3.16
次の瞬間には、太く捻れた一対の角が生えた男性の目の前にいた。男性は大きな玉座に座っている。急展開すぎて困惑する都は、隣のバルドゥルを見た。
バルドゥルは、跪いていた。
「父上。お久しぶりです」
「バルドゥル……よくぞ、戻った。久しぶりの再会だ。堅苦しい挨拶は良い。顔を見せてくれ」
魔王がバルドゥルに近づく。バルドゥルも背が高いが、魔王はもっと大きい。大きな体で、隣にいた都ごと抱きしめた。
「この日を、どれだけ待ちわびたことか……」
「ち、父上。苦しいです。それに、ミヤコさんを抱きしめていいのはおれだけです」
「ははっ、そうだな」
魔王は爽やかな笑い声を出し、都達から離れた。
「ミヤコ、改めて礼を言う。バルドゥルを救い出してくれてありがとう」
「い、いいえ。わたしがバルドゥルと一緒にいたかったので」
魔王と話していると、バルドゥルの方から低く唸る声がした。じっと魔王を睨みつけている。
「父上であっても、ミヤコさんの名前を呼ばないで下さい」
拗ねるように言ったバルドゥルの言葉を聞いて、ヘルルーガから聞いた話を思い出した都は思わず吹き出してしまった。
「バルドゥルと魔王様、やっぱり親子なんだね」
「バルドゥルも、立派になったな」
都と魔王の二人だけで通じ合っているかのように笑い合う。それがお気に召さないバルドゥルは、独占欲を示すかのように都を自分の背後へ移動させる。
「魔王様。わたしは、姉崎都です」
「そうか。それならこれからは、ミヤコ・アネサキ・ブルーノと名乗るが良い」
「父上……ミヤコさんとの結婚を承諾してくれるのですか」
「当たり前だろう。バルドゥルの命を救ってくれた恩人だ。それに、お前も相当気に入っているようだしな」
にやり、と魔王が笑う。バルドゥルは一瞬恥ずかしそうにするが、すぐに開き直って都を抱きしめてきた。そんなバルドゥルを、魔王は慈愛の目で見ている。
「仲が良いことは素晴らしい。して、アネサキよ。余の長年の願いは叶った。そなたの願いも叶えよう。もしこちらの世界で永住するということなら、『おとつぐ』を人々の記憶から消すことも可能だ」
「消すって、どういうことですか? というか、なぜ魔王様がゲームの略称を知っているんですか」
「何故とは。この世界は、余が作り出したものだ」
「へぇっ!?」
「うむ、驚くのも無理はない。しかし間違えてくれるな。バルドゥルを救い出すために作り出した世界観なのであって、バルドゥルが作り物ということではない」
魔王様が世界観て。
思わず心の中で突っ込みを入れてしまったが、魔王が規格外である事実が止まらない。
「複数の攻略者がいるゲームが巷で流行っているのだろう? バルドゥルを救い出す人間を捜すために、向こうの世界に干渉した」
「えっと、それは、どういう……?」
「余にとって時間と空間を操作することなど、造作も無いことだ。その過程で、向こうの世界の人間の思考をいじらせてもらった」
満面の笑みで答えてくれた。それから少し思考が停止してしまったが、ようやく脳が動き出す。




