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二十歳君と男運に恵まれない彼女  作者: 完菜


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十九話 突然の連絡

 ある日の夜、歯も磨いてもう寝ようとベッドに横になったところでスマホの着信音が鳴った。ベッド横のサイドテーブルの上で充電していたスマホを手に取って、メッセージを確認する。


『お久しぶりです。元気ですか? 明日の夜、空いてたらご飯行きたいです。幸知』


 バーベキューから、一カ月半振りの幸知からの連絡だった。彼からの連絡は、いつも突然だなとちょっと呆れる。

 でも、幸知の顔を思い浮かべるとなぜだか許してしまうから私も大概だ。


 なんと返信するか少し考えた。明日は、特に忙しい時期でもないから上がろうと思えば定時で上がれる。

 どうしようかな……。また何か、聞いてもらいたいことでもできたのだろうか……。応援するって言った手前、断るのも気が引ける。


『空いてるよ。何かあった? 咲』


 メッセージに返信するとすぐにスマホが鳴った。


『良かった。何時に仕事終わりますか? 幸知』


 私は、ベッドに横になりながらスマホを操作する。


『18時には終われると思う。咲』

『そしたら、18時過ぎに関内の駅の入り口で待ってます。幸知』

『わかった。明日ね。咲』


 おやすみなさいと書かれた、ギターを持ったクマのスタンプが送られてくる。何でクマなんだろう? ってちょっと笑いながらスマホを閉じた。


 ***************


 翌日、天気が心配だったけれど何とか晴れてくれた。最近は、雨が多く日照時間がとても少ない。久しぶりの青空が、雲の合間に覗いていて気分も晴れやかだった。

 いつもは、飾り気のないスーツで出社しているのだが今日はちょっとだけ服装も気にしてみた。会社帰りに会っていた時は、いつも突然だったから今更な気もするのだけど……。

 格好いい男の子と会うとわかっているのだ、そこは乙女心ってものだ。


 ネイビーの長袖のブラウスに、ベージュのロングスカートを合わせる。ブラウスは、デコルテが広めに空いていて首元をスッキリとみせてくれる。

 スカートは、サイドでリボン結びにするタイプで可愛らしさがありつつ大人な女性を意識した。


 姿見の前で、自分の服装をチェックしていてふと我に返る。浮かれてんの私? 思えば、会社帰りに異性と待ち合わせするのが久しぶりなのだ。

 ちょっとテンションがおかしくなっている。落ち着こう私……。


 気を取り直してベージュのパンプスを履いて玄関を出た。いつもと同じように、弘明寺駅に向かって歩く。幸知と出会ったのは、夏真っ盛りの時だった。

 今はもう、年末に向かって動く季節で朝と夜はだいぶ肌寒い。天気さえ良ければ、私は今の季節が一番好きだ。暑くもなく、寒くもなく過ごしやすい。ただ、雨が多いのが難点なのだけど……。


 朝の満員電車に揺られて、関内駅に到着する。関内駅は、企業がたくさんあるので降りる人が多く電車から次から次に人が吐き出されていく。

 私は、電車とホームの隙間に気を付けて降り改札へと向かった。改札を抜けたところで、声を掛けられる。


「あれー藤堂さんじゃーん。おはよー。今日デートなの?」


 朝一番に、鈴木さんに見つかり最初の会話がこれだ……。


「鈴木さん、それセクハラですから」


 私は、ちょっとムッとして鈴木さんの顔を見る。


「やだなー藤堂さん。今日、可愛いじゃんって遠回しに言っただけじゃーん」


 鈴木さんは、いつもの軽いノリで弁解してくる。可愛いって言えば許すと思うところが甘い。私はキッと更に睨みつける。


「はい。すみません。調子に乗りました。でも、本当に可愛いよ」


 鈴木さんが、素直に謝って普通のテンションで私を褒めてくる。流石、営業だと言わざるを得ない。

 いつも失礼なこと言ってくるし、すぐ揶揄ってくるけど必ずフォローはしてくるから憎めない。


「わかりました。許すので、揶揄うの辞めて下さい」


 その後は、鈴木さんはもう何も言わずに一緒に会社まで歩いた。


 そして始業を迎え、いつもと同じようにパソコン画面に向かって仕事を始める。今日は、とても平和で仕事を中断させるような電話も指示も回ってこない。

 いつもこんなだったらいいのになーと思いながら、淡々と仕事を進めた。隣の鈴木さんは、午前中こそデスクワークをしていたが午後は営業で外に出て行った。


 パソコン画面、右下の端にあるデジタル時計が18:00と表示する。私は、パソコンの電源を切り席を立った。


「お先に失礼します」


「「お疲れ様ー」」


 近くに座る同僚たちから、声が上がった。私は、定時きっかりに上がるのも久しぶりだなとどうでもいいことに感動していた。

 そう思ってすぐに、私こんなんじゃ駄目だなと反省する。仕事のせいにばかりしないで、ちょっと他に楽しいことみつけよう。それがいいと心に誓う。


 会社の入り口を出て、私はスマホを取り出して幸知にメッセージを送る。


『今終わったから、駅に向かいます。咲』


 すぐに返事が届く。


『了解です。もういるので待ってます。幸知』


 自分の腕時計を見ると、18時6分。時間きっかりに終われて良かった。私は、ちょっとドキドキしながら駅に急いだ。

 いつも使っている、関内駅の入り口が見えると幸知がこちらを向いて立っているのがわかった。改めて、客観的に見てもやっぱり格好いいと思う。

 今日の幸知の格好は、明るめのベージュのジャケットにインナーは白。紺のパンツに紺色のスニーカーを履いている。

 丁度、会社帰りの人でごった返している駅前だけど背が高くて好青年な幸知は目立つ。


 七菜香や蘭が、イケメンイケメン煩いのも頷ける。幸知に向かって歩きながら、私の今日の待ち合わせ相手なんだよなと不思議な気持ちになった。

 幸知が、私をみとめると笑顔で手を振ってくれた。完璧なシチュレーション過ぎて、変にドキドキしてくる。これはまずい……。平常心と心の中で唱える。


「ごめんね、結構待った?」


 私は、幸知の前まで来ると開口一番謝罪した。


「全然です。もっと待つと思ったし。こちらこそ、突然すみませんでした。でも、咲さんの予定空いてて良かったー」


 幸知が、心底ホッとしたように笑顔を私に向ける。久しぶりに見る、幸知の笑顔に私は目をしばたたかせる。


「じゃー、さっそっく行きましょう」


 幸知が、私の手を握ったかと思うと駅の入り口に入って行く。


(え? 何で手? 繋いでるんだけど?)


 私は、軽くパニックに陥り年甲斐もなくワタワタしてしまった。



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