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二十歳君と男運に恵まれない彼女  作者: 完菜


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三十話 横浜の夜景

 山下公園に行くためには、赤レンガ倉庫、大さん橋ふ頭を通る。この辺りは、横浜の中でも有数のデートスポットだ。

 大きなビルが立ち並ぶこともなく、夜は海の音と潮の匂いを感じる。目の前に見える赤いレンガ造りの建物は、ライトアップされ昔と今をミックスした横浜の代表的な風景。


 私も、その風景が好きな一人。二十代前半の若い頃は、友達とこの風景を見るだけにふらりと来たりした。

 幸知と手を繋いで、ゆっくりと山下公園に向かって歩く。特に会話はなく、お互いこの雰囲気を楽しんでいる。


 みなとみらい駅から、山下公園まではゆっくり歩いて三十分。海岸沿いに長細い形をした公園からは、みなとみらいの美しい夜景、港に停まっている船、横浜ベイブリッジなど、たくさんのロマンチックな夜景を楽しむことができる。

 眼前が一面海だというのも、一番のロマンチック要素。


「綺麗だね」


 私たちは、海と陸を隔てる柵の手すりの前に立ち目の前に広がる綺麗な夜景を眺めていた。


「咲さん」

「んー?」

「今日、凄く楽しかったです」

「私も楽しかったよ」


 私は、眼前に広がる海を見ていた。暗闇に聞こえる海の音、寄せては返す波。どこかに攫われてしまいそうなくらい怖いのだけど、見飽きることがない。


「咲さん」


 幸知の声が今までで一番緊張していた。ゆっくりと幸知の顔を垣間見る。目に映る彼は、とても真剣な表情だった。


「咲さん」


 私が返事できずにいるともう一度、呼ばれた。


「はい」


 私は、幸知に向き合う。


「彼女になってくれませんか?」


 私を乞う切実な声だった。私は驚き、一瞬で体中に熱が回る。胸はドキドキしていたし、彼の瞳の中にいるのが私なんだと思うと歓喜した。


 だけど私は、一呼吸置くと言葉を発した。


「ねえ、幸知君。それって恋なのかな? 年上のお姉さんが珍しくて、ただ居心地が良くて懐いてるだけなんじゃないの?」


 幸知の顔が一瞬で曇る。


「――――そんなこと!」

「最後まで聞いて!」


 私は、幸知の言葉を遮る。


「幸知君さ、これからでしょ。夢にも挑戦したくて、でも今まで積み重ねてきた経歴も捨てられなくて。両方手にしたいと思ってる。そんな時に、十も離れた年上の女と付き合ってる場合?」


 幸知は、辛そうに押し黙ってしまう。


「私さ、考え方が平凡なの。次に付き合う人と結婚したいと思ってるし、子供も欲しいなって思ってるの。それさ、幸知君受け止められる?」


 私は、凄く酷いことを言っている自覚があった。でも、これは私の本音だ。これを隠して今彼と付き合っても、きっとどこかで破綻する。私が彼の重荷になるのが目に見えている。

 絶対にそんな風になりたくなかった。これがわかっていたから、私は連絡がとれなかった。幸知が好きだから私じゃ駄目なのだ。

 好きな人の重荷になるなんて、そんなの寂しいし、辛いし、切ない。


 幸知は、私から視線を外さないけれど言葉が出ない。


「ごめんね……。でもね、これが十歳差のズレなの。幸知君が悪い訳じゃないんだよ。幸知君の気持ち、私凄く嬉しいよ。でもね、重荷になりたくないしきっと今じゃないの」


 私は、段々と胸にこみ上げてくるものがあった。目元が、じわじわと熱を感じる。だけど、私が泣くわけにはいかない。


「咲さん……。俺……」


 幸知は、何を言って良いのか判断がつかないようだった。情けない自分が許せないのか奥歯を噛み締めている。


「幸知君、きっと君なら大丈夫。後悔しないように全力でぶつかって社会に出ていける。どんな形であったとしても、私はずっと応援してるから。私の初めての推しだから」


 私は一歩、後ろに下がる。


「咲さん!」

「駄目だよ。ここでお別れだから。じゃーね」


 私は、そう言って幸知を振り切って走り出す。後ろから「咲さん!」と私を呼ぶ声が聞こえたけれど、もう振り向かずにそのまま走った。頬が濡れているのがわかっているから立ち止まれない。


 私が走り去るその先には、今の状況に似つかわしくないキラキラ輝く夜景が広がっていた。海の先にみえるのは、遊園地の観覧車。

 それだけ見ていれば幸せの象徴なのに……。今の私には、涙で滲んでぼやけているから見ることができない。

 今はただ、幸知との別れが寂しい。だけど、この真っ青な寂しいさが時間とともに薄れていくことを知ってる。だから私は大丈夫。


 でももう、ここには来られないかもしれないと思いながら歯を食いしばってひたすら走った。


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