表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
≪7/21完結≫転生令嬢の甘い?異世界スローライフ! ~神の遣いのもふもふを添えて~  作者: 芽生 11/14「ジュリとエレナの森の相談所」2巻発売!


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

60/68

第56話 三人の聖女候補 3

最終話まで、毎日更新です。

どうぞよろしくお願いします。

 王都の一角にひそかに集まった者たちは届いた魔法鳥の手紙の内容に注目する。

 信仰会の上層部、王家から遣わされた者たち、そしてギル・ヒューズがそこにはいた。舞い降りた魔法鳥は聖リディール正道院のイライザからのものだ。

 一枚の手紙を代表者が緊張の声で読み上げる。


「それでは課題を読み上げたいと思います。聖リディール教会での聖女候補への課題は――」


 聖女候補への課題、それをどうこなすかによって選定の評価も変わっていく。身分や経歴の異なる聖女候補三人をどのような課題で判断するかは、重要な問題である。

 信仰会に所属するイライザ正道院長が決めた課題がウィローにとって、不利なものであればヒューズはこの場で跳ね付けるつもりでこの場に来た。

 信仰会の者たちもまた、それが自分たちが望む聖女像に不利なものであれば、即刻否定するつもりでいる。王家から遣わされた者もまた同様だ。

 そんな権力者たちの鋭い視線に、読み上げる男は震えそうになる声を必死でこらえた。

 

「課題は、『誰かのために行動を起こすこと』……です」


 戸惑いと困惑の声が部屋に広がっていく。聖女候補への課題としては抽象的過ぎて、これが自身にとって有利な課題かどうかを判断しづらいのも理由の一つだ。

 だが、手紙の読み上げはまだ続く。


「続きを読み上げます。『誰でも可能なことだと皆さまはお思いでしょう。ですが、不可能を可能にするのも聖女の力であれば、可能なことからより良き判断をするのもまた聖女の力。聖女である前に、彼女たちは正道院の研修士なのです』……とあります」


 聖リディール正道院においてエレノアもリリーも、貴族か平民かの違いこそあるが研修士である。またヴェリテルの町の正道院でリリーも研修士になっていると、メラニーの手紙には記されていた。

 三人の聖女候補全員にとって同じ条件であり、不公平とも言い難い内容にざわめきは広がるが反論の声は上がらない。


「いや、素晴らしい課題ではないか」

「スタイロンさま……」


 信仰会の会長スタイロンの声に、上層部の者たちは彼を注視する。ヒューズもまた、スタイロンが何を言うのかと鋭い視線を向けた。王家の遣いは王の代理ではない。この場で最も高位なのはスタイロンである。

 抽象的なイライザの課題は、信仰会や王家にとっては都合が良いものだ。どのような課題をこなしたとしても、数と権力で強引に聖女を決めることが可能になる。


「他者のために行動する――聖女の精神性に深くかかわる課題で、身分も経験も関係がないのだ。これならば、貴族であるエレノア嬢にも平民である二人にも公平な課題だろう。異論はあるかね、ヒューズ殿」


 その言葉で皆の注目は一気にヒューズへと注がれる。一瞬の間をおいて、ヒューズもにこやかな笑みを浮かべる。人好きのする堂々とした微笑みは、余裕を感じさせるものだ。


「いえ、異論はございません。どのような条件であろうと、聖女となるのは我々が見出したウィローでしょう」

「そうか、であれば問題ないな。聖女候補への課題はこれで決定だ」


 その言葉に信仰会の者たちから拍手が沸き起こる。王家の遣いは一礼をして、報告へと急いだ。ゆったりと椅子に腰かけたヒューズは微笑みを浮かべたままだ。

 彼もまたスタイロンと同じように、この課題を自身にとって有利なものだと考えていた。「誰かのために行動を起こす」――積極性のないリリーにとっては不利に思えるかもしれない。

 しかし、ヒューズは無いものをあるかのように語り、繕うことを得意としている。この場に彼がいられること自体、ヒューズが作り出した偽りゆえなのだ。

 それぞれの思惑が渦巻く部屋の中、イライザの魔法鳥は小首を傾げると溶けるように消え去った。


*****


 聖リディール正道院でもイライザの決めた課題は三人の聖女候補に告げられた。ヒューズからの連絡がいっているのか、クレアからも反発の声は上がらなかった。

 部屋に戻ったエレノアは課題の意味を考える。


「お決めになったイライザさまのご苦労が感じられるわね。信仰会にギル・ヒューズ、どちらの立場にも利がなければ課題は認められないもの」

《他人事のように言うが、汝は問題ないのか?》


 シルバーの問いかけに少々考えたエレノアだが、なんということでもないかのように笑って頷く。


「いざとなったら、力を見せるわ。菓子作りに関係していれば、どんなことも可能なのよね。魔道具として家電を出そうかしら? それともまた雨を降らせるのがいいかしらね?」

《自分を犠牲にして聖女の道を歩むのか? それは正しき行為と言えるのか?》

「もう、質問に質問で返さないでよ!」


 ベットに腰かけていたエレノアはシルバーを抱き寄せ、そのふわふわとした毛並みを撫でて整える。目を細めるシルバーだが、その視線はエレノアに注がれたままである。部屋の隅に控えるカミラからも、案ずる視線が注がれていることにエレノアは気付いていた。

 ハルであった頃は、日々の生活に何の問題もなかったが孤独を感じていた。今はこうして、傍に誰かがいてくれる。それは幸福なことなのだとエレノアは思う。


「――もし、二人のどちらかが選ばれてしまったときの話よ。課題には真面目に取り組むわ。ここに来て、皆とシルバーに出会って私の人生は変わったんだもの。これはそんな生活の集大成になる課題なの」


 エレノアは考える。誰かのために出来ること、誰のために何をしたいか。答えは容易に思い浮かぶ。それはこの聖リディール正道院でエレノアがしてきたこと以外に考えられなかった。


「お菓子を皆のために作るわ。これが私が皆に贈れる最後のお菓子になるかもしれないんだもの」

《……課題がそれか? 欲がないというか、形式にこだわらぬというか……。まぁ、いい。汝の好きにするが良い》

「あ、大丈夫よ? シルバーにもあげるからね。もちろん、カミラにもよ」

「はい、光栄に思います。お嬢さま」

 

 聖女となる課題に菓子を作る。なかなか肝が据わった少女であるとシルバーは改めて思う。この少女がエレノア・コールマンに転生したことによって、アスティルスの国が救われたことに気付く者はいないだろう。

 この少女が聖女に選ばれれば、国も世界も安定に向かうことは想像できる。

 しかし、一方でシルバーとしてはエレノアに対しての想いがある。

 この不可思議な運命を背負った少女のために何が出来るのか、シルバーはそんなことを思うのであった。


*****


 昨晩、エレノアは一人で菓子を作り上げた。

 皆に振舞う最後の菓子になるかもしれないそれを、まず最初に受け取ったのはカミラである。涙を流すカミラにエレノアは笑って、「これからも傍にいるのだから」と笑う。しかし、そんなエレノアの言葉にカミラは再び涙を溢した。

 菓子を持ったエレノアは正道院内を歩いて、皆を探している。そこにアレッタと彼女を手伝うリリーの姿が見えた。


「アレッタ、リリー! あら、リリーは手伝いをしているのね」


 エレノアの言葉に胸を張って答えようとするリリーを、後ろのアレッタがにこやかに見つめている。


「はい! 私が決めた課題は『皆を手伝う!』です。いつもお世話になってる人を手助けすることが、私にも出来ることなので」

「それはいい課題ね。私の課題はこれ、皆にお菓子を作ったのよ。はい、リリーとアレッタにもね」


 そう言ってエレノアは菓子を二人にも手渡す。喜ぶリリーとその反応に微笑むエレノアを見て、アレッタは二人の人の良さに困ったように笑う。聖女の座を競う間の二人がお互いの課題を教え合うなど、通常では考えられない。

 しかし、二人はにこやかに笑い合っているのだ。


「私、頑張ります!」


 その言葉の本当の意味を察したエレノアは困ったように微笑む。そっとリリーのストロベリーブロンドの髪を撫でると瞳をじっと見つめた。


「……私のためにじゃダメよ? リリーはリリーの大事な人や思いのために聖女にならなきゃ、もしなったときに困ってしまうわ」


 そんなエレノアの言葉にリリーはぶんぶんと頭を振る。目には涙が滲んでいた。

 だが、その瞳には確かな意思がある。リリーにはエレノアに伝えたい思いがあるのだ。


「困りません。私にとって、エレノアさまも大事なのですから!」

「……ありがとう、リリー」


 事情は分からぬアレッタも二人の姿を優しく見守る。

 二人の少女のどちらかが、聖女として責任ある立場につかねばならぬかもしれない。背負うものの大きさを考えると、アレッタは胸が痛むのだった。



 小さな菓子を持ってエレノアは彼女の部屋に訪れた。

 通されたその部屋の少女の姿にエレノアはくすりと笑う。

 今にも泣きだしそうな瞳をしていても、毅然とした印象を与えるスカーレットはまるで怒っているかのようにも見えるだろう。

 穏やかで繊細な気性にもかかわらず、誤解を受けるスカーレットは震える声でエレノアに話しかけた。


「わたくしと家族の生活をあなたは救ってくれたのに、わたくしは何も出来ないなんて……」

「変わったのはスカーレットさまご自身が動かれたからよ」

「そのきっかけをくださったのもあなただわ」


 涙を溢したスカーレットを心配そうにペトゥラも見つめている。ほろほろと涙を流すスカーレットを、エレノアはそっと抱きしめた。

 驚きでスカーレットは目を瞠る。家族以外の者に抱き寄せられたことなど初めてのことだ。


「大丈夫よ。私が聖女になったなら、もっともっとこの国は良くなるわ。皆がより幸せになるんじゃないかしら」

「……あなたが幸せでなければ意味がないのです」


 震えてはいるがしっかりとスカーレットはエレノアに思いを伝える。控えめなスカーレットとしては勇気がいったことであろう。そんな思いにエレノアの胸も締め付けられるようだ。

 予想もしていなかったスカーレットの言葉に、エレノアもつい弱音を吐きそうになる。そんな気持ちを押さえつけ、普段通りの調子でエレノアは話しかける。


「ふふ。まるで愛の告白を受けている気持ちね」

「もう、こんなときまでからかうのですか」


 泣き笑いのスカーレットにエレノアは力強く微笑む。聖リディール正道院で出会った二人の少女の間には、確かな友情が築かれている。スカーレットを見守り続けたペトゥラはそっと涙を拭う。

 窓から差し込む光もまた優しく二人の少女を照らしていた。

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ