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二十歳君と男運に恵まれない彼女  作者: 完菜


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十四話 帰りの車で

 トイレを出た私は、幸知たちが待っている場所に戻った。すると、七菜香と湊さんもすでに戻っていて速攻謝られた。


「咲ごめーん。探しに行ってくれたんでしょ?」


 七菜香は、手を顔の前で合わせてごめんのポーズをとっている。


「んーん。私の方こそ、行き違いになっちゃったみたいでみんなを待たせてごめんねー。会計の計算できた?」


 テーブルにみんなで集まって蘭がお金を数えていたので、もう集金が始まっているのだとわかる。


「今、蘭ちゃんが計算してくれて一人ずつ集めてるところ。本当にごめんな。七菜香ちゃんが、遊び場の方がどうなっているか見てみたいって言うから、ちょっと寄り道してた」


 湊さんが、私に向かって申し訳なさそうな顔で言う。湊さんのこの謝罪は本心からなのか、ただ誤魔化そうと適当な嘘をついているのか判別できない。

 でも、一つ言えることは遊び場になんて行っていない。嘘をついたと言うこと。私は、何だか心の中の温度がどんどん下がっていくようだった。


「いえ、私もトイレに行っちゃたりしたので」


 私は、取り繕った笑顔を浮かべてその場を流す。上手く笑えていればいい。私は、蘭のところに行って金額を聞いた。お財布を確かめて、言われた金額を欄に払う。


「蘭、ちょうどあった。計算してくれてありがとう」

「こういうのは、得意だから任せて」


 蘭は、明るくそう言って私の顔を見る。もしかしたら何か気づいたのか、蘭の顔が曇ったような気がした。でも、蘭は何も言ってはこなかった。


「幸知君も、一人にしちゃってごめんね。お金大丈夫だった?」


 私は、幸知のところまで行って彼の顔を伺った。


「そんな、子供じゃないんだから大丈夫ですよ。ちゃんと今日はお金もありますって」


 幸知は、当たり前だと言わんばかりに主張する。


「そっか。なら良かった」


 私は、愛想笑いを浮かべる。幸知としゃべりながらも、さっきのキスシーンが頭の中に居座って離れてくれない。顔を俯けて、小さな溜息を吐いた。


「じゃー、会計も終わったし解散にしますか?」


 佐々木さんが、みんなに聞こえるように大きな声でそう言った。


「意義なーし」


 七菜香が、元気に手を挙げて同意する。みんなも、うんうんと頷いている。私も、できるだけ早くここから離れて家に帰りたかった。


「では、行きますか」


 倉田さんが、大きなクーラーボックスを背負って駐車場方面に歩き出す。それにつられるように、みんなが歩き出した。


「帰りも、私が送って行くので大丈夫だよね?」


 私は、一応幸知に確認する。もしかしたら、この後にどこかに行く予定でも入れているかもしれないと思ったのだ。


「はい。申し訳ないですが、大丈夫ですか? また、弘明寺駅までで大丈夫なんで」

「もちろんだよ。最初からそのつもりだったし」


 確認だけ終えると、二人は黙ってみんなの後に続いて並んで歩いた。


 駐車場に着くと、それぞれ乗ってきた車に自分の荷物を詰め込んでいる。湊さんの車に、七菜香と蘭。佐々木さんの車に倉田さん。そして、私の車に幸知と今日は三台の車でバラバラに来たようだ。


「じゃー、ここで解散だけど大丈夫かな?」


 倉田さんが最後の確認をしてくれる。


「大丈夫でーす。今日は、誘ってくれてありがとうございました。すっごく楽しかったです」

「お疲れ様でした。佐々木さん、倉田さん今日は、ありがとうございました」


 七菜香が笑顔でお礼を言い、蘭が丁寧に頭を下げた。私も、続けて声を上げる。


「佐々木さん、倉田さん、それと湊さん、今日も楽しかったです。また何かあれば、誘って下さいね」

「今日は、突然混ぜていただいてありがとうございました。楽しかったです」


 私の後に、幸知もちゃんとみんなに挨拶をした。ちゃんと挨拶できて偉いぞと心の中でつぶやいた私は、完全に保護者だ。


「俺たちも楽しかったよ。じゃー、またね」


 佐々木さんが、運転席に乗ると倉田さんも「またね」と言って助手席に乗り込んだ。すぐに佐々木さんの車が発進して、私たちは手を振ってそれを見送る。


「じゃー、咲も気を付けてねー」


 佐々木さんの車を見送った七菜香は、私たちの方を見るとそう声を上げた。


「うん。また連絡するね。ばいばい」


 私と幸知が車に乗り込み、シートベルトを装着した。幸知の顔を見て「じゃー出発するよ」と一声かけてから、ギアをドライブに入れてサイドブレーキを下ろしアクセルを踏み込んだ。

 窓の外を見ると、七菜香や蘭が手を振ってくれている。私は、笑顔だけ向けて車を発車させた。湊さんの顔は、もう最後は見ることができなかった。


 スマホのカーナビに従って車を走らせる。到着予定時刻は、約1時間13分。私は、しばらく何もしゃべらずに運転に集中していた。

 ふと、あまりにも大人しい隣の幸知をちらっと伺う。幸知は、疲れたのかボケーとフロントガラスの先の景色に目をやっていた。


「疲れた?」


 私は、心配になって声をかけた。


「ちょっとだけ。知らない人ばっかりだったので」

「そうだよね。まだかかるから、寝ててもいいよ?」

「いえ、それは流石に失礼なんで大丈夫です」

「えっ? 別に大丈夫だよ? 気にしないよ」


 私は、赤信号で止まったので幸知の顔を見てそう言った。


「咲さんが気にしなくても、俺が気にするんで。それに、今日はあまり咲さんと話できなかったし……」


 幸知は、助手席側の窓の方に視線をうつしてそう言った。なんだか、ちょっと拗ねているみたいだ。こういうところは、まだまだ子供っぽくて可愛い。


「ごめんね。ああいうところは、七菜香に任せた方がスムーズだからさ。私よりも、話も面白いでしょ?」


 信号が赤から青に変わり、アクセルを踏み込む。


「それ、マジで言ってるんですか? 確かに、七菜香さんコミュ力最強ですけど、俺は咲さんとの会話が好きですよ!」


 幸知が、むきになったように声を荒げる。


「そっそう? 嬉しいけど、そんなムキにならなくても」

「咲さんって、なんか自己肯定感低いですよね? もっと自分に自信もって下さい!」


 幸知に痛いところを突かれる。七菜香や蘭に対して、自分ではそこまで卑屈になっているつもりはないのだが……。でも、心のどこかで私なんかと思っているのも少なからずある。 

 それを、幸知に言い当てられるとは……。不甲斐ない年上だよと悲しくなってくる。


「だねー。幸知君の言う通りだね。幸知君は、自己肯定感強いもんね。見習わないとだよね」


 ふふふと私は笑う。最初に会った時、理由のない自信に満ち溢れていたのを思い出す。


「なんでそこ、否定しないんですか……。否定するところですよ……」


 幸知が、呆れたような声を出す。


「だって本当のことだし。この年になるとさ、受け入れた方が楽なことの方が多くなるのよ」

「とにかく、咲さんは俺の恩人だし、咲さんが醸してるふんわりした優しい空気感とか、時にめちゃくちゃ厳しいところとか、俺好きですからね」


 幸知が、私の顔を見ながら熱く語ってくる。幸知なりに慰めてくれているのだろう、やっぱり優しい子だな。


「わかったよ。ありがとう。素直に嬉しいよ」

「わかってないですよね?」


 幸知がちょっとお怒り気味だ。なんでだろう? 考えてもわからない。そのまま車の中は無言となった。

 車を運転しながら、幸知からの問いについて考えていたけれど思考は反れて七菜香の顔が浮かんできた。いつから、七菜香は湊さんのことを好きになったのだろう? でも今まで彼女が付き合ってきた彼氏たちとは、タイプが違う。

 だから私は、仲良さそうにじゃれあっているのを見てもなんとも思わなかった。こんなバカみたいな失恋をしたことに苦笑する。

 恋だと私自身が認識していなかったのが悪い。誰かを責めるわけにはいかないし、自分で整理するしかない気持ち。


 大きな溜息を吐きそうになって、すんでで止める。隣にいる幸知に、これ以上心配される訳にいかない。車は、弘明寺駅まであと5分のところまで来ていた。


「あと五分くらいだから、また止められそうなところに止めていい?」

「はい。ここら辺のコンビニでもいいですよ」


 幸知は、もう通常通りに戻っている。まだ、機嫌が悪かったらどうしようかと思ったけれど、そこまで大人げなくなかった。走っている道にコンビニの看板が見えた。


「じゃー、あそこのコンビニに停めさせてもらうね」


 車を、コンビニの駐車場に停める。時刻は17時半だった。午前中から、夕方まで一日のイベントになってしまった。


「はい。到着。お疲れ様でした」

「今日は、本当にありがとうございました」


 幸知は、シートベルトを外しながら頭を下げた。


「どういたしまして。いい気分転換になったら良かったんだけど」


 私は、幸知の顔を伺う。


「もちろん、楽しかったですし、色々なお話聞けたので勉強になりました」

「そうなんだ。なら良かった。気を付けて帰ってね」


 幸知が楽しんでくれたのなら良かったと心の底から思って、自然と笑顔がこぼれた。その瞬間、幸知に腕を掴まれて彼の顔が私に迫ってきた。

 え? っと思った時にはキスをされていた。私は、何が起こったのかと目をパチクリする。


「え? 何?」


 とっさに出たのは、驚きの言葉。


「だって咲さん、全然わかってないし。湊さんとばっかり楽しそうに話してて、全然俺のこと構ってくれないし。かと思ったら、途中から元気なくなっちゃうし……。また連絡します」


 幸知は、言うだけ言って車を降りると振り返りもせずに駅に向かって歩いていった。


「え? ええええええええええー」


 私は、自分の口に手を添えて大絶叫した。



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