川崎ヘイトデモ ー豊川は断言するー
被害妄想から育った危機感を持つことで劣等感を打破できるような気になる「ノリ」の火薬庫。劣化した人間は、現役の魂で調合したその火薬を使い、火を噴くぐらいの言葉の実弾を撃ち続け永遠に弾切れなどしないのかもしれない。自分たちの隊列の外にいる連中であれば、誰がナニ人で誰が弱者で、誰が愛国者だろうと博愛主義者であろうと、誰がどれだけ深く傷つこうとも実弾の撃ち方を止めない。同時に自らの先祖をも撃ち続けている自覚など持っているべくもなく、本当は意味などないし、むしろ行わない方が自分の魂にとって健全であることをなんとなくは承知しているのだろうが、でも人種差別を口にすれば、しただけで、不思議なくらいの優位性と勝利感に酔えた。
今ここにいる純烈国士たる自分たち以外の似非愛国者と工作員に決まっている全ての者に向け、それは空に向って歪な愛をお国へ捧げるためのヘイトを吠えるのだったが、正義の排斥万歳が過熱する現場に豊川はいた。
色とりどりのユーモアとピースフルなスピリッツに仮装した陽気な群衆が練り歩いたばかりの繫華街で、今日は的外れな威嚇や迷惑な示威に酔う大量の日章旗、旭日旗が揺れていた。
ジュラルミンに守られた隊列の中で、人からもらった日の丸の小旗を振りながら、周りに倣って振り上げる自分の拳を見上げた彼女は、その先にある空に、まるで時空の扉から締め出されたかのような異物を、もしかしたら愛らしい神話の縁で見つけた。瞬きを二度すると視覚が聴覚を無効化してしまい、身を投じていた騒ぎは水圧を感じる水の中の様な静けさとなり、つい足が止まった。日頃少しは誰かに自慢したっていいはずだ、と思っている細くてきれいな指が揃う掌を裸の唇に当てた・・・・・・豊川は断言する。「川崎のは、私が最初に発見したんだよ」