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二十歳君と男運に恵まれない彼女  作者: 完菜


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十六話 女子トーク

「なんか倉田さんってさ、いっつも良いカメラ持ってきてて、一杯写真ってくれるじゃん? 昨日も、たくさん撮ってくれてたじゃん。写真の撮り方とかレンズの違いとかを説明してた。私も聞いてたはずなんだけどー、ちっとも頭に入ってこなくて。男の子ってさ、ああいうの好きだよね」


 七菜香は、理屈とか数学的なものが苦手だ。きっと聞いてて、理解するのが面倒臭くなったんだろう。


「そうなんだ。まー、楽しそうにしゃべってたなら良かったよ」


 私も、カメラには詳しくないし説明されてもきっと理解できないからさらっと流す。


「ってか、そんなことはどうでもいいんだった。幸知君、めっちゃイケメンじゃん。しかもいい子だし、咲にかなり懐いてたし。幸知君いいと思います!」


 七菜香が、元気よくそう宣言する。


「イケメンのくだりは、もうさっき蘭とも話したわ。それとみんなさ、幸知君いいじゃんって言うけどさそれ本気で言ってんの? 十歳上なんだよ? 現実的なこと言ったらありえないでしょ!」


 私は、昨日からずっと言われ続けて若干イラっとしている。他人事だから、絶対に面白がっているだけだ。私が調子に乗って本気になったらどうしてくれるんだ!


 私が怒ったのを見た向かいの二人は、黙り込んでしまう。


「でもさー、幸知君の接し方見ると咲のこと好いてると思うんだけど……」


 七菜香は、恐る恐る口にする。言った後も、私の顔色を窺っている。


「もしそうだとしても、私が受け入れる訳にいかないでしょ。時期的にも将来を決める大切な時期なんだし。おばさんと現を抜かしている暇、あるはずないでしょ!」


 私は段々と自分の考えがはっきりしてくる。人に言われて答えていると、わかることが見えてくる。さっきは、家で一人悶々としていたけれど……。そうなのだ、私は幸知の気持ちを受け入れる訳にはいかないのだ。

 もし、そうなのだとしたらと言う大前提があるけれど……。


「そう言われたらそうだけどさ……。ちょっと勿体ないなって思っちゃうのもわかるでしょ……」


 蘭が、七菜香の横でボソッと控えめに呟く。


「幸知君のことは、もういいよ。それより今日は、七菜香のことでしょーよ。一体全体どう言うことなのよ?」


 私は、七菜香に話を振った。


「実はさ……」


 七菜香は、改めて話をするのが恥ずかしいのか少し気まずげに話し出した。


「最初に会った時からさ、ちょいちょいアプローチされてはいたんだよね……」

「「はあー?」」


 私と蘭は、びっくりして大きな声を上げてしまう。


「ちょっと、声が大きいから」


 七菜香が、シーと人差し指を立てている。私は、何だか馬鹿らしくなった。なんだよ、最初からって……。七菜香も言えばいいのに……。


「何それ? だったら最初から言いなよ」


 蘭が、ぶすっとした声で言う。


「いや、最初は本当に興味が無かったって言うか……。すぐに別に彼氏できちゃったし……。彼氏ができた途端、湊さんの方もパタリと何も言って来なくなったからさ……。言い逃したというか……」


 いつも明るくて言いよどむことなんてない七菜香が、もじもじしていて違和感が凄い。


「何でそんなに、もごもご言ってんのよ?」


 私は、たまらずにツッコんでしまう。


「いや、何か二人とも怒ってるから?」


 七菜香が、物凄く気まずそうな顔で呟く。蘭がすぐさま返答する。


「いや、別に怒ってはないけど……。そっかー、で、最近七菜香が別れたからまたアピールされたってこと?」


「そうなんです……。何かさ、待っててくれたっていうか……。彼氏できたらちゃんと引いてくれたところとか、別れたらまた好意を示してくれたりとか、一途なんだなって思っちゃって……」


 七菜香は、水の入ったグラスをじっと見つめながらそう話した。グラスについた水滴が気になるのか、紙ナフキンで拭いて綺麗にしている。

 私も、何となく水のグラスに視線をうつした。


 私に対する湊さんの優しさは、みんなに与える平等なものだった。そうなんだろうなって分かっていたけど……。薄っすら期待するところがあったのも事実。

 また、ただのチョロインか……。私って学習しないにも程があるんじゃ……。いや、だからこそ今回は湊さんに対する気持ちをぼやかしていた……。だけど結局、少なからずショックを受けているなら同じな気もする……。もう、何かよくわからない。


「湊さんって、思っていたよりも一途な人なんだね。何で、彼女いなかったんだろ?」


 蘭が、七菜香の顔を見て疑問を口にした。


「あー、何かねみんなでわいわい遊ぶのが好きなんだって。別に特定の彼女とか面倒くさいって一面もあるらしい。だけど私だと、それも一緒に楽しめそうだし一緒にいて相性がいいなって凄く感じたんだって」


「へー、確かにいつも二人でじゃれてるもんね」


 蘭が、冷静に言い放つ。


「じゃれてる? うちらってみんなからそう見えるの? ちょっと恥ずかしいんだけど……。何か私さー、同じ年くらいの人ばっかりと付き合ってたし、湊さんみたいに年上で落ち着きのある人って初めてなのよ」


 七菜香の顔は、もうしっかり恋する女の顔になっている。好きな人を想う顔。そんな顔を見たら、もう自然と口から言葉が零れていた。


「良かったじゃん七菜香。おめでとう。湊さんと七菜香、いいと思う」


 私は、思ったよりも冷静で落ち着いていた。言った言葉も嘘じゃなくて本心だった。


「そうかな? 何か私も、今回はなんか今までと違う感じがしてて……」


 七菜香が、嬉しそうにはにかんでいる。


「そうだね。一緒に馬鹿やりつつも湊さんは、ちゃんと弁えて七菜香を止めてくれそうだもんね。良かったじゃん、七菜香!」


 蘭も、笑顔で七菜香を祝福している。


「なんか今、ちょっと酷いこと言われた気がするけど……。まーいいか?」

「うんうん。蘭のいつもの毒舌入りの祝福だから気にしない」


 私は、笑って七菜香に相槌を打つ。今までの七菜香と違って、恥ずかしそうに喜んでいる彼女を見ていたらなんか邪気が抜けていく。

 今までの七菜香は、彼氏ができてもあっけらかんとしていた。暇な時間を一緒にいてもらうだけの相手という印象。

 きちんと好きという感情はあるのだろうけど、ファッション感覚に近いものがあった。だけど湊さんの場合は、とても大切に思っている気がする。

 こんな風に、恋する乙女な七菜香を見たのは初めてで湊さんから好かれていることが凄く嬉しいのだと伝わってくる。


(もう、しょうがないじゃーん。祝福するしかないじゃーん)


 今日の私は、ランチでお腹が一杯になろうとも絶対にビッグパフェを食べて帰ってやると心に誓った。


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