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3.9

(なんだろう。水の音?)

 排水溝なのだから水が流れるのは当たり前だ。しかし調理場を越えてからは、体の下にうっすらと溜まっているような水しかなかった。それなのに、ゴポゴポっという音が近づいてきている。そして汚臭に慣れてしまっていた都の鼻も覚醒させるような、強烈で噎せ返るような薔薇の香りがした。

「え、薔薇って……っ!」

 水よりも先に届いた薔薇の香りを疑問に思っていたせいで、対応が遅れた。排水溝の上限に届きそうなほどの水量が一気に流れてくる。泡が混じったその水は、うっかり開いてしまっていた都の口の中にも入った。

「ぺっ、ぺっ……あぁ、もう最悪。苦っ」

 流れてきた泡入りの水を飲み込むことは避けられたが、思わず唾を吐いてもまだ口の中が苦い。今流れていった水はどこから来たのか。そんなことを思っている都の頭上が、騒がしくなってきた。まさか都の声が聞こえる範囲に人がいたのか。だとすれば見つかるのも時間の問題かもしれない。

 みこにさえ見つかっていなければ、都はモブ扱いだ。そう思ってさらに前進していたが、聞こえてきた声が現実を突きつける。

「捜して! 今、絶対にさき姉の声がした!!」

 みこに認識されるということ。それすなわち、都はこの世界の邪魔な存在ということになる。

(どうする!? ヘルルーガに招喚してもらう!?)

 ここで見つかってしまっては本末転倒だ。一度体勢を立て直そう。そう思って、ブレスレットの玉を触る。

 どれくらいで招喚されるのかと思っていたが、待っている間に頭上の騒ぎが大きくなってきた。移動しなければいけないが、玉に触れたからここを離れれば招喚されなくなってしまう。

 どうするべきか。悩んだ都は、決定的なことを思い出す。


――この腕輪は、水に浸かっていると効力を発揮しない可能性がある――


(あぁーー!! やってしまった……ヘルルーガに問題ないって豪語したのに、フラグを回収してしまった……)

 万事休す。前方から何かが迫ってくるような圧力がある。だから後方へ下がろうとするが、体勢が悪く思うように行かない。

「さき姉の荷物に気をつけて! 城を破壊する武器を持っているわ!!」

 くしゃみと一緒に、みこの金切り声が聞こえた。薔薇の香りのする泡の水とみこの様子から察するに、上は風呂場なのだろう。みこが指示を出す声と複数の人間が動く気配があるから、大浴場なのかもしれない。

 ギュムッギュムッと、前方から音が聞こえる気がする。体格が良い人間が都に迫っているのかもしれない。後方へは移動しづらい。確実に都は捕まってしまうだろう。それでも都は、諦めずに後退する。しかし努力もむなしく、前方から腕を掴まれた。

「捕まっ」

 都を捕まえた人物は攻略されるキャラクターなのかもしれない。都を捕まえることでみこから何か褒美があるのかもしれない。そんな風に思わなければ説明できないぐらい、呆れる行動をする。捕まえたと高らかに宣言して立ち上がろうとしたのか、狭い排水溝の中で頭を強打した。それはもう豪快に。

「も、もしもーし……生きてますか」

 都の手を掴んでいた人物の力は緩んでいる。だから今のうちに離れて逃げればいいのだが。目の前で意識を失っている人を放置できるなら、バルドゥルと疑似恋人を演じることもなかっただろう。

 排水溝を辿ってきた兵士に、都は捕まった。そして中華鍋も、魔封じの箱とやらに入れられてしまう。へぇ、中華鍋が動くのは魔力なのか。そんな感想を持ちながら、都は投獄されてしまった。


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