3.7
目を覚ますと、室内は真っ暗だった。確かここへ来たときにはもう少し周囲の様子がわかったはず。そう思い、都は慌ててスマートフォンを確認する。
「嘘でしょ!? 二日も経ってる!?」
日付を確認すると、都が異世界転移した日から十五日後になっていた。どう動くかも決まっていない中、何もしないまま睡眠だけに費やしてしまったのは痛い。
「いや、ここで焦ったらだめだ。まだ、十五日もあるんだから」
異世界へ転送できるのはバルドゥルと魔王だけ。バルドゥルを助け出す前に帰るなんてできず、助け出したのならバルドゥルに送ってもらいたい。
(……そもそも、帰る必要ってあるのかな)
バルドゥルへの想いを認めた今、元の世界に戻りたいかと問われると正直微妙だ。都の気持ちは伝えていない。バルドゥルのことは好きだが、年上として年下の未来を守る義務もある。バルドゥルが都と付き合いたくなければ、身を引くしかない。
(……とりあえず、わたしの気持ちは考えないようにしよう。でも伝えないままなのは絶対に後悔するから、伝えるだけ伝えて……振られたら、潔く元の世界へ帰ろう)
自分の身の振り方を考えた都は、中華鍋が入ったがま口リュックを背負う。
「まずは、バルドゥルがどんな状況なのか探ろう」
街の広場で、王族が絡んだ騒ぎを起こしたのだ。都はお尋ね者になっているだろう。街の中に味方はいない。いたとしても、巻きこむわけにはいかない。
顔を隠し、物陰に潜み、現状を探る。誰にも見つからないように気を張りながらというのは、精神的疲労が大きい。しかし三日前の騒動が嘘のように、街は「いつも通りの日常」を送っていた。広場に人が溢れて活気のある様子は、都が異世界転移してきたときと全く変わらない。
(……どういうこと?)
攻略対象者の中には、王族もいた。だから兵士が街中にうじゃうじゃいると思っていたのに。
まるで、都という存在が初めからいなかったように平和だ。
(……攻略されている四人は、わたしに尽力を注ぐよりも、みこちゃんと一緒にいたいと行動しているのかな)
この世界は、ゲームの世界だ。だから主人公がいて、主人公の行動にしか焦点が当たらない。そしてその主人公は、みこ。みこを中心に世界が回る。
都は思わず、考えてしまった内容にぞっとした。
(……わたしは一度、ヘルルーガに招喚されてこの場を離れた。「設定」によれば、バルドゥルが攻略されてしまうと、魔族に不利な状況になる。その交渉は、恐らく王様がする。主人公はしない。だから、主人公と関係ない存在は全てモブ扱いになる?)
仮説が正しければ、バルドゥルはすでにみこと恋人同士になってしまっているということになる。
(四人を攻略してからでないと、バルドゥルを狙えないって言ってた。それまでにかかった日数は十二日。三日で一人を攻略ってことになる)
都は二日も寝てしまった。そして三日目の今も、情報収集をするために時間を使ってしまっている。急がなければ、魔族にとって不利な状況になってしまう。
一瞬、バルドゥルが幸せなら良いかとも思った。しかし都と話しているときのバルドゥルは、魔族のことも人のことも思っているように感じた。そんなバルドゥルが、まるでゲームのシステムに組み込まれるように魔族のことを蔑ろにしていいはずがない。
この世界の主人公、みこに認識されなければ都はモブのまま。それならば、と、都は兵士がいない広場を堂々と突き進む。予測の通り、都は誰にも咎められないまま城に近づけた。
(……城の関係者って、どうなんだろう)
城と街を隔てる門柱の影に隠れ、入口に立つ兵士を見る。欠伸をしていて職務怠慢のような気もするが、みこの息がかかってないとは言い切れない。わざわざ異世界から招喚しているのだ。城で働く者や中枢の人物には見つからない方が無難だろう。
(となると、戻るしかないか)
城と城下街は、堀に囲まれている。橋を渡れば平民街や周囲の街へ続く。その橋の下に、排水されている場所があった。風呂が宿屋の部屋に完備されているのだ。排水設備も整っているのだろう。
念のため兵士に姿を見られないように移動し、都は一番近い橋まで移動する。今は日中のため人通りがあり、橋から降りることは難しそうだった。




