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世界最強の戦士と呼ばれていますが、欲しいのはそんな称号ではなくて。  作者: いとう縁凛
第一章 都、巻きこまれて異世界転移する
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1.7


 翌日。換金所へ行くと金貨三枚を受け取れた。手持ちにもいくらか残しておきたかったため、ひとまず二週間分の宿泊料金を支払う。

 一ヶ月しかいないとはいえ、一ヶ月はこの世界で生活しないといけない。もっと稼がなければと酒場を通過してギルドへ向かおうとした。すると朝から飲んでいた面々が、ザッと両脇に動く。屈強な筋肉を持つ人、痩せ形だが武器や防具が立派な人、背丈よりも大きな武器や防具を持つ人など。戦闘能力の高そうな面々が、都を値踏みするように睨んできていた。

 不思議に思いつつ掲示板を見ていたら、周囲に人の気配を感じた。掲示板を独占してはいけないと思って左にずれると、周囲の気配も同じように動いた。偶然ずれるタイミングが重なってしまったのかと思い、今度は右へ動く。しかしまた、周囲の気配も同じように動く。三度目も同じ動きになり、訝しんだ都が振り返った。

「あの」

 背後の光景を目の当たりにした瞬間、思わず言葉を失う。都の後ろに、二列で十人ずつ男性が並んでいた。見るからに筋肉がなさそうな細い人、都よりも背が低い人、若そうな人などなど。まるで慕うようなキラキラとした目で見られていたが、突然の出来事に戸惑う。

 もしかしたら都に用事があるわけではないかもしれないと酒場へ行くと、二十人もザッと動く。なんで付きまとわれているのかわからない都が困っていると、咳払いが聞こえた。

「バルドゥルさん!」

「アネサキさんのことは、送迎官のおれが見守らないといけないかと思いまして」

 バルドゥルの登場により、二十人中半分くらいが一目散に逃げていった。

「わー、助かります。それって、昨日言っていた護衛っていうことですよね?」

「そうですね。本当に見守るだけですけど」

「問題ないです。バルドゥルさんは、来たる日に備えて魔力を温存して下さい」

「そう言っていただけるとありがたいです。魔王の子だと知っても尚、普通の人のように接してもらえるのは本当に貴重な存在なんです」

 バルドゥルが、都に向けてにっこりと微笑む。その微笑みに胸をときめかせる都とは裏腹に、周囲の男性がまた半分いなくなった。

「アネサキさん。一緒に行動するにあたり、登録する手続きをします」

 丁寧に何でも教えてくれるなぁと思いながらバルドゥルと一緒にギルドカウンターへ行くと、残った五人も一緒に並んだ。手続きをしようとしているゼリルダが、困惑している。

「あ、あの、バルドゥル様だけでなく、後ろの方々もメンバー登録しますか」

「「「「「します!」」」」」

 異口同音。五人全てが声を揃えて返事をする。その瞬間、すぐ隣で「ちっ」と舌打ちが聞こえた気がした。ちらり、とバルドゥルを見上げれば、にこっと微笑まれる。

 笑顔なのに怖い。いや、笑顔だから怖いのか。

 都はバルドゥルからゼリルダに視線を移す。

「えっと、ミヤコさんはどうしますか? リーダーのミヤコさんが否と言えば拒否もできますが」

「わたしがリーダーなんだ? それなら、バルドゥルさん以外は拒否で」

「「「「「えっ!?」」」」」

 声が重なる。まるで拒否されるとは思っていなかった様子だ。当然のように同じチームになれると思っている五人には呆れる。

 バルドゥルと一緒に掲示板を見ようと移動し、なおも諦めずについてくる五人に苛立ちを覚え、注意する。

「あの、わたしはバルドゥルさんと組むのでついてこないでもらえますか」

「そんな顔だけの男に姐さんを取られるわけにはいかない!」

「「「「そうだ、そうだ」」」」

「そんなこと言われても、あなた方とは行けません」

 都には知られてはいけない秘密がある。戦闘方法は致し方ないとして、スマートフォンの存在は隠さないといけない。事情を知っているバルドゥル以外の人とチームを組めない。しかしそれを言えないから、もどかしい。

 どうにかして五人の人に諦めてもらえないかと考えていると、バルドゥルが耳打ちしてきた。

「アネサキさん。おれの行動に合わせて下さい」

「へっ……」

 突然聞こえた囁き。耳元で話されたものだから、思わずどきっとする。理性が追いつかないまま、バルドゥルが都の腰を抱き寄せた。

「ミヤコさん。今夜も一緒に過ごしましょうね」

「へっ……!? そ、そそそそ、そうですね! レッツ今夜もパーティーナイト!!」

 突然のアドリブを要求され、変な事を口走ってしまった。さらにはよくわからないガッツポーズもしてしまい、都は羞恥心で顔が真っ赤になる。そんな都のガッツポーズごと包み込んだバルドゥルの手が、思いの外ゴツゴツとしていてまた心音が上がった。

「ふふっ。かわいい」

「ふぉっっ」

 まるで恋人に向けるかのような蕩ける笑顔に、都の胸は異常な程熱くなる。思わず変な声が出てしまうのは、致し方ない。

 そんな都とバルドゥルの様子を見ていた五人の内、三人が姿を消した。まだ二人、残っている。そんな二人をジッと見るバルドゥル。その視線に耐えられなかった一人が、またいなくなった。

「ここまでしても、まだ粘るか……」

 どうやらバルドゥルは、都の周囲に人を置きたくないようだ。それもそうだろう。送迎官として異世界から人を招喚する身だ。特殊な力を守ることも送迎官の務めなのだろう。

(真面目だな)

 例え職務だとしても、ここは異世界。ラノベ女子の都としては、異性に守られることは嬉しかった。しかしこれ以上バルドゥルが困らないように、残った一人に誠心誠意向き合う。

「申し訳ありませんが、わたしはバルドゥルさんとしか一緒にいたくありません。他の方を当たって下さい」

 都が目を合わせて話すと、ようやくわかってくれたようだ。諦めて都から離れていった。

「お待たせしました。では、チームを組みましょうか」

 バルドゥルとのチーム登録をし、改めて掲示板を見る。今日も採集クエストをやろうかと思っていると、バルドゥルが耳打ちしてきた。

「先程は許可なく触ってしまい、申し訳ありません。お詫びをしたいのですが、クエストの前にお時間をいただけますか」

「そ、そんな。気にしないでください」

「いいえ、駄目です。本当は、歓迎した相手と深く関わらないと決めていたんです。それなのに……」

 しゅんと肩を落とす様が何だかかわいく見えて、都はそんな様子のバルドゥルに絆されてしまった。都も女性としてはかなり高身長だが、バルドゥルはさらに高い。そんな相手が肩を落とすと、まるで叱られている大型犬のように思ってしまう。

「えっと、それなら雑貨屋を紹介してもらえませんか。髪の毛を纏められないと動きづらくなると思うので」

「わかりました。ありがとうございます」

 助かった、というバルドゥルの表情を見て、やはり真面目だと思う。職務に忠実であろうとして、努力している。そんな姿勢も、好感を持った。

 ゼリルダ推薦の、ハテューマリー平原で魔物討伐のクエストを受け、雑貨屋に向かう。



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