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二十歳君と男運に恵まれない彼女  作者: 完菜


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二十五話 鈴木さんと飲み

 鈴木さんが資料を確認すると、いくつかの指摘があった。私も、自分が作った資料を改めて確認すると気になる箇所を見つけた。鈴木さんから指摘された部分と一緒に修正する。

 一度、紙に印刷してみて再度確認してもらった。


「うん。大丈夫そうだ。助かった、ありがとう」


 鈴木さんが、私を見て笑顔で言う。


「お役に立てて良かった。じゃあ、約束通りいいですか?」

「いいけどさ。何が食べたいのよ? フランス料理フルコースとかはちょっと……」

「そんな小洒落たところなんて言いませんよ。安い居酒屋でいいので、飲みに連れて行って下さい」


 私は、遠慮なく自分の希望を言う。この一週間、と言うか多分もうずっと誰かに話を聞いて欲しくて溜らなった。鈴木さんくらいの距離間の人がいい。

 だって私は、アドバイスが欲しい訳でも背中を押して欲しい訳でもない。ただ、話を聞いて欲しいだけ。

 鈴木さんって、長い付き合いだけれど余計なことは言わないし、しつこくしてくることもないから同僚として好き。今まで、恋愛の話なんてしたことないけれど逆にどんな反応をするのか興味があった。


「え? 安い居酒屋ー? 何よ? 面倒な話は嫌だよ?」


 鈴木さんが、何やら身構える。


「ただちょっと、愚痴を聞いて欲しいんです。困った時はお互い様って言ったじゃないですか」


 私は、わざとらしい笑顔を鈴木さんに向けた。


「いや、それ……藤堂が一方的に言っただけなんじゃ……」

「もう、鈴木さん。連れてってくれるんですか? くれないんですか?」

「わかったよ。連れて行くって。じゃー、いつも行っているやっすいところでいいんだな?」

「はい! 望むところです!」


 私は、何だか楽しくなってしまう。まだ酔ってないはずなんだけど、もんもんとした気持ちを話せる人を見つけたからか嬉しくなっていた。


 *******


 鈴木さんが連れて来てくれたお店は、住宅街にひっそりとある赤ちょうちんが灯る居酒屋だった。


「へー、こっちの方は初めて来ました」

「昔ながらの居酒屋で、安くて美味しいんだよ。同期のやつらとよく来るんだ」


 そう言って鈴木さんは暖簾を潜って、引き戸を開けた。


「こんばんわー」

「おっ、鈴木さんじゃん。土曜日に来るなんて珍しい」

「ちょっと、仕事でミスっちゃって」

「そっかそっか。席、空いてっから好きなところに座って」


 鈴木さんは、店主のおやじさんらしき人としゃべっている。私は、鈴木さんの後からお店に入った。


「なんだ、鈴木さん一人じゃないのか! 女の子なんて初めてじゃないか」


 おやじさんは、私を見て勘違いしたのか鈴木さんを茶化している。


「いや、残念ながら会社の部下だから。今日、助けてもらったからこれからたかられるんです……」

「あっはっはっはっは。なんだ嬢ちゃん、こんなやっすい店じゃなくてもいいだろうに。沢山食べて、飲んできな」


 おやじさんが、鈴木さんの言葉に豪快に笑っている。


「ありがとうございます。お言葉に甘えて、たくさん飲んで食べちゃいますね」


 私は、にっこり笑って返事をした。そして、鈴木さんは店内を見渡すとカウンター席の一番端っこを指し示す。


「あそこでいい?」

「はい。注文しやすいし、いいと思います」

「好きなだけ頼んでいいよ。もう……」


 鈴木さんは、諦めたようにつぶやいた。


 席につくと、すぐにお通しとビールが運ばれて来た。普段、ビールなんてあまり飲まないのだけれどお店の雰囲気に合わせるならビールだなとちょっと調子に乗ってみた。


「では、乾杯」

「お疲れ様でした、乾杯」


 私と鈴木さんは、グラスをカチンと合わせて乾杯する。グイっと一杯ビールを口に含む。冷たくて苦みのある飲み物は、スーッと喉を通り抜けていく。


「美味しい。ビールが美味しいって、私大人になっちゃったな」


 ビールのグラスを見て、私はそう零す。


「何だよ、今更だろ?」

「私、今までビールってあまり飲まなかったんですよね。久しぶりに飲んだら何か美味しいです」

「はあー? んな、俺に合わせなくていいっつーの。好きな物飲めよ」

「今日は、何となく飲んで見たかったんです。お店の雰囲気に負けたのかな」


 私は、もう一度ビールをコクリと飲む。やっぱり美味しい。そして、割りばしを割くとお通しに手を付けた。


「何これ? 美味しい」


 お通しなので期待なんてしていなかったのだけど、思いのほか美味しかった。今日出されたお通しは、オクラのおろし和え。茹でたオクラに、大根おろしと鰹節がまぶしてあって醬油ベースのたれがかかっている。


「だろー。この店、本当に何食べても美味しいから」


 鈴木さんが、自分が作った訳でもないのに自慢してくる。


「じゃー、さっそく頼みましょう」


 私は、目に付いたメニューを頼んだ。流石に食べきれないと困るので、三品に留めておく。まだまだ食べるつもりだけど、とりあえずの三品だ。


「で、何だよ? 愚痴って」


 鈴木さんが、お通しのオクラをつつきながら訊ねてくる。


「前に、私が男の子と一緒にいたところを鈴木さんに見られたの覚えてます?」

「あー、何か拾ったとか言ってたやつ?」

「そうです。それそれ」

「でもさ、元気がなかったのはその子と関係なかったんじゃないの?」

「鈴木さん、結構覚えてますね……」


 鈴木さんが、私にあった出来事を覚えていてびっくりする。


「いや、そう言うけど。藤堂って結構、わかりやすいよ?」

「えっ? そうなんですか? 鈴木さん怖い」

「いや、何でそうなるんだよ……。まあいいや、で、その子がどうしたんだよ」

「それがですね、彼二十歳らしいんですけど……」

「二十歳? マジで言ってんの?」


 鈴木さんが飲んでいたビールを、ちょっとふいてしまいハンカチで拭っている。


「やっぱりびっくりしますよね? で、ですね。なぜか、懐かれたみたいなんですよ私」

「ほーん」

「突然キスされたり、大学の文化祭に呼ばれたり、大切な人だって紹介されたり」

「なるほど」

「挙句の果てには、その子が好きだって言うアイドルみたいに可愛い女の子に釣り合ってないって言われました」

「そうなんだ」


 鈴木さんの返答が適当過ぎて、ちょっとイラっとしてしまう。


「鈴木さん、ちゃんと聞いてます?」

「聞いてるよ。聞いてる。藤堂は、俺の意見が聞きたいの?」

「・・・・・・・・・」


 鈴木さんのもっともな発言に、何も言えない。きっと私は、全部わかっている。


「すみません。私、鈴木さんに八つ当たりですね……」

「いいよ。今日は、そういう会なんだろ?」


 鈴木さんが、そう言って笑う。


「はぁー。何でなんでしょー。私って、こんなのばっかり」

「藤堂は、その二十歳君が好きなの?」


 私は、鈴木さんの問いに無言になる。鈴木さんが、私の言葉を待ってくれる。だから、私は間をこれでもかと置いた後呟いた。


「たぶん……」

「なるほど。格好良かったもんな。年下でイケメンに懐かれちゃったらなー、仕方ない」

「そう思います?」

「逆を考えてみた。間違いなく俺は、ワンチャンあると思うな」


 鈴木さんの回答を、ちょっと想像してしまった。確かに、営業成績常に上位の鈴木さんだ。チャンスは逃さないだろうと思う。


「てかさ、そもそも付き合ってないんだよね?」

「付き合ってません……。好きって言われてないし」

「じゃー、何にそんなに悩んでんの?」

「だって、こんなの初めてなんですもん。格好いい男の子に懐かれるって、私だって悪い気はしないですよ! でもさー、でも……」

「藤堂は真面目だな。そんなに真面目なのに、恋愛は下手だな」


 私は、鈴木さんのその言葉に驚愕する。きっと凄い顔をしていたんだと思う。


「おまえ、何つー顔してんの?」

「だって、鈴木さんが見てきたみたいに言うんですもん」

「いやー俺、伊達に八年も藤堂の隣の席じゃねーよ? それにわかりやすいってさっき言ったばっかじゃん」

「だって、今までそんなこと言ったことないじゃないですか」

「まあ、プライベートなことまでなー会社で突っ込むのもな。こう言う機会、そうなかったしな」


 確かに、鈴木さんの会社での距離感は絶妙だった。たまに、揶揄われることはあったけれど不快になる手前ですぐに手を引く。

 だから、ずっと隣の席にいても嫌なことは全くなかった。


「そもそもさ、俺みたいに格好いい男が隣で担当なのに意識したこと全くないよな?」

「はい? それ自分で言います?」

「いや、俺初めてよ。こんなに近くで接してて意識されなかったの」

「そ、そうなんですか? だって仕事ですし……。鈴木さんって常に彼女がいる印象ですし……。私が彼女になるっていう想像ができないっていうか……。それに意識なんてしたら、仕事やりづらいですし……」

「いや、もう……本当に変に真面目だな。俺、横で見てていつも面白いなーって思ってたよ」


 私は、鈴木さんの突然の告白に目を剥く。


「えぇぇぇぇぇぇー。面白いって何がですか?」

「たまに、付き合ってる彼氏の話とかするといっつも変な男ばっかりだし。ダメンズほいほいってこういう子なんだなって」

「わ、私がいけないんですか?」


 私は、自分に自信がなくなってくる。


「なんだろーね。多分さ、藤堂って器が広いのよ。寄りかかりやすいって言うか。だから変な男が寄ってくるんだろうね。で、その二十歳君にも寄りかかられてるの?」

「・・・・・・・・・」


 二度目の沈黙。鈴木さんの言葉が痛い。


「でも、どうせどうにもなりませんもん。十歳も下の子、好きでも付き合えない。それは決まってるから」

「なるほどねー。それが一番の本音か」

「だって、仕方ないじゃないですか。今が一番大切な時なのに、こんなおばさんに関わってる場合じゃない。隣にアイドル見たいに可愛い子までいるのに……」

「なんだよ、十歳も下の子にマウント取られて泣いてんの?」

「鈴木さんだって、気になってる子が年上だったとして同じ年のめっちゃ可愛い子に言い寄られたらそっち行きますよね?」

「まーな」

「鈴木さん、即答! 酷い」

「だって、アイドル級なんだろ?」


 私は、鈴木さんをじろりと睨む。


「その二十歳君は、わからないだろ。本人に聞いてみなよ」

「いいんです。どうにもならないから!」

「全く、頑固だねー。真面目もここまで行くと短所だな」

「はぁーでも。ちょっとすっきりです。やっぱり、鈴木さんに話して良かった」


 私がそう言ったら、鈴木さんはちょっと呆れた顔でビールを飲んでいた。


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