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3.3

 ヘルルーガから言われ、バルドゥルが寝込んでいたとき桶はどこに置いていたかを思い出す。

(あのときはとにかく必死で……バルドゥルの額に置くタオルをすぐに変えられるように、すぐ横に……)

 かぁぁっと、都の顔が赤くなる。バルドゥルが寝込んでいることを良いことに、どうせ誰も見ていないだろうとバルドゥルの寝顔をじっと見つめていた。

「少なからず弟を想ってくれているミヤコ殿に、改めて願いたい。どうか、弟を助けてもらえないだろうか」

「それはもちろん。でも助けるって、やけに仰々しいというか……」

「助力を願うからには、ミヤコ殿にはわれら魔族の現状を伝えよう」

 ヘルルーガ曰く、魔族と人は基本的に相容れないらしい。人型の魔族は人を襲わないが、獣型は襲う。人からしたらどちらも魔族だ。だから人は魔族を憎む。

 魔物は酒場で食材として利用されているが、獣型は本能のまま生きているから討伐されているだけ。知恵をつけられれば人なんて簡単に破れる。

 そんな状態で、安寧を望む人々は魔族の頂点である魔王討伐を試みた。しかし魔王の力は強大で、何人もの勇者が剣を折った。

 そんな攻防が繰り広げられる中、人は生け贄を用意する。王族の娘、姫を魔王の妻にと献上したのだ。そうして生まれたのが、バルドゥル。

 バルドゥルから聞いていた内容を思い出せば、姫の従者は魔族を嫌っているように感じた。

「……バルドゥルのお母さんは、幸せになれなかったのかな」

「いいや? ……バルドゥルを出産して亡くなられたから、真意を知ることはできない。しかしレオナルト殿は、父と共に過ごして幸せだったと思う」

「レオナルトって、男っぽい名前なんだね」

「名前ではなく、姓だ。名を呼べるのは父だけだと注意されていたからな」

「な、なるほど。確かにその話を聞くと、仲が悪いとは思えないね」

「父はレオナルト殿を愛した。一人として同じ母の兄弟がいないほど一夫多妻制が当たり前なのに、バルドゥルが末子なのだ」

「レオナルトさんを、最後の奥さんにしたかったんだね」

「そうだと思う。そして、そこからまた人族との争いが始まった」

 バルドゥルが産まれ、魔王が息子を愛でている時間は、魔物も魔王の抑圧から解放されて暴れ回っていた。そうなると生け贄を差し出した人々は黙っていない。また魔王討伐の狼煙が上がる。

 何年も時間をかけて魔界へ到達した人々は、魔王に立ち向かう。どれだけ精鋭揃いでも、人は脆い。魔王の一振りで瀕死状態になる。

 そんな時だ。乳母に母の話を聞き、人間に興味を持っていた幼子のバルドゥルが出てきてしまった。人は魔王に敵わないが、幼子ならば話は別。御せる者もいる。

 そうしてバルドゥルは人質になってしまい、周囲で様子を窺っていた幼子たちも連れ去られてしまった。

「今、人間界で生活している子達は、皆その時に連れ去られた子達だ。魔族は人よりも寿命が長い。というより、時間の経過が遅いと言った方が的確か。だから若く見えても、長い時間を人間界で過ごしている。人に情を持つ者も多い。望めば魔界へ戻すと何度も伝えているが……」

 ヘルルーガは悔しそうに顔を歪める。そして抑えきれない怒りを表すかのように、ダンッと机を叩く。思わず都がびくつくと、深々と頭を下げた。

「すまない。驚かせてしまった」

「そんなにヘルルーガを怒らせる何かがあったんだね」


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