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社会現象 ー対話の動画ー

 TwitterやFacebookなどで世界中に拡散された「赤いバルーン」がついには世界的なトレンドにまでなったことがある。

 アメリカの片田舎の公立小学校を卒業した日系アメリカ人宇宙飛行士が、インターネットを使い今現在滞在している宇宙ステーションと母校を繋いだ課外授業が行われていた際に、十二歳の少女が日本に住む叔母から送られてきていた「木」の写真を二枚用意して偉大な卒業生に質問したのだ。一枚は、私には「見えても」アメリカ人の父親、日本人の母親にも学校の誰もが「見えない」と言うモノで、もう一枚はそれをデジタル加工して「見えなく」したモノだった。

 日本語を話せない米国籍の十二歳の少女は宇宙空間で英語を話す偉大な卒業生へ「どちらかに何か見えますか?」と問うた。

 貧しい家庭のアジア系として苦い思い出を持ったまま公立小学校を卒業した宇宙飛行士は画面に向かって左の方を指さし、こっちには枝の先に赤っぽい風船のようなモノが引っかかっているよ、と即答したのだ。いつの日か訪日することを願っている少女は画面からはみ出す勢いで喜んだ。回線のつながる前、写真をプリントしたはがき大のパネルの裏には未加工の印をつけていることを知らされていた教室も大いにざわついた。宇宙空間にいる卒業生は、地上にある人種差別とは無縁でいてもらいたい可愛い子供たちの驚きに首を捻り笑った。少女はその後、机の下でパネルをシャッフルして同じことを七度も繰り返した。それだけすればもう十分だった。教室にいる25人の同級生は、冷静さとどこか諦めの雰囲気で肩をすくめ、途中から向こうの画面の前に連れてこられた英語を話すロシア人のクルーがどっちも「葉っぱ」しか見えないぜ、とゲラゲラ笑った・・・・・・。

 この対話の動画はアメリカ全土に収まりきらず一日も経たない間に世界中へ飛び火した。世界が多種多様な首を捻っているなか、外国の地で活躍する「日本人」のスポーツ選手が特に活躍した試合後にインタビューを受けるとき、インタビューアーはアメリカの少女が行ったようなパネルを用意するようになった。「見える」MAN of matchがいれば「見えない」MAN of matchがいた。たまに選手と帯同している日本人通訳にだけ「見える」こともあった・・・・・・しかしスタジアムにいる観客やテレビやらネットでの視聴者の殆どには「見えない」のだし、そもそもインタビューアー自身にもパネルの表側にあるらしい二枚の差異が分からないので、世界中で流行ったぶんだけ瞬く間に飽きられた。それはむしろ東アジア圏における感情的な理由による収束よりも、アジア系の戯言と捉えたヨーロッパや北米から流行は廃れたのだった・・・・・・。




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