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アイ・ラブ・カワサキ ラストライブ ー津々浦々周知されたー

 夕方になると日本国中の全てのニュース番組でこの日の川崎の出来事は伝えられた。視聴者からの投稿映像だったり、Twitterからだったり諸々するなかで、今日のヘイトデモを取材していた各社クルーによる映像もあったが、もっとも近い、と言うかほぼ真下から撮影されたものをNHKに提供したのは三十代のフリージャーナリストだ。それはやがて川崎に出現した「赤い浮遊体」の象徴的な映像となった。

 

 誇りを持ってしかるべきはずの国旗が翻る。しかし旗を振るのは我々国民にとってなかなか残念な差別を吠えている、どちらかと言えば中高年たちだ。そんな彼らが闘う青空へ「赤い浮遊体」は突然に現れ無数の国旗は順次下ろされた。同時に「悪口」も収まる。しばらく周囲がざわついていると静かな空の中へ滲むように消えてしまい、その間に怒りやあるいは喜びなどがすっかり収まっていた地上に、どこか温かな拍手は起こる。2分ちょっとの余りに決定的な映像だ。一方でこの映像に限らず、撮影された殆ど全ての動画等により、はからずも我が日本国にも虚しくなるような、悲しくなるような「ヘイトデモ」や「人種差別」が存在していることを全国民に知らしめた。テレビは見ないがラジヲは聞くのであれば漏れなく耳にしたし、ネットやスマホをまだ自由に使わせてもらえない子供たちはテレビで見た。太平洋戦争を始めたとき、東日本大震災が起きたとき、ほぼ全ての国民はその日のうちに知ったことだろう。もちろん比較するほどの出来事ではないが、この日の「川崎」の騒動も同日中には全国津々浦々周知されたのだった。

 「彼ら」の存在は知っていても興味を持たなかった者、もしかすると「彼ら」のような大人の存在は知らないでいる方が良かったのかもしれないまだ幼い子供たちにも知れ渡ってしまったというわけだ。

 なぜに野放しなのだろう? とまともな危機感を持ち次の選挙には行こう、と初めて思った有権者も少なくはなかったはずだが「あべこべ内閣」の某大臣が薄汚い不祥事を起こし、余りにみっともない釈明を続けた末、ついに辞任した衆議院議員の補欠選挙が年明けに行われた東京の選挙区における投票率は「相変わらず」だった。

 年の瀬の忙しさに失速した「赤い浮遊体」の話題は、正月にタスキを繋ぐ学生ランナーが山を登り下っている間にほぼ鎮火してしまい、しかし各地の成人式の式辞でいくらか盛り返したものの東京に結構な積雪を記録した初雪を経て、いよいよ補欠選挙の直前になると芸能人の不倫と薬物事件が立て続けに「起きて」しまった。誰が「見える」のか「見えない」のか、あるいは誰が嘘をついているか、ついていないか等は少なくともメディアにおいてもう完全にキラーコンテンツたり得なくなった。すると「ヘイト」にも「差別」にも、だからきっと「選挙」にも興味は薄れたのかもしれない・・・・・・そしてたとえば政治全般から各種店員に対する態度まで、あるいはマスメディアの報道姿勢から電車内のマナーまで、いかがなものかと思えるあれやこれやが当時よりもより増している気がしてならない七年後に「あの子」は完全消滅したのだった・・・・・・。




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