」


 俺は魂力を限界まで燃やし、フィールド全域への多重結界を展開。

 同時にノアが、タイミングを合わせて《魔気耐性ポーション・改》を味方全員に投げ渡す。



「任された!」


 


 ――敵の手札がすべて見えた今、次はこっちの番だ。


 カズが火力限界突破スキルを発動。

 「あと三撃しか保たない」と告げながらも、《紅蓮斬衝・完全解放》を叩き込む。


 ライトもそれに続く。


「……終わりだアレクシス。玉座に縛られたまま、永遠に座ってろよ!」


 《聖剣連撃・終律》――

 六連撃の神聖属性攻撃が、王の動きを一瞬止める。


「今だ、レン!」


「――任せろ!!」


 俺の前には、あの“剣”があった。


 祝福されし封印解除の剣、《ファルシオン・ルクス》。

 ティルフィアの古戦場跡から回収され、レイと共に解読した“開封の鍵”。


 


 「玉座に縛られし王よ。

  この剣をもって、汝の封印とその執念に終止符を――!」


 


 《スキルアクティブ:〈斬封の理〉》

 《条件達成:封印式式核への接触/剣の発動》

 《最終フェイズ:封印解除開始》


 


 王の体が硬直し、背後の玉座が砕けていく。


 断末魔のように響く王の咆哮――それは怒りでも哀しみでもない、空虚な音だった。


 ……王は、王であることを“命じられていた”のかもしれない。


 玉座に囚われた魂が、ようやく解き放たれていく。


 


 《封印術式、完全解除》

 《封鎖領域ティルフィア・封鎖状態解除》

 《討伐成功:アレクシス=ヴェリオン》

 《討伐者:Ring of Dawn・協力勢力/プレイヤーグループ報酬配分開始》


 


 その時、漆黒の空間が音もなく“晴れた”。


 霧は晴れ、世界は、ただ静かに息を吹き返していた。


 


 * * *


 


「……終わったな」


 ライトが力なく腰を下ろす。


 ノアが微笑み、ポーションの小瓶を一つ空にした。


 レイはそっと剣に手を伸ばし、封印の痕跡を観察している。


「これで、本当に……ティルフィアは解放されたんですね」


「ああ。もう、霧も、王も、ここにはいない」


 


 戦いは終わった。


 ティルフィア全域の完全解放から――数日。


 それは、まさに歴史の転換点だった。


 かつて“死の霧”に覆われ、踏み込むことすら許されなかった《封鎖領域ティルフィア》。

 その最奥、玉座の間に座していた“王”――アレクシス=ヴェリオンを討伐した俺たちは、まさに“最強”の称号を与えられるにふさわしい存在となった。


 世界中のプレイヤーが、その名を検索し、称賛し、嫉妬した。


 ……まあ、俺は別に“最強”とか興味ないんだけど。


 


 とはいえ。


 あの戦いの報酬は、とんでもないものだった。


 アレクシス討伐によって得られた希少素材、ユニークドロップ、そしてなにより――“霧瘴耐性特化”の新薬開発。


 俺が投げまくった試作ポーションが、ティルフィア制覇の影の功労者だったことは運営すら認めるところで、そのおかげで――


 


「というわけで、新店舗、三軒目ッス!」


 


 どーん、と言いたげに新築の看板が輝いている。

 かつて《ポーション屋レンの店》と呼ばれていた小さな店は、いまやティルフィア圏を中心に三店舗を構える専門薬店に進化していた。


 ……いや、まじで人生何が起きるかわからんよな。


 


 この周辺の探索に必要な薬品のほとんどは、今や“俺製”一択。

 状態異常耐性からフィールド耐久、瘴気対策から戦闘補助まで、全部揃ってるし、しかも効果がチート級だと評判。


 正直、今のところは競合ゼロ。完全独占状態。


 ただ、そろそろ製造レシピを“条件付き”で販売してもいいかな、なんて考えてたりもする。

 やたら貢物積んでくるギルドもあるしね。交渉材料に困ることはない。


 


 ……そんな、成功と安定の真ん中で。


 


「つっかれたあああああああああ~~~~……!」


 


 俺は、三店舗目のカウンターに突っ伏していた。


 天井を見上げながら、ぐでーっと伸びきった体。

 もう、背中に“疲れ”って文字が浮かびそうなほどだ。


「いやいや、戦闘よりも後処理のほうがしんどいって、マジでどういうこと?」


 仕入れ、調合、書類、雇用者教育、そして対応、対応、対応――!


「英雄だろうが最強だろうが、ブラック労働からは逃げられねぇのかよ……!」


 誰にともなく愚痴をこぼす。

 でも、ちょっとだけ――


 


 そのカウンターの向こうで、街の喧騒を聞いていると。


 


 俺が解放した土地で、人々が生きて、動いて、笑っているのが分かる。


 その音が、何よりの報酬だと、思ってしまうのが……悔しいな。


 


 ――さて。


 あと三時間で二号店の納品確認か。

 ついでに、新しいポーションの試作品も届けなきゃな。


 ふぅ。もうちょっとだけ、がんばるか。


 


「……あーでも、あと五分だけ寝る!!」


 


 英雄だって、休みは必要なんだよ! マジで!

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