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3.6


 中華鍋が入ったがま口リュックを背負った都は、無事井戸の中へ転送された。そう、井戸の中に。

「……水瓶じゃ、そもそも人が入れないからねぇ……」

 井戸の底には、バルドゥルも利用していたかもしれない桶付きの縄が一本降りている。しかし、それだけだ。縄を掴んで両手両足を突っ張りながら登れる幅ではある。今は夜なのだろう。見上げても出口が全く見えないぐらい深い場所から登っていくのは、相当骨が折れる。

「……悩んじゃだめだ。異世界に来て身体能力も上がっていたし、登らなければ始まらない」

 パンッと両頬を叩いて気合を入れ、都は縄を登り始めた。ヘルルーガが作り出してくれたブレスレットに触らないように注意しながら、両手で縄を持つ。そして足を井戸の壁に突っ張らせようと広げた。しかし膝上の丈のワンピースは都の意思に反して捲れてしまう。

 誰かに見られているわけではない。だから人目は気にならないが、捲れることで水から伝わる冷気が寒い。寒い方が問題だろうと、都は悩むことなくスカートの横を左右に裂いた。

 足を動かしやすくなり、都は一心不乱に縄を登って地上を目指す。握力がなくなってきたら体全体で突っ張る。肩が擦れたり手の肉刺(まめ)が潰れたりと散々だったが、都はどうにか井戸の外へ出られた。外はうっすらと明るくなってきている。

 まずは着替えだと、バルドゥルを看病するときに持ってきていた服を置いてあるリビングへ行く。そしてタオルで水気を拭き取り、着替えた。

(……もう昨日の朝なのか。バルドゥルがここで寝ていたのは)

 バルドゥルを看病していたとき、都は自分の恋心に気がついた。言い訳をしたり、犬だと思おうとしたりと色々あったが、今はその気持ちを否定しない。しかし昨夜は、まだ自覚したばかりの気持ちで寝ることができなかった。

 だからだろう。その後に起きた様々なことや、井戸の中を進むために体力を使いすぎた。寝具を見ると抗いきれない眠気に襲われてしまう。

(すぐに、バルドゥルの居場所をつきとめないと、いけない、のに……)

 目を開けていられない程の激しい睡魔に負け、都はバルドゥルが寝ていた寝具に倒れ込むようにして寝てしまった。



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