文化祭
「ゲホッ、ゲホッゲホ」
咳き込むたびに喉が痛い。
頭が痛くてグラグラする。
鼻水が止まらないでできるティッシュの山。
寒気を感じながら体温を測ると38.7の文字。
文化祭当日、僕は盛大に風邪をひいてしまった。
この日僕は先輩に告白するつもりだった。
前日まであった文化祭の実行委員会。
誰もやりたがらないこの仕事を引き受けたのも、先輩に近づきたい打算があったからだ。
まあその目論見は、ほとんど達成できなかったわけだが。
裏方がこんなに仕事が多いとは思ってもみなかった。
細かな備品の買出しに、スケジュールの調整。
生徒以外の参加者に対する配慮などと、挙げていったらきりがないほどだ。
それに対して先輩と話せた時間は……深く考えるのはよそう。
だからこそ明日こそはと決意したはずだったのに。
熱にうなされていると、色んなことが頭を回る。
胸に溜まっていた言葉が、自然と外に出てしまう。
今日という日に限って熱を出してしまうなんて、委員会受けなければよかったのかな?
でも先輩を見れる機会はまちがいなく増えたし良しとしないと。
もう1年早く生まれていたらなあ。
先輩ではなくて同級生だったら。
クラスが一緒ならもっと喋れたのかな。
「君はそんなこと考えていたんだ」
文化祭の途中のはずなのに先輩の声が聞こえる。
僕の部屋に先輩がいるなんてまるで夢のようだ。
朦朧とした意識の中で、独り言に対する相槌が心地よくて次から次へと話をする。
一緒に文化祭を楽しんで、最後に告白するんだ。
あっ、振られたらどうしよう。
振られた時のことを考えていなかった。
そもそも文化祭も他の人といるかもしれない。
ああ、何で風邪なんてひいたんだ。
言ってて悲しくなってきた。
自分でも何を言ってるかわからない。
聞かれたまま答えているだけ。
「他には何も無いの?」
一緒に学校から帰ったり、デートもしてみたいです。
普段言えない言葉も素直に本音が零れる。
夢中でたくさん喋りすぎたせいか喉が痛い。
「今日はもうゆっくりお休み。
今度はちゃんとした告白を聞かせてね」
一体僕は誰と喋っていたんだろう。
僕は優しい声に誘われるように眠りについた。