3.17
「一つ、質問してもいいですか」
「良い」
「バルドゥルを救い出し物語が終わりました。この先は異世界から人を招喚する必要もありません。仮に、『おとつぐ』のゲームを人々の記憶から消す場合、わたしの存在はどうなりますか」
「『おとつぐ』に関係する記憶は全て消される。ゲーム自体がなかったことになるし、家族構成も変化する」
「……弟や、両親からわたしの記憶が消えるということでしょうか」
「そういうことになるな。だがもしそなたが望むのであれば、バルドゥルと共に向こうの世界へ飛ばすことも可能だ。その場合は、記憶が消されることもない」
「それなら」
「一つ。後者の場合は問題が発生する。バルドゥルは正真正銘こちらの世界の存在だ。向こうの世界で存在し続けられるかどうか、余にもわからん」
「そんな……バルドゥルが、死んじゃうってことですか」
「それはお前達次第だな。夫婦の契りを交わせば、その世界に存在が確定する」
恥ずかしげもなくさらりと告げられた話に、一瞬言葉を失う。しかし自分達の状況がわかった。今度はみこのことだ。
「わたしと一緒に、こちらの世界へ来た女の子がいます。その子は、どうなりますか」
「ふむ……。そなたが望むのであれば、その女子を向こうの世界へ送り返そう」
「そ、その、こちらの世界で生きることはできないでしょうか。その子、向こうでとても辛いことがあって戻りたくないと思うんです」
「それは本人に聞いてみないとわからないことだと思うが……その女子がこちらにいたいと望むなら、答えは同じだ。こちらの世界で夫婦の契りを結べば良い」
「それは、絶対?」
「絶対だ」
みこのことを思えば、元の世界に戻ってもこちらへ留まっても辛いことになるかもしれない。
都が悩んでいると、魔王がみこの特徴を聞いてきた。
「へっ? えっと、ふわっとした茶髪で、青いカラーコンタクトをしていますが……」
「髪が茶色で、ふわふわ。青い瞳だな。こやつか」
魔王は右手で宙に円を描く。するとそこに闇が生まれ、その中心に牢屋に入れられているみこが見えた。そうですその子です、と都が肯定すると、まるで玩具をつまみ上げるように闇の中に手を入れた。そして首根っこを掴まれた状態のみこが出てくる。
「な、なに!? なんなの!?」
「みこちゃん!」
「さき姉!?」
魔王の手から降ろされたみこは、すぐに都に駆け寄ってきた。再会できた喜びも束の間、魔王がみこに問う。
「お主は、元の世界に戻りたいか」
「元の……?」
突然の質問に、みこは戸惑っているようだ。それもそうだろう。現実の世界で嫌なことがあっても、肉親と会えなくなるなら話は別だ。
「絶対に戻りたくない、です。それにできるなら、ママに復讐したい」
みこが、握った拳を震わせる。色々と我慢しているのだろう。そんなみこに、都が優しく諭す。
「みこちゃん、そんなこと言ったらだめだよ。本当は、そんなこと少しも思っていないでしょ?」
「わ、わかってるよ。ママに見捨てられていたら、みこは生きていられなかった。でも、ママにいらない子だって言われた」
「そうだね、辛かったね。でもわたしが、みこちゃんが努力していたこと、知っているよ」
「さき姉ぇー」
都は泣きじゃくるみこを抱きしめ、背中を優しく叩く。そしてみこが落ち着く頃、みこに問う。
「みこちゃんは、こっちの世界に残る?」
「うん。さき姉は?」
「わたしも、残ろうかな。みこちゃんが心配だし、バルドゥルもいるしね」
バルドゥルと目が合い、自然と頬が緩む。




